漆黒の瞳は何を見る

灯璃

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方術師は学者でもある

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 次の日。

 朝食後に、みつひが呼びに来た。今日はさっそく、昨日二人が言っていたように青海という人に教えてもらいに行くそうだ。手配が早い。

 二人と一羽は歩き出す。
 アマネ達が通された建物とはまた違う場所にあるらしく、昨日入ってきた場所に靴が揃えて置いてあった。ただのスニーカーだが、ここの人達の靴は堅そうだった。

 そのまま建物の外に出て、昨日の広場を横目に見ながら建物の角を曲がる。そのまま建物沿いに歩いていくと、木造だが大きく豪華な建物が一つと、幾つかの控え目な建物がちらほら立っていた。大きな建物の裏手側に通された建物があったようだ。そして、アマネから見ると奥の方に、あの大きく赤い鳥居があった。神社のような配置だな、となんとなく思う。

 突然、ジャリという音がした。音に驚いて下を見ると、白い玉砂利が敷き詰めてあるようだった。突然土から砂利になっていた。そういえば昔、防犯対策に砂利が良いと聞いた事があるが、そういう為のものだろうか。見栄えだろうか。
 そんな事を考えながら、ほぼ無意識にヒヨを撫でていると、人通りが出て来た。
 みな、アマネと同じようなゆったりとした衣を着ている。中には袖口と足元を絞っている人もいて、なるほどこの紐はその為にあったのか、などと小さな発見をしていた。



 そして、ようやく。

「こちらが、方術師ほうじゅつしの方々が務める場所、方術寮ほうじゅつりょうでございます」

 立ち止まったみつひの言葉に、その建物を見る。他と同じような木造の建物だったが、ここは珍しく二階建て、いや一番上は三階だろうか、小さな窓が見えた。

「もし。どなたか、寮長へのお取次ぎをお願いいたします」

 ぽかんとアマネがその建物を見上げている間にも、みつひが事を進めていた。
 少し待っていると、ようやく。

「みつひ殿、お待たせいたしました」
 
 昨日の、青海と呼ばれた青色の男性が出て来た。日の光の下で見ると、不健康そうさがより際立つ。不健康というか、眠れていないのだろうか、綺麗な青い目の下にはクマがある。

「宮様からお話はお聞きですか」
「はい。聞き及んでおります。こちらへどうぞ」

 みつひの言葉に、青海はすっと身体をずらし建物に入るように促した。

「それでは、また夕刻にお迎えにあがります。それでは」

 みつひはそう言うとさっさと立ち去って行ってしまった。
 アマネは礼を言い損ねたな、と思いながらも、青海を見る。青海は、入らないのか、という目をしていたので素直にその木造の建物の中に入っていった。




 中は、煩雑としていた。
 数人の人が巻物を抱えて行きかったり、何かを探していたり、書き物をしていた。

「申し訳ありません。騒がしい所で。こちらに」

 アマネがキョロキョロしていると、少しも申し訳なくなさそうに青海はそう言って、素気ない板戸を引いた。
 中には、巻物と収める為の棚、よくわからない地球儀のような物や、見た事もない小物が沢山置かれていた。異国の学者の部屋のようだ、とアマネは思った。

「狭苦しい場所で申し訳ありませんが、余分な部屋が私の室しかありません。我慢ならないようでしたら、宮様に言えば場所ぐらいなら貸していただけるでしょう。ですが、ここがこの世を知りたいというのなら、此処が一番良い場所かと」

 青海はあまり表情の読み取れない、済ました顔でそう言いながら、中央にある大きな机の上を片付けていた。含みがあるな、と思いながらもアマネは素直に頷く。
 
「こちらで、大丈夫です」

 アマネの言葉に少しだけ頷いて、青海は机を回り込んで、アマネの対面に立つ。

「どうぞ」

 アマネの目の前には、椅子があった。昨日の建物では見なかった家具だ。驚きながらもアマネは、正座や胡坐じゃなくて正直助かった、と思いながら素直に椅子に座った。それを見て、青海は少しだけ目を細めたが、静かに対面にある椅子に座った。

「それでは。改めまして、私はこの方術寮の長をしております、青海と申します」
「イスミです。忙しいのに、すみません。よろしくお願いします」

 青海が頭を下げたので、アマネも同じように頭を下げた。頭を上げると、少し驚いたような顔の青海と目が合った。何も言われなかった。

「それで……漆黒しっこくきみは、何をお知りになりたいのですか」

 気に入っているのだろうか、その漆黒の君という呼び方。アマネは何故だかわからないちょっとした恥ずかしさを押し殺して、口を開いた。

「できうる限り、全てを。僕の覚えている世界とここは、似ている部分と全く違う部分があって、正直戸惑っています。おひい様と話していて、ますますわからない事がいっぱいで。生活様式とか食事とか、こういう服なんかはまだ理解できるんです。だから、妖、という存在と、僕を連れてきたという、御柱様という存在、怨霊。この辺りを教えて欲しいです」

 おひい様達との会話で出て来た、聞きなれない単語たち。
 青海は、ふむと言って顎に手を当てた。そして、横にずらした巻物を二、三個手に取って広げた。

「そうですね。君の疑問は、大きな一つの事象の中にあると思います。まずは、神話から語りましょうか」
「神話ですか?」

 アマネが驚いた声を上げると、青海は至極真面目な顔で、頷いた。
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