102 / 118
最終決戦 ー黒き瞳は、彩りの力を見るー
しおりを挟む
少しだけ焦ったようだったが、紫は再び黒い水滴を操った。
正面が駄目なら、今度は上からだと、まるで滝のようにまとまって黒い雨を降らせた。
アマネは今度は、
「白虎さん、力を貸してください」
そう呟く。すると、先ほどの緑と同じように、今度は白い光の玉がひと際輝き、急に突発的な大風が吹いた。それはつむじ風となり、竜巻となり、黒い雨を巻き込み、紫に向かっていった。
咄嗟の大風で体勢を崩された紫だったが、堕ちたりする事は無かった。しかし黒い雨は、紫にも牙を剥くようだった。しんどそうに肩で息をする。
「ほんに癪に障ること……どうやって妖どもの力を使っているか存じませんが、いつまでも防戦一方では、わたくしには勝てませんわよ!」
まるで、朱雀と戦った時の事を思い出す。
誰かを傷つける覚悟なんて、アマネにはできない。
だからこそ。
自分がしたい事をアマネはもう、知っている。
「貴女とは戦いません! 言ったでしょう、助けに来たって! 貴女のその感情を、憎悪を煽っているのは、その悲鳴なんですっ。貴女が取り込んでしまった、金卯さんの嘆きなんです! だから! もう、その力を手放してください!」
アマネの言葉に、紫はわなわなと口を震わせ、肩を怒らせ、言葉にならない言葉を金切り声として発した。
怒り狂ったような紫は、出鱈目に大きな黒い弾丸を幾つも作り、アマネに向けて放った。それは、この辺り一帯の黒雲と雨を取り込みつくられた大砲で、雨が、止んでいた。
「炎陽さん、丹羽、力を貸して」
アマネがそう呟くと、赤と朱色の光の玉はアマネの背後にまわり、それぞれ美しい輝く羽根となった。
二人のような立派な羽根が生えた事を確認すると、アマネはその羽根を羽ばたかせ、軽やかに大砲のような黒い球を避けた。
時に優雅に、時に素早く、迫り来る幾つもの黒い球を避けアマネは紫に近づいた。
彼らの羽根は素晴らしく速く、紫が異変に気づいた時にはもう、手が触れる所だった。
「いや!」
バチン! と、電気が走ったように、アマネは紫の前からはじかれた。急いで体勢を整える。
紫は信じられない、という顔でアマネを見た。
「な、な、何をするの!」
非難されたアマネは、それでもしっかりと紫を見据える。
「貴女と話しがしたいんです」
「今してるでしょう!」
「もっとです。楽しかった事とか、辛かった事とか、怒った事とか、幸せだった事とか昔の事とか、いっぱい、いっぱいお話ししたいです。貴女の気持ちを、教えてください」
驚愕。いや紫の表情は、驚愕を超えて呆然としていた。
今まで、おそらくかけられたことのない言葉、行動。
一瞬あまりの事に固まった紫だったが、すぐにハッとして、怒った顔をした。
「う、う、うるさい! うるさいうるさいうるさい! お前と話す事など何もない! 死ね!」
最初から受け入れられるとは思っていない。自分もそうだったのだ。アマネは、出鱈目に飛んでくる雨粒を避けながら、根気よく紫に話しかけ続ける。
「それでも。僕は、貴女と話しがしたいです。ごめんなさい。僕は、遠見を使って貴女の過去を見てしまいました。……貴女も傷ついた人だったんですね」
紫の瞳のどろりとした暗闇が、少しずつ薄れてきていた。紫は気づいていないが、アマネには見えていた。
あの黒い雲から雨を降らせるのを止め、アマネに攻撃を、意識を向けた時から、アマネと不本意ながら会話をしている内に、だんだんと濁りが薄れていったのだ。
「傷ついたですって? ええそうよ、わたくしを傷つけた者は全て死ぬべきなのよ!」
口調も、あの揺らいだ自我から元のしっかりとした口調に戻り始めている。きつい言葉は、紫の本音だからなのかもしれない。
「貴女は、何に傷ついたのですか?」
黒い雨の塊を避け、アマネは飛び続ける。紫との距離を一定に保ちながら、声をかけ続ける。
「何に?! 見たのならわかるでしょう! わたくしの瞳を奪ったことよ! 今ではもう、こんな偽物でしか見る事も出来ない!」
「貴女の瞳は、美しい紫色だったんですね」
「そうよ! それを、それを!」
紫の顔が、怒りながら泣きそうになっていた。
「瞳を取られて、自分の誇りを、自信を失ってしまったような気がしたのですか。それとも、その瞳が無ければ、自分は価値の無い人だと思ってしまったんですか?」
アマネの言葉に、紫が動揺したのがわかった。一瞬の後、今までよりもより激しい弾丸が数多飛んできた。
アマネは一旦引き下がり、体勢を整えた。そして再び、怒り狂っている紫に近づく。
もはや、言葉もなくアマネを睨みつける紫。
だがそれは裏返せば、図星をつかれた、という事を態度で示しているという事で。
アマネは、変わらない穏やかな口調で、話かけ続ける。
「貴女は、瞳が無くても、ここまで立派にやってこれた。瞳にこだわるのには、何か理由があるのではないのですか」
憎悪を込めた紫の暗い瞳は、気が弱い頃のアマネなら逃げ出してしまいそうな程だ。
だが、今のアマネは、逃げない。無意識に、茶色の光の玉を撫でていた。
「お前に何がわかる! わかるものかっ、栄光を約束されていた者が落ちぶれていく事がどれほど惨めで、苦しい事か!」
紫の怨嗟に応じて、再び瞳の濁りが深くなっていく。
だがもう、黒い雨は、降っていない。全てアマネに向かっている。
「だけど貴女は這い上がった! 助けを求めてただ泣いていたのに。それはとんでもなく凄い事だと、僕は思います。誰でもできる事じゃない。僕は、出来なかったっ」
アマネの叫びに、紫も叫び返す。
「当たり前よ! わたくし以外に誰が出来るというの! 親を殺し、民を騙し、兄を唆す大罪をやってのけた者が、他にいて?!」
「貴女は、お父さんに言われた事が、本当に悲しかったんだね」
「は?」
正面が駄目なら、今度は上からだと、まるで滝のようにまとまって黒い雨を降らせた。
アマネは今度は、
「白虎さん、力を貸してください」
そう呟く。すると、先ほどの緑と同じように、今度は白い光の玉がひと際輝き、急に突発的な大風が吹いた。それはつむじ風となり、竜巻となり、黒い雨を巻き込み、紫に向かっていった。
咄嗟の大風で体勢を崩された紫だったが、堕ちたりする事は無かった。しかし黒い雨は、紫にも牙を剥くようだった。しんどそうに肩で息をする。
「ほんに癪に障ること……どうやって妖どもの力を使っているか存じませんが、いつまでも防戦一方では、わたくしには勝てませんわよ!」
まるで、朱雀と戦った時の事を思い出す。
誰かを傷つける覚悟なんて、アマネにはできない。
だからこそ。
自分がしたい事をアマネはもう、知っている。
「貴女とは戦いません! 言ったでしょう、助けに来たって! 貴女のその感情を、憎悪を煽っているのは、その悲鳴なんですっ。貴女が取り込んでしまった、金卯さんの嘆きなんです! だから! もう、その力を手放してください!」
アマネの言葉に、紫はわなわなと口を震わせ、肩を怒らせ、言葉にならない言葉を金切り声として発した。
怒り狂ったような紫は、出鱈目に大きな黒い弾丸を幾つも作り、アマネに向けて放った。それは、この辺り一帯の黒雲と雨を取り込みつくられた大砲で、雨が、止んでいた。
「炎陽さん、丹羽、力を貸して」
アマネがそう呟くと、赤と朱色の光の玉はアマネの背後にまわり、それぞれ美しい輝く羽根となった。
二人のような立派な羽根が生えた事を確認すると、アマネはその羽根を羽ばたかせ、軽やかに大砲のような黒い球を避けた。
時に優雅に、時に素早く、迫り来る幾つもの黒い球を避けアマネは紫に近づいた。
彼らの羽根は素晴らしく速く、紫が異変に気づいた時にはもう、手が触れる所だった。
「いや!」
バチン! と、電気が走ったように、アマネは紫の前からはじかれた。急いで体勢を整える。
紫は信じられない、という顔でアマネを見た。
「な、な、何をするの!」
非難されたアマネは、それでもしっかりと紫を見据える。
「貴女と話しがしたいんです」
「今してるでしょう!」
「もっとです。楽しかった事とか、辛かった事とか、怒った事とか、幸せだった事とか昔の事とか、いっぱい、いっぱいお話ししたいです。貴女の気持ちを、教えてください」
驚愕。いや紫の表情は、驚愕を超えて呆然としていた。
今まで、おそらくかけられたことのない言葉、行動。
一瞬あまりの事に固まった紫だったが、すぐにハッとして、怒った顔をした。
「う、う、うるさい! うるさいうるさいうるさい! お前と話す事など何もない! 死ね!」
最初から受け入れられるとは思っていない。自分もそうだったのだ。アマネは、出鱈目に飛んでくる雨粒を避けながら、根気よく紫に話しかけ続ける。
「それでも。僕は、貴女と話しがしたいです。ごめんなさい。僕は、遠見を使って貴女の過去を見てしまいました。……貴女も傷ついた人だったんですね」
紫の瞳のどろりとした暗闇が、少しずつ薄れてきていた。紫は気づいていないが、アマネには見えていた。
あの黒い雲から雨を降らせるのを止め、アマネに攻撃を、意識を向けた時から、アマネと不本意ながら会話をしている内に、だんだんと濁りが薄れていったのだ。
「傷ついたですって? ええそうよ、わたくしを傷つけた者は全て死ぬべきなのよ!」
口調も、あの揺らいだ自我から元のしっかりとした口調に戻り始めている。きつい言葉は、紫の本音だからなのかもしれない。
「貴女は、何に傷ついたのですか?」
黒い雨の塊を避け、アマネは飛び続ける。紫との距離を一定に保ちながら、声をかけ続ける。
「何に?! 見たのならわかるでしょう! わたくしの瞳を奪ったことよ! 今ではもう、こんな偽物でしか見る事も出来ない!」
「貴女の瞳は、美しい紫色だったんですね」
「そうよ! それを、それを!」
紫の顔が、怒りながら泣きそうになっていた。
「瞳を取られて、自分の誇りを、自信を失ってしまったような気がしたのですか。それとも、その瞳が無ければ、自分は価値の無い人だと思ってしまったんですか?」
アマネの言葉に、紫が動揺したのがわかった。一瞬の後、今までよりもより激しい弾丸が数多飛んできた。
アマネは一旦引き下がり、体勢を整えた。そして再び、怒り狂っている紫に近づく。
もはや、言葉もなくアマネを睨みつける紫。
だがそれは裏返せば、図星をつかれた、という事を態度で示しているという事で。
アマネは、変わらない穏やかな口調で、話かけ続ける。
「貴女は、瞳が無くても、ここまで立派にやってこれた。瞳にこだわるのには、何か理由があるのではないのですか」
憎悪を込めた紫の暗い瞳は、気が弱い頃のアマネなら逃げ出してしまいそうな程だ。
だが、今のアマネは、逃げない。無意識に、茶色の光の玉を撫でていた。
「お前に何がわかる! わかるものかっ、栄光を約束されていた者が落ちぶれていく事がどれほど惨めで、苦しい事か!」
紫の怨嗟に応じて、再び瞳の濁りが深くなっていく。
だがもう、黒い雨は、降っていない。全てアマネに向かっている。
「だけど貴女は這い上がった! 助けを求めてただ泣いていたのに。それはとんでもなく凄い事だと、僕は思います。誰でもできる事じゃない。僕は、出来なかったっ」
アマネの叫びに、紫も叫び返す。
「当たり前よ! わたくし以外に誰が出来るというの! 親を殺し、民を騙し、兄を唆す大罪をやってのけた者が、他にいて?!」
「貴女は、お父さんに言われた事が、本当に悲しかったんだね」
「は?」
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします
muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。
非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。
両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。
そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。
非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。
※全年齢向け作品です。
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
転生したら乙女ゲームの攻略対象者!?攻略されるのが嫌なので女装をしたら、ヒロインそっちのけで口説かれてるんですけど…
リンゴリラ
BL
病弱だった男子高校生。
乙女ゲームあと一歩でクリアというところで寿命が尽きた。
(あぁ、死ぬんだ、自分。……せめて…ハッピーエンドを迎えたかった…)
次に目を開けたとき、そこにあるのは自分のではない体があり…
前世やっていた乙女ゲームの攻略対象者、『ジュン・テイジャー』に転生していた…
そうして…攻略対象者=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた自分があの甘い言葉を吐けるわけもなく。
それならば、ただのモブになるために!!この顔面を隠すために女装をしちゃいましょう。
じゃあ、ヒロインは王子や暗殺者やらまぁ他の攻略対象者にお任せしちゃいましょう。
ん…?いや待って!!ヒロインは自分じゃないからね!?
※ただいま修正につき、全てを非公開にしてから1話ずつ投稿をしております
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
初めての友達は神様でした!~神様はなんでもありのチートです~
荷居人(にいと)
BL
親は俺が生まれてすぐ他界し、親戚にはたらい回しされ、どこの学校に行っても孤立し、ひどいといじめにあう毎日。
会話なんてろくにしたことがない俺はコミュ障で、周囲を見ては友達がほしいとそう思った。
友達がいれば世界は変わるのではないだろうか、時に助け合い、共通の会話を楽しみ、悩みを相談し、何かあれば慰め合うなど、きっと心強いに違いない。
親戚の家では携帯どころか、パソコンはあってもいんたーねっとすら使わせてもらえないのでネット友達もできない。
だからもしクラスメイトから盗み聞きしていたなんでも願いが叶うならどうする?と言う話題に、友達がほしいなと俺なら答える。
しかしその日、盗み聞きをした罰だろうか、赤信号を走ってきたトラックに引かれ、俺は死んだ。
まさか、死んだことでぼっち人生がなくなるとは思ってもいなかった。
「あー、僕神様ね。質問は聞かない。間違えて君殺しちゃったんだよね。悪いとは思わないけど?神の失敗はお詫びする決まりだから、あの世界で生き返る以外なら1つなんでも叶えてあげる。」
「と、友達になってください!」
「は?」
思わず叫んだ願い事。もし叶うなら死んでよかったとすら思う願い事。だって初めて友達ができるかもしれないんだよ?
友達になれるなら神様にだってお願いするさ!
進めば進むほどBL染みてきたのでファンタジーからBL変更。腐脳はどうしてもBL気味になる様子。でもソフトBLなので、エロを求める方はお引き取りを。
とりあえず完結。別作品にて転生後話公開中!元神様はスライム転生!?~世界に一匹だけの最強のスライムに俺は召喚された~をよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる