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ごめんね

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「……来た時の事、ゴメンね。その、今までの事も、失礼だったよね」
「えっ?」

 いきなりの龍士郎からの謝罪に、慧は戸惑った。

「あの……」
「最初は、ちょっと、軽い気持ちでやってたんだけど、その、君がそういうのに慣れてなそうで、悪い事したなって」

 こんな風に言われて、謝られて、どうしたら良いのかわからない。慧は返答に困ってしまって、龍士郎を見る事しかできなかった。今度は、龍士郎が慧を見れずに、少し俯いていた。自身の性的なプライバシーをやんわり言及され、嫌なハズなのに、ちゃんと謝ろうとしている龍士郎に、そうは言えなかった。sub的には、男性で言えば童貞、女性で言えば処女だろ、と言われたようなものなのに、だ。

「その、いつかも言ったと思うけど、割とあれな人達と関わる事が多くて、そういう人達ってコマンド入れると喜ぶから、なるべく好意を持たれないよう、どんな人か探ろうとしてしまう、みたいなんだ。君にするつもりは無かったんだけど、その癖が出てたみたいで、その、本当にゴメン」

 慧は、驚きのあまり目をぱちくりさせることしかできなかった。domは、subに命令したい生き物で、命令することも、ましてや信頼関係のないsubがコマンドを受けてもこれっぽちも悪いと思わない生き物なのだ、とばかり思っていた。だが、それがどうだ。目の前のdom性を持つ青年は、この冴えない、何の特別でもないただのsub性をもつ男に、謝罪をした。
 大した事じゃない。これよりもっと酷い事をされたり、言われたが、なんの謝罪も無かった。大した事じゃない、よくある事だ、と、そう自分に言い聞かせていた。
 だのに。

「っつ」

 この人は、真摯に謝る。
 それは、おそらく、自分が一番求めていたもので。

 ドキドキドキドキ。

 慧は、胸がいっぱいになって、詰まってしまったようだった。言葉が、出て、来ない。
 その行為が、言葉が、一人の人間として扱ってくれているようで、どれだけ慧の心を満たしたか、龍士郎にはわからないだろう。

「慧くん?」

 反応の無い慧に痺れを切らして、龍士郎が顔を上げ、首を傾げる。

「っ、あ、いいえ、いや、はい。すみません、今日は、失礼しますっ」
「えっ? ちょ、慧くん」

 どうして良いのかわからなくなり、慧はバッと咄嗟に立ち上がり、顔を隠して逃げ出すように龍士郎の部屋を後にした。
 そのまま、乱暴にまとめていた仕事道具をひっつかみ、速足で龍士郎のマンションを後にした。
 残された龍士郎は、いったい何が起こったのかわからず、一人、部屋の真ん中で棒立ちする事しか、できなかった。





 会社に戻った慧は、おばちゃん達が心配そうに声をかけてくるのを最低限返し、逃げ帰るように会社も後にした。
 ただひたすら、頭と心が、混乱していた。
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