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14.新パーティ、結成

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 一生懸命、アレスの後を追うが、後ろ姿すら見えない。
 あの村から、魔王のダンジョンに行くにはどこを通るのが最短距離なのか、考えて後を追っているが、なかなか追いつけなかった。わかりやすい勇者の恰好をしているので、情報収集は楽なのだが、既に出て行った後ばかり。そもそもあいつ強いから、街道を遣わず森を突っ切って行ってるとしか思えない。だとしたら、オレじゃあ追いつけない。

 最後まで諦めず、途中で魔物に襲われたり冒険者に追いはぎされそうになったりしながらも、オレは頑張って追いかけていた。
 だが。



「……あれ。あんた、この間、勇者様のパーティ追い出されて泣きながら村を出て行った人じゃないかね」

 泣いてない。断じて泣いてない。この村人に言っても仕方ないことだろうが、マジで泣いてない。

 結局、最終の村まで戻ってきてしまった。
 ここなら必ず立ち寄るだろうから、追いつけるかと思ったが、無理だった。 
 少し気まずいが、情報収集しなければ。この人は、少し気の毒そうにオレを見ているから、色々教えてくれるかもしれない。

「いや、ちょっと勇者に用事があって。勇者は、戻ってきましたか?」

 オレの質問に、村人は怪訝そうな顔をしたが、頷いた。

「ああ。なんでかわからないが、一旦出て行ったけど、また戻ってきて、さっき出て行ったよ。せわしない事だ」
「さっき?!」

 悔しいが、迫ってはいたのだ。
 ああ、でも。どうしよう、ここで渡せなかったら、この先、どうやって行けば良いんだ。

「勇者様に用事なら、ほら、あんたは嫌だろうが、村長の家に、あんたを追い出したあのおっかない美人さんが居るよ」
「えっ? あの、美女三人、居るんですか? この村に?」

 オレの驚きに、村人は複雑そうな顔で頷いた。

「ああ、そだよ。なんでだか、勇者様一人で行っちまったよ」

 村人に詳しい事を聞くのは無理だろう。
 教えてくれた人に礼を言い、村長の家を教えてもらって、急いで向かった。






「メルク!」
「あんた、なんでいるの?!」
「まぁ、どうしましたの!」

 村長の家を訪ねると、三人が出迎えてくれた。三人とも、変わらず美しく、特に傷ついたりしてない事に、ホッとした。
 急な来訪だったが、村長は快くオレを招き入れてくれて、三人と話す事ができた。

「あの、話すと色々あれなんだけど、アレスと……和解したんだ。で、戦いが終わったら、二人で故郷の村を再興させようって話してて、待つつもりだったんだけど……これ」

 色々はしょりながら、向かい合っている三人の前に、ボロ布に包まれた剣を置く。
 やはりというか、一番に反応したのは、僧侶のエレフィーナだった。

「めっ、メルク、まさか、これっ」

 恐る恐る手を伸ばすエレフィーナに、頷く。そして、二人にもわかるように、ボロ布をとる。二人も流石に気づいたようだった。

「これ、聖剣じゃないのっ。なんで、メルクが持ってるの?」
「あ、ちょっと待って。怖かったから良く見てなかったけど、確かに、勇者、剣持ってなかったような」
「なんでその時に言わないんですのっ」
「言えたら言ってたわよっ」
「まあまあ、二人とも。しょうがないよ、なんでか、あの時の勇者殺気立ってたし」

 女性三人が言い合う。
 と、いう事は、一応みんなの顔見て行ったんだな、アレス。で、多分聞く事だけ聞いて、一人で行ったんだろう。

「それで、あの、三人にお願いがあるんだけど」

 三人には悪いが、この村に残っていたのは、オレにとっては幸運だった。
 オレの言葉に、ピタッと言い合いを止めて振り向いた、緑の、紺色の、薄茶の、それぞれの瞳がオレを心配そうに見ている。
 なんでこんなに良い人達を、アレスは遠ざけようとするんだろうか。

「三人さえもしよければ、これを、アレスの所に届けるの、手伝って欲しいんだ。オレ一人じゃあ、魔王城まで辿りつけない。アレスを追いかけられない。役立たずだし、足手まといなのはわかってるけど、でも、これはどうしてもアレスに必要だと思うんだっ。だから、オレに、力を貸してください!」

 ガバッと頭を下げる。

 沈黙が流れる。

 やっぱり、オレなんかに力を貸すのは、嫌だろうか。少しだけ泣きそうになりながら、もう一度お願いだと頭をあげようとした時。
 ひそひそとした声が、聞こえた。

「メルクが居るなら、大丈夫なんじゃないの」
「う~ん、でも私はあんまり乗り気しないなあ。だって、勇者が来るなって言ったのよ?」
「で、でも、わたくし達は、人々の希望を背負ってここまできたのですし、勇者だけに背負わせて良いものなのでしょうか」
「……正直、勇者が魔王を倒した事がわかった時に、私達がこの村で何もしていないのが王国にバレたら、それはそれで立場がまずくなると思う」
「私は構わないけれど、二人はそうでしょうね。……仕方ないんじゃないの」
「ええ、そうですわ。わたくし達も、何かお手伝いできることがあるなら、成し遂げなければ。困っている人には、手を差し伸べるべきですわ」
「相も変わらず、理想主義者ね。でも、そうね。ここでこうやって腐っていても、仕方ないもの」

 三人の話がまとまったのを見計らって、顔を上げる。ちょっとくらっとしたけど、三人は、真面目な顔でオレを見ていた。……美女三人に見つめられる経験無いから、ちょっと照れてしまった。
 三人の中でもリーダー格の女騎士ミーナが、まっすぐオレを見ながら頷いた。

「わかった。私達は、一度は貴方をパーティから追い出してしまったけれど、今この危機に、過去の事は洗い流し、再び手を取り合いましょう」

 そう言って、手を差し出す。訓練して、鍛えてきた手だった。追い出して欲しいと言ったのは、オレだった。三人はオレを助けてくれたのに、今また、新たに助けて欲しいと願っている。オレが返せるものなんて、何もないのに。少しだけ躊躇しながらも、ミーナの手を取った。

「お固いわね、ミーナ。戻ってきてくれてありがとう、また一緒に行きましょう。で良いんじゃないの」

 そんなオレの後悔が伝わったのか、いつも以上に気楽に魔法使いのアンリが言ってくれる。

「そうですわ。困った方を助けるのが、神殿の理念ですもの。それが、世界の命運を握っているのなら、なおさら、わたくし達にも関係無い話ではありませんもの」

 エレフィーナも、助け船を出してくれる。
 オレは、三人の優しさに、目頭が熱くなった。

「あっ、ありが、とう。三人ともっ、オレ、オレ……ッ」

 感極まって泣きそうになりながらお礼を言うと、なぜかミーナが慌てた。

「まって、メルク、泣かないでっ。こんな所見られたら、後で勇者になんて言われるかっ」
「へっ?」
「あなたを泣かせるものを、決して生かしておかないって決めてるらしいのよ、勇者。だから、感謝だとしても、泣かないでっ、お願いっ」

 ミーナの必死の懇願に、オレ達は顔を見合わせて、苦笑するしかできなかった。



 旅支度をしながら、三人に今までの経緯を聞いてみた。

 三人は、村に戻ってきた勇者に突然、何点か質問され、それに答えた後、

『君たちは足手まといだから、ここに残っていていい。オレ一人の方が確実だから』

 と言われたらしい。そんな事言われたこともない三人は反論も出来ず、動くこともできず、ただ村に居て勇者が帰ってくるのを待つ事しかできなかったらしい。
 そんな時に来たオレは、三人にとっても恰好の言い訳だった。
 というわけで。
 オレと三人の利害が一致し、めでたく、

 ”勇者が忘れた聖剣を魔王城まで届けに行くパーティ”、が結成されたのであった。



 ……しまらないな、このパーティ名。
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