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お前の話を聞いてやる
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司に、改まって呼ばれる。
怖い予感がする。聞いてはいけない、予感が。
逃れようと手を引っ込めようとしたが、司の手はびくともしない。
「お願い、大和。今だけでいいから。オレの話を、聞いて」
急に、切羽詰まったように、泣きそうに言うからつい、反射的に司を見てしまった。
だって、可哀想だろ。こんなに真剣な顔してるのに逃げるなんて、オレには出来るわけなかった。
胸の鼓動がうるさい。静まれ、オレの心臓。
司がオレの両手を少し震える手で包み込んだまま、仕切り直すように大きく息を吸い、吐いた。そしてオレを、キリッとした真剣な顔で見た。
ああ、やっぱりこいつ格好いいわ。
「早乙女 大和さん。オレ、キミの事が、好きです」
「……えっ」
もっと絶望的な事を言われるんだと、無意識に思っていた。なのに、司の口から出た言葉は、信じられないもので。
夢でも、見ているのか?
オレが反応できずにいると、キリッとした眉を下げてとたんに悲しそうな顔になる司。
「ごめん、大和、気持ち悪いよな。でもオレ、大和からの答えなら何でも受け入れるから」
言葉、何か、言葉をかけないと。
「そ、れは……友達として、とかだろ」
そう、そうだ。好きにも色々あるもんな。
だが、オレの言葉に司は明確に首を横に振った。手の熱が、伝わってくる。
「違う。……ちょっと長くなるけど、オレの話、聞いてくれる?」
司の、その泣きそうな真剣な声に、オレは握られた手を見つめたまま、頷く事しかできなかった。
「覚えてるかわからないけどさ、前に、大和と学校でメシ食った時、オレ、ちょっと強引に教室出て行った事あっただろ?」
すごく、真面目そうな顔で落ち着いて言われたので、ちょっとだけ頷く。
忘れもしない。
あの司の行動のせい、いやおかげか、おかげではじめての発情期に薬が間に合ったのだから。ワキガだと思って絶望を味わいもしたけど。
顔を上げると、今度は司がさらに頬を染めて、照れくさそうに視線を逸らした。
「あの時その……、大和の首筋からなんかすっげー良い匂いがしてさ、オレ、なんでだか急に勃っちゃったんだよ。結構ガチのやつ。で、なんでかって考えてみても、理由なんて大和と一緒に居た事ぐらいしか思いつかなかったし。オレ、ついに女の子がダメになったから、大和で抜いちゃったんだって……。大和の事確かに好きだったけど、そこまで見境なくなったのかって、自分にショック受けた。すごい罪悪感と後悔があってさ。これがバレたら、気持ち悪いって思われてもう友達でいられなくなるかもしれないって、怖くなった。
だけど、土曜日に病院行くってメールきたから、思わず心配になってメールしたら、普通に風邪引いたって返してくれたし、ああバレてなかったんだなって。良かったってホッとしてたら、大和、その後からオレの事避けだしただろ」
「えっ、と……」
司の言葉にハッとした。
司も、周りにオメガいなかったせいで、あれがオメガのフェロモンだったって、気づいてないんだ。そのせいで、誘惑されたって事も。
司は何も悪くないのに。司が悩む必要なんて無かったのに。それでも、本当の事を言い出せない、弱虫なオレ。
オレの曖昧な態度に、頬を染めたイケメン顔が急にぐにゃっと崩れ、泣きそうに眉を下げる。
「大和に、オレが変なのがバレたんだって思ったけど、会ったら普通に接してくれるし。避けられてる理由がソレじゃないなら何でって、オレもムキになって近寄ったら、やっぱり、どうしても大和の事、そういう目で追っかける自分がいて」
それはオレが発情期だったからで……。
でも、今ここで司の話を遮るのは、なんだかしてはいけない気がして、口が開けなかった。
司の唇は震え、その少しタレぎみの目がジワッと潤む。
ああ、泣き虫つっくんだ。やっぱり卒業してなかったじゃないか。
「もし本当に、オレが大和にそういう好意を寄せてしまったら、大和困るだろうなって。ベータの人って男性同士に偏見強いじゃん。だから、オレが大和の事そういう意味で好きだってバレたら、きっと気持ち悪いって思われるって、怖かった。それなら、大和とずっと一緒に、一番の親友でいれるように、バレないように頑張って黙ってようって思ってたんだ」
ああ。オレたち、考える事は一緒だったんだな。
親友、の位置を手放せなくて、身動きがとれなくなった。
司の必死の告白を、震える手に包まれながら、聞く。
罪悪感が、どんどん募る。
「でも、日に日に大和への気持ちは募っていく一方で。ある日突然バレたら、どうしたら良いんだろうっていつも考えてた。オレ、つい大和には甘えちゃうからさ。
どうしても、この気持ちに整理がつかないからどうしようも無くなって、だから、オメガの高木先輩に試させて貰おうって思ったんだ。発情期終わった結構後なら万が一も無いだろうから待ってさ。
それで、やっぱりオメガもダメで、ベータの大和にそういった感情を持ち続けるなら、それはもう、オレがおかしいんだって。ずっと幼馴染で、親友で、大好きだった大和を、そういう目で見てしまうオレが異常なんだって、覚悟した」
高木先輩への最低発言が、ここに繋がってくるなんて、思いもしなかった。
でも。
それは違うんだよ、司が傷つく必要なんて、覚悟する必要なんて、なかったのに。
「つかさ」
「でも、高木先輩に叱られて、嫌って程思い知らされたよ」
オレはそれを否定しようと口を開いたが、司の言葉に遮られて、それは言えなかった。
司は潤んだ目はそのままに、苦笑する。
オレのせいもあるとはいえ、やっぱりあの最低発言は怒られてしかるべきだし高木先輩流石すぎる。
「なんて、言われたの?」
オレからのはじめての明確な言葉に、司はちょっとビクッとした後、泣きそうな顔のまま、綺麗に微笑んだ。
「アルファのくせに、オメガがただの男に見えるっていうなら、ベータと何が違うんだよ。じゃあ逆に、オメガは良くてベータがダメな理由って何、同じ男だぜって」
案外男らしいよな、とその綺麗な微笑みをオレに向ける。
夕日の、オレンジ色の光が、司を柔らかく照らす。
オレの目がおかしいわけじゃなければ、司が、キラキラ輝いて見えた。
怖い予感がする。聞いてはいけない、予感が。
逃れようと手を引っ込めようとしたが、司の手はびくともしない。
「お願い、大和。今だけでいいから。オレの話を、聞いて」
急に、切羽詰まったように、泣きそうに言うからつい、反射的に司を見てしまった。
だって、可哀想だろ。こんなに真剣な顔してるのに逃げるなんて、オレには出来るわけなかった。
胸の鼓動がうるさい。静まれ、オレの心臓。
司がオレの両手を少し震える手で包み込んだまま、仕切り直すように大きく息を吸い、吐いた。そしてオレを、キリッとした真剣な顔で見た。
ああ、やっぱりこいつ格好いいわ。
「早乙女 大和さん。オレ、キミの事が、好きです」
「……えっ」
もっと絶望的な事を言われるんだと、無意識に思っていた。なのに、司の口から出た言葉は、信じられないもので。
夢でも、見ているのか?
オレが反応できずにいると、キリッとした眉を下げてとたんに悲しそうな顔になる司。
「ごめん、大和、気持ち悪いよな。でもオレ、大和からの答えなら何でも受け入れるから」
言葉、何か、言葉をかけないと。
「そ、れは……友達として、とかだろ」
そう、そうだ。好きにも色々あるもんな。
だが、オレの言葉に司は明確に首を横に振った。手の熱が、伝わってくる。
「違う。……ちょっと長くなるけど、オレの話、聞いてくれる?」
司の、その泣きそうな真剣な声に、オレは握られた手を見つめたまま、頷く事しかできなかった。
「覚えてるかわからないけどさ、前に、大和と学校でメシ食った時、オレ、ちょっと強引に教室出て行った事あっただろ?」
すごく、真面目そうな顔で落ち着いて言われたので、ちょっとだけ頷く。
忘れもしない。
あの司の行動のせい、いやおかげか、おかげではじめての発情期に薬が間に合ったのだから。ワキガだと思って絶望を味わいもしたけど。
顔を上げると、今度は司がさらに頬を染めて、照れくさそうに視線を逸らした。
「あの時その……、大和の首筋からなんかすっげー良い匂いがしてさ、オレ、なんでだか急に勃っちゃったんだよ。結構ガチのやつ。で、なんでかって考えてみても、理由なんて大和と一緒に居た事ぐらいしか思いつかなかったし。オレ、ついに女の子がダメになったから、大和で抜いちゃったんだって……。大和の事確かに好きだったけど、そこまで見境なくなったのかって、自分にショック受けた。すごい罪悪感と後悔があってさ。これがバレたら、気持ち悪いって思われてもう友達でいられなくなるかもしれないって、怖くなった。
だけど、土曜日に病院行くってメールきたから、思わず心配になってメールしたら、普通に風邪引いたって返してくれたし、ああバレてなかったんだなって。良かったってホッとしてたら、大和、その後からオレの事避けだしただろ」
「えっ、と……」
司の言葉にハッとした。
司も、周りにオメガいなかったせいで、あれがオメガのフェロモンだったって、気づいてないんだ。そのせいで、誘惑されたって事も。
司は何も悪くないのに。司が悩む必要なんて無かったのに。それでも、本当の事を言い出せない、弱虫なオレ。
オレの曖昧な態度に、頬を染めたイケメン顔が急にぐにゃっと崩れ、泣きそうに眉を下げる。
「大和に、オレが変なのがバレたんだって思ったけど、会ったら普通に接してくれるし。避けられてる理由がソレじゃないなら何でって、オレもムキになって近寄ったら、やっぱり、どうしても大和の事、そういう目で追っかける自分がいて」
それはオレが発情期だったからで……。
でも、今ここで司の話を遮るのは、なんだかしてはいけない気がして、口が開けなかった。
司の唇は震え、その少しタレぎみの目がジワッと潤む。
ああ、泣き虫つっくんだ。やっぱり卒業してなかったじゃないか。
「もし本当に、オレが大和にそういう好意を寄せてしまったら、大和困るだろうなって。ベータの人って男性同士に偏見強いじゃん。だから、オレが大和の事そういう意味で好きだってバレたら、きっと気持ち悪いって思われるって、怖かった。それなら、大和とずっと一緒に、一番の親友でいれるように、バレないように頑張って黙ってようって思ってたんだ」
ああ。オレたち、考える事は一緒だったんだな。
親友、の位置を手放せなくて、身動きがとれなくなった。
司の必死の告白を、震える手に包まれながら、聞く。
罪悪感が、どんどん募る。
「でも、日に日に大和への気持ちは募っていく一方で。ある日突然バレたら、どうしたら良いんだろうっていつも考えてた。オレ、つい大和には甘えちゃうからさ。
どうしても、この気持ちに整理がつかないからどうしようも無くなって、だから、オメガの高木先輩に試させて貰おうって思ったんだ。発情期終わった結構後なら万が一も無いだろうから待ってさ。
それで、やっぱりオメガもダメで、ベータの大和にそういった感情を持ち続けるなら、それはもう、オレがおかしいんだって。ずっと幼馴染で、親友で、大好きだった大和を、そういう目で見てしまうオレが異常なんだって、覚悟した」
高木先輩への最低発言が、ここに繋がってくるなんて、思いもしなかった。
でも。
それは違うんだよ、司が傷つく必要なんて、覚悟する必要なんて、なかったのに。
「つかさ」
「でも、高木先輩に叱られて、嫌って程思い知らされたよ」
オレはそれを否定しようと口を開いたが、司の言葉に遮られて、それは言えなかった。
司は潤んだ目はそのままに、苦笑する。
オレのせいもあるとはいえ、やっぱりあの最低発言は怒られてしかるべきだし高木先輩流石すぎる。
「なんて、言われたの?」
オレからのはじめての明確な言葉に、司はちょっとビクッとした後、泣きそうな顔のまま、綺麗に微笑んだ。
「アルファのくせに、オメガがただの男に見えるっていうなら、ベータと何が違うんだよ。じゃあ逆に、オメガは良くてベータがダメな理由って何、同じ男だぜって」
案外男らしいよな、とその綺麗な微笑みをオレに向ける。
夕日の、オレンジ色の光が、司を柔らかく照らす。
オレの目がおかしいわけじゃなければ、司が、キラキラ輝いて見えた。
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