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想い と 想い
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「その言葉でハッとしてさ。アルファなんだから、オメガや女の子じゃないとダメだって思い込んでたけど、結局女の子がダメで、オメガも男に見えるなら、もうベータを選んじゃいけない理由なんて無いなって。
大和を、特別だと思っちゃいけない理由なんて、無かったんだって。大和も前に言ってくれただろ、オレのやりたいようにやれば良いって。だから、大和に、この気持ちを告白しようと思ったんだ。本当に、大和の事が大切だから。黙って隣に居続ける事なんて、できないから」
震えていた唇をきゅっと結び、司はまた顔をあげて、泣きそうな顔でオレをみつめる。
「オレの事、気持ち悪いって思ってかまわない。だから、大和の口から、大和自身の答えを教えて? どんな答えでもオレ、受け入れるよ」
司が喋る度に、言葉が脳に降り注ぐ毎に、オレの涙腺は壊されていってたらしい。
司がキラキラして見えると思っていたら、頬に、水の感触がした。
「つかさ……」
限界だった。
オレの涙腺は決壊し、次から次に、大粒の涙が重力に従ってボロボロと流れ落ちて行く。昨日も結構泣いたのに、どこにこんなに水があったのだろう。
「大和、ごめん。泣くほど気持ち悪かった? ごめんね……」
焦ったような司の声とともに、オレの手を包んでいた手が、スッと離れていった。ので、今度はオレから追いかけてその手を掴み、首をぶんぶんと横に振った。
「ち、ちが、うんだ。司、オレ、オレ……」
オレの声も手も震えてるけど、掴んだ司の手も震えてる。右手だけ外して、ゴシゴシ涙と鼻水を袖で拭う。
「……司、ごめん。オレ、オメガなんだ。だから……だから、今までお前が感じて、戸惑って、悩んでた事は全部、全部オレのせいなんだ。オレが発情期だったから、オレのフェロモンにあてられただけなんだよ。ごめん。今まで黙ってて、本当に、ごめん」
嗚咽が、漏れる。
司の悩みはおそらく、はじめてオメガのフェロモンにあてられた事からきている。全部、全部気のせいで、オメガだって言ってちゃんと遠ざけなかった、オレが悪いんだ。
司の告白に、もしかしたらと一瞬天に昇るような気持ちだったが、中身を開けてみたら、それは失恋と変わりなくて。いつも司の失恋話を聞いていたのに、逆転してしまったな、なんて。
司に何度も謝っていると、また、ギュッと手を握られた。今度は、痛いぐらいに強く。
「違うから!」
強い口調で否定の言葉が返ってきて、思わず司を見た。司は、今度こそ本当に、泣きそうに顔を歪ませて、オレを必死に見ていた。
「確かに、確かに今大和がオメガだって聞いて、めちゃくちゃ驚いたよ。発情期のフェロモンって聞いて、そうか、って思った部分もある。だけど! オレの、大和が好きだって気持ちを、お前の事を考えて、悩みぬいた期間を、気のせいや思い違いだったなんて、お前が、お前自身が、否定しないで」
ボロボロと、司の目からも涙が流れ落ちた。司は、涙すらも綺麗で。
「大和にオメガだって言われた今も、ベータのままでも、オレの心は変わらない。大和、お前の事が好きなんだ。最初に言った言葉も全部本当。ずっとずっと前からそう想ってた。でも、好きだって自覚しちゃいけないって、どこか無意識にブレーキかけてた。だけどそれでも、辛くても苦しくても、大和の事を考えずにはいられなかったから、ここまできたんだ」
司が、オレへの言葉をおしみなく降らせてくる。
「ねえ、大和。オレはさ、オメガのフェロモンぐらいで、そいつの事好きになっちゃいそうな奴に見える? はじめて発情期のオメガのフェロモンを嗅いで、そんな気分になったりもするんだろう。アルファだし仕方ない本能だ。でもそんな事だけで、大和の事を好きになったなんて、あんなに悩んで落ち込んだなんて、思われたくないよ……。ねぇ大和。オレ、そんなに信用ない?」
司の言葉が、オレの心に降り積もる。
涙をこぼしながらも、首を横に振った。
だけど。だけど。だって。
「大和からはね、何年も前から微かに何か良い匂いがしてたよ。でもベータだって信じて疑わなかったから、変わった香水か、体臭なんだなって思ってた。大和らしい、隣でずっと嗅いでいたくなるような良い匂いだ。それが多分、オメガの匂いだったんだね。気付かないように無自覚に蓋をしてた。大和の匂いも、オレ、好きだよ」
司が。
司が、オレを好きだって、言葉を重ねてゆく。
それぐらい今のオレでもわかる。
わかるけど。けど、もう、自分がどうしたいのかわからない。
信じるのが怖くて否定したいのか、それでもなお、信じたいのか。
「つかさ」
司を呼んでも仕方ないのに。助けを求める相手を、間違っているのに。
それでもなお呼んでしまうのは、やっぱり司で。
「大和。ねえ、大和。オレの今の気持ち、わかる? 大和にずっと言いたかった事言えて、ちょっとホッとしてるんだ。アルファとベータじゃなくて、オメガでもなくて、オレとお前で話がしたかったから。最悪、気持ち悪いって言われて帰られるかなって思ってた」
自分も涙を流しながら、オレに言葉をかけ続ける司。
一生懸命涙をこらえながら、笑ってそう言う司に、
「オレも、そんな奴に見えるか。お前の、一番の味方でいるって言っただろ」
そう、泣いて震える声だったけど、何とか笑って言えただろうか。
「知ってた。大和が良い奴だってこと、知ってたよ」
「そうだろ」
お互い、涙でぐしゃぐしゃになっているのに、無理してでも笑う。
もう一回、乱暴に顔面を拭い、大きく深呼吸した。
泣きすぎて、息をするのにも肺が震えた。
司を見ずに、視線を逸らして、震える唇を開く。
「……オレ、ずっとお前の事、諦めなきゃいけないって思ってた。だって、お前なら誰だって選びたい放題だし、オレなんかを選ぶ理由なんて、ない。だから、ずっと司の横に居るには、親友、で居続けるしかないって、オレも覚悟してたんだ」
自嘲するように苦笑すると、司は、驚いたような声をあげた。
「大和、うそっ……ほんと?」
「ああ。みんな、お前に恋せずにはいられないんだよ。だって、お前良い奴だもん。オレも例外じゃない。オレの方こそ、ずっと親友でやってきて、女の子大好きだって知ってるのに男から好意を寄せられるなんて、気持ち悪いって思われるって思ってた。だから、諦めようって頑張ってたのに」
頑張ってたのに。本人がぶち壊しにくるなんて、思わないじゃないか。
「なあ、司。お前のその気持ちが、はじめてオメガのフェロモンをかいだから、ちょっとそういう気分になってる、だけじゃないって信じて良いのか」
「当たり前だろ!」
オレの弱々しい言葉に、司はすぐ強い否定を口にした。
「何年一緒に居ると思ってんだよ。なあ、わからない? オレが今考えてる事」
涙で歪んだ視界で、司を見る。
歪んだ視界でも、わかった。
司は、オレを、見ている。まっすぐに。オレだけを。
「オレのこと……?」
「正解! わかってんじゃん。さすが大和」
嬉しそうに笑う司に、なんだか、肺から重たい空気が抜けたようだった。大きく息を吐く。
「大和。もう一回、いや、何度でも言うよ。大和の事が、好きです。返事を、聞かせて」
泣いてボロボロのくせに、急にキリッとした顔をしたと思ったら、真剣な表情でオレを見つめる司。
鼓動が早鐘を打って、身体全体がほてる。高熱が出てる時みたいだ。
「オレで、いいの」
オレがそう呟くと、司は驚いたように目を開き、そして、泣き笑いのようにへにゃりと笑った。
「大和が良いんだよ! ううん、大和じゃなきゃダメだ」
その笑顔が眩しくて見れない。
胸がキューンってして、ぎゅーって締め付けられる。
「……司。オレ、ずっと、ずっとお前に憧れてたんだ。お前の事本当に好きだったから、お前が誰を相手に選んでも祝福しようって、親友でいようって、決めて。ほんとに苦しかった」
「わかるよ。オレも、同じだったもん」
泣き笑いの顔のまま、司が言う。
あぁ、司。
お前にも、そんな辛い日があったの。あんなに胸を締め付けられる痛みを、知っているの。
ずっと、オレだけが好きなんだって思ってた。
でも。
それを、司を、信じていいの?
……いや。
信じるよ。
お前の事、ずっと幼馴染で、親友で、一番近くにいたから、お前の言葉を信じるよ。
たとえ、別れる日が来てしまうかもしれなくても。
「つかさ。オレも、司の事が好きです。親友としてじゃなくて、オメガとしてでもなくて、オレっていう個人を、お前の隣に居させて」
「大和! 当たり前だろ! 今も昔もこれからも、オレの隣はずっと大和だけだ!」
司がバッと立ち上がったかと思うと、机を挟んで、抱きしめられた。
あの夜のような、一瞬のハグじゃない。
明確な意思を持った、オレへの、抱擁。触れた所から熱が伝わってくる。司の早い鼓動が伝わってくる。
おずおずと司の背中に腕を伸ばして、オレも司を抱きしめた。
昔よりずっと逞しくなった身体。司のかすかな匂いに包まれる。
あぁ、愛おしい司。
やっと、やっと、触れられた。
身体も、心も。
少し、司が身体を引く。
なんだろうと思って、オレも腕を緩める。
司を見上げると、何とも言えないうっとりとした表情を浮かべていた。
司からの匂いが強くなる。
爽やかで甘い……藤のような匂いだ。
たまに司からしていた良い匂いの正体。
今ならわかる。
これが司の、アルファとしての匂いだ。オレを惹きつけ、離れられなくさせる、愛さずにはいられない、匂いだ。
うっとりした司の顔がだんだん下りてきて、ドアップになる。
そして、
「あ」
柔らかいものが唇に触れた。唇と唇。
司と、キス、したんだ。
司は照れくさそうに、でも本当に幸せそうな顔で、すっと離れていった。
ああ。
今、この最高の一瞬さえあれば、もう大丈夫。
ありがとう、司。
この先、道が違えたとしても、お前の事、”愛”していけるよ。
少し笑ったら、涙がこぼれた。
でも、今更だろう。
大和を、特別だと思っちゃいけない理由なんて、無かったんだって。大和も前に言ってくれただろ、オレのやりたいようにやれば良いって。だから、大和に、この気持ちを告白しようと思ったんだ。本当に、大和の事が大切だから。黙って隣に居続ける事なんて、できないから」
震えていた唇をきゅっと結び、司はまた顔をあげて、泣きそうな顔でオレをみつめる。
「オレの事、気持ち悪いって思ってかまわない。だから、大和の口から、大和自身の答えを教えて? どんな答えでもオレ、受け入れるよ」
司が喋る度に、言葉が脳に降り注ぐ毎に、オレの涙腺は壊されていってたらしい。
司がキラキラして見えると思っていたら、頬に、水の感触がした。
「つかさ……」
限界だった。
オレの涙腺は決壊し、次から次に、大粒の涙が重力に従ってボロボロと流れ落ちて行く。昨日も結構泣いたのに、どこにこんなに水があったのだろう。
「大和、ごめん。泣くほど気持ち悪かった? ごめんね……」
焦ったような司の声とともに、オレの手を包んでいた手が、スッと離れていった。ので、今度はオレから追いかけてその手を掴み、首をぶんぶんと横に振った。
「ち、ちが、うんだ。司、オレ、オレ……」
オレの声も手も震えてるけど、掴んだ司の手も震えてる。右手だけ外して、ゴシゴシ涙と鼻水を袖で拭う。
「……司、ごめん。オレ、オメガなんだ。だから……だから、今までお前が感じて、戸惑って、悩んでた事は全部、全部オレのせいなんだ。オレが発情期だったから、オレのフェロモンにあてられただけなんだよ。ごめん。今まで黙ってて、本当に、ごめん」
嗚咽が、漏れる。
司の悩みはおそらく、はじめてオメガのフェロモンにあてられた事からきている。全部、全部気のせいで、オメガだって言ってちゃんと遠ざけなかった、オレが悪いんだ。
司の告白に、もしかしたらと一瞬天に昇るような気持ちだったが、中身を開けてみたら、それは失恋と変わりなくて。いつも司の失恋話を聞いていたのに、逆転してしまったな、なんて。
司に何度も謝っていると、また、ギュッと手を握られた。今度は、痛いぐらいに強く。
「違うから!」
強い口調で否定の言葉が返ってきて、思わず司を見た。司は、今度こそ本当に、泣きそうに顔を歪ませて、オレを必死に見ていた。
「確かに、確かに今大和がオメガだって聞いて、めちゃくちゃ驚いたよ。発情期のフェロモンって聞いて、そうか、って思った部分もある。だけど! オレの、大和が好きだって気持ちを、お前の事を考えて、悩みぬいた期間を、気のせいや思い違いだったなんて、お前が、お前自身が、否定しないで」
ボロボロと、司の目からも涙が流れ落ちた。司は、涙すらも綺麗で。
「大和にオメガだって言われた今も、ベータのままでも、オレの心は変わらない。大和、お前の事が好きなんだ。最初に言った言葉も全部本当。ずっとずっと前からそう想ってた。でも、好きだって自覚しちゃいけないって、どこか無意識にブレーキかけてた。だけどそれでも、辛くても苦しくても、大和の事を考えずにはいられなかったから、ここまできたんだ」
司が、オレへの言葉をおしみなく降らせてくる。
「ねえ、大和。オレはさ、オメガのフェロモンぐらいで、そいつの事好きになっちゃいそうな奴に見える? はじめて発情期のオメガのフェロモンを嗅いで、そんな気分になったりもするんだろう。アルファだし仕方ない本能だ。でもそんな事だけで、大和の事を好きになったなんて、あんなに悩んで落ち込んだなんて、思われたくないよ……。ねぇ大和。オレ、そんなに信用ない?」
司の言葉が、オレの心に降り積もる。
涙をこぼしながらも、首を横に振った。
だけど。だけど。だって。
「大和からはね、何年も前から微かに何か良い匂いがしてたよ。でもベータだって信じて疑わなかったから、変わった香水か、体臭なんだなって思ってた。大和らしい、隣でずっと嗅いでいたくなるような良い匂いだ。それが多分、オメガの匂いだったんだね。気付かないように無自覚に蓋をしてた。大和の匂いも、オレ、好きだよ」
司が。
司が、オレを好きだって、言葉を重ねてゆく。
それぐらい今のオレでもわかる。
わかるけど。けど、もう、自分がどうしたいのかわからない。
信じるのが怖くて否定したいのか、それでもなお、信じたいのか。
「つかさ」
司を呼んでも仕方ないのに。助けを求める相手を、間違っているのに。
それでもなお呼んでしまうのは、やっぱり司で。
「大和。ねえ、大和。オレの今の気持ち、わかる? 大和にずっと言いたかった事言えて、ちょっとホッとしてるんだ。アルファとベータじゃなくて、オメガでもなくて、オレとお前で話がしたかったから。最悪、気持ち悪いって言われて帰られるかなって思ってた」
自分も涙を流しながら、オレに言葉をかけ続ける司。
一生懸命涙をこらえながら、笑ってそう言う司に、
「オレも、そんな奴に見えるか。お前の、一番の味方でいるって言っただろ」
そう、泣いて震える声だったけど、何とか笑って言えただろうか。
「知ってた。大和が良い奴だってこと、知ってたよ」
「そうだろ」
お互い、涙でぐしゃぐしゃになっているのに、無理してでも笑う。
もう一回、乱暴に顔面を拭い、大きく深呼吸した。
泣きすぎて、息をするのにも肺が震えた。
司を見ずに、視線を逸らして、震える唇を開く。
「……オレ、ずっとお前の事、諦めなきゃいけないって思ってた。だって、お前なら誰だって選びたい放題だし、オレなんかを選ぶ理由なんて、ない。だから、ずっと司の横に居るには、親友、で居続けるしかないって、オレも覚悟してたんだ」
自嘲するように苦笑すると、司は、驚いたような声をあげた。
「大和、うそっ……ほんと?」
「ああ。みんな、お前に恋せずにはいられないんだよ。だって、お前良い奴だもん。オレも例外じゃない。オレの方こそ、ずっと親友でやってきて、女の子大好きだって知ってるのに男から好意を寄せられるなんて、気持ち悪いって思われるって思ってた。だから、諦めようって頑張ってたのに」
頑張ってたのに。本人がぶち壊しにくるなんて、思わないじゃないか。
「なあ、司。お前のその気持ちが、はじめてオメガのフェロモンをかいだから、ちょっとそういう気分になってる、だけじゃないって信じて良いのか」
「当たり前だろ!」
オレの弱々しい言葉に、司はすぐ強い否定を口にした。
「何年一緒に居ると思ってんだよ。なあ、わからない? オレが今考えてる事」
涙で歪んだ視界で、司を見る。
歪んだ視界でも、わかった。
司は、オレを、見ている。まっすぐに。オレだけを。
「オレのこと……?」
「正解! わかってんじゃん。さすが大和」
嬉しそうに笑う司に、なんだか、肺から重たい空気が抜けたようだった。大きく息を吐く。
「大和。もう一回、いや、何度でも言うよ。大和の事が、好きです。返事を、聞かせて」
泣いてボロボロのくせに、急にキリッとした顔をしたと思ったら、真剣な表情でオレを見つめる司。
鼓動が早鐘を打って、身体全体がほてる。高熱が出てる時みたいだ。
「オレで、いいの」
オレがそう呟くと、司は驚いたように目を開き、そして、泣き笑いのようにへにゃりと笑った。
「大和が良いんだよ! ううん、大和じゃなきゃダメだ」
その笑顔が眩しくて見れない。
胸がキューンってして、ぎゅーって締め付けられる。
「……司。オレ、ずっと、ずっとお前に憧れてたんだ。お前の事本当に好きだったから、お前が誰を相手に選んでも祝福しようって、親友でいようって、決めて。ほんとに苦しかった」
「わかるよ。オレも、同じだったもん」
泣き笑いの顔のまま、司が言う。
あぁ、司。
お前にも、そんな辛い日があったの。あんなに胸を締め付けられる痛みを、知っているの。
ずっと、オレだけが好きなんだって思ってた。
でも。
それを、司を、信じていいの?
……いや。
信じるよ。
お前の事、ずっと幼馴染で、親友で、一番近くにいたから、お前の言葉を信じるよ。
たとえ、別れる日が来てしまうかもしれなくても。
「つかさ。オレも、司の事が好きです。親友としてじゃなくて、オメガとしてでもなくて、オレっていう個人を、お前の隣に居させて」
「大和! 当たり前だろ! 今も昔もこれからも、オレの隣はずっと大和だけだ!」
司がバッと立ち上がったかと思うと、机を挟んで、抱きしめられた。
あの夜のような、一瞬のハグじゃない。
明確な意思を持った、オレへの、抱擁。触れた所から熱が伝わってくる。司の早い鼓動が伝わってくる。
おずおずと司の背中に腕を伸ばして、オレも司を抱きしめた。
昔よりずっと逞しくなった身体。司のかすかな匂いに包まれる。
あぁ、愛おしい司。
やっと、やっと、触れられた。
身体も、心も。
少し、司が身体を引く。
なんだろうと思って、オレも腕を緩める。
司を見上げると、何とも言えないうっとりとした表情を浮かべていた。
司からの匂いが強くなる。
爽やかで甘い……藤のような匂いだ。
たまに司からしていた良い匂いの正体。
今ならわかる。
これが司の、アルファとしての匂いだ。オレを惹きつけ、離れられなくさせる、愛さずにはいられない、匂いだ。
うっとりした司の顔がだんだん下りてきて、ドアップになる。
そして、
「あ」
柔らかいものが唇に触れた。唇と唇。
司と、キス、したんだ。
司は照れくさそうに、でも本当に幸せそうな顔で、すっと離れていった。
ああ。
今、この最高の一瞬さえあれば、もう大丈夫。
ありがとう、司。
この先、道が違えたとしても、お前の事、”愛”していけるよ。
少し笑ったら、涙がこぼれた。
でも、今更だろう。
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