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歓迎 2
しおりを挟む「どうぞ、召しあがって下さい。出来あいの物ばかりで、お恥ずかしいのですが」
「あなたが、急にお客様が来るなんて言うからでしょう。全く。次は、もう少しお時間いただけたら、手料理を振る舞いますわ」
奥さんも戻って来た。
手に持った盆には、追加の瓶ビールと急須。
それをテーブルの端に置くと、村長の隣に座り、会話に加わった。
ははは、と終始和やかな雰囲気、の筈なのだが、岬の緊張は解けない。
楠木が、目だけで食べるな、と訴えてくるからだ。
当の楠木は、何か明確な意思を持って、食べるものと食べないものを、より分けているようだった。
岬は、食べるフリをして、ハンカチを置いた膝の上に落としている。
細身なので、食が細いと言えば、誤魔化せるだろう。
だが、楠木は普通体型。食べないのは、不自然だった。
こんな所で事を荒立てるのは、得策ではない。だから、細心の注意を払って食べているのだろう、と見えない岬は推理していた。
しかし、村長は健啖家だった。
これだけの量、ほとんど一人で食べきったと言っても過言ではない。
やはり、この量は少し多いぐらいでしかなかったようだ。
時間が経ち、二人があまり食べないまま、もう入らないですと断った後、もったい無いからと全て平らげてしまう程であった。
それには、普通に二人はヒいていた。
その後、風呂に入るよう促され、服も浴衣に着替えさせられ、ふかふかの布団が用意された部屋に案内された。
はたから見たら、至れり尽くせりであった。旅館のようなもてなしだとすら岬は思った。
楠木は、普段通りのようであったが、ふとキョロキョロと辺りを見回していたので、岬にはわからない何かが見えているようだ。
岬だって、ある程度存在が強いものを、視る訓練をしたが、楠木にはかなわない。
「……楠木さん。オレ、一回車に戻るよ。連絡来てないか、確認してくる」
楠木は、さっさと布団に横になっている。思い切りが良いのか、気にしてないのか。
岬がそう言うと、
「ああ、気を付けて。壁に耳あり障子に目ありだよ」
楠木はそう言うと、目を閉じた。
わかってる、とだけ呟き、岬はそっと部屋を出て行った。暗い、知らない家ではあるが、だいたいの方向はわかる。
記憶と、だいたいの目星をつけて、岬は玄関に向かった。
岬が出て行った後、楠木はどうやらいつの間にか眠っていたようだった。
嫌な、夢を見た。
本当に嫌な夢だったのだが、ハッと目覚めた時には、何を見たのか忘れていた。
心臓が、寝起きだというのにバクバクしている。
少し気持ちを落ち着けるように、再び目を閉じる。深呼吸を何度かして、目を開ける。
周りが明るくなっているのを確認して、ようよう上体を起こした。
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