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昼休みのオレ
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次の日も、その次の日も、うまいこと司をかわしながら学校に行った。
いや、かわすといっても、朝はいつもより少し早めに登校し、昼休みは保健室へ避難、放課後もさっさと帰るというぐらいだった。だが、司には全く会わなかったのだ。
人気者の司クンが放っておかれるなんて事そうそう無いからな。ここぞとばかりにアピールしている女子もいる事だろう。
……胸の奥か痛い気がするが、気のせいだと思う。うん。そもそも避けてるの、オレだし、胸が痛いとか言う資格なんてないし。
そうこうしていたら、金曜日になっていた。
抑制剤も残り少なくなり、発情期の終わりを感じる。もう、ほとんど普通に生活できている、と思う。明日は、午前中におじいちゃん先生の診察があるけど、午後から予定無いし、司誘ってどこか遊びに行こうかな。最近、勝手に避けたりして悪い事したもんな。あっ、でも、もう彼女作っちゃったかな……。
胸の奥がツキリとしたが、発情期が終わったからこれぐらいですんだんだ。きっとそう。また、フラれたって言いにくる時にはきっと元通りのはず……オレ、こんなに性格悪かったっけ。
一人、溜息がもれる。
こんな事してても、だめだな。
オレはいつも通り朝早くから教室についていたので、スマホを取り出して、司にメールした。
『おはよ。司、明日の午後ってひま? ようやく風邪完全になおったから、どっか遊びに行こうぜ。あ、でも、彼女できたんなら気にしないでな』
昼ぐらいには返事が返ってくるだろう。そうのんきに構えて、ようやく普通に見れるようになったゲームの攻略情報を見ていた。やり込みコンプした人まだでてきてないから、頑張ってみようかなあ。
オレが画面を見ていると、メールの通知が来た。司からだった。あいつ、歩きながらスマホしてるのか? 危ないな。なんて思いながらも少しニヤついている自分に気づいてしまった。
『おはよー、やっとなおったか!長かったなぁ。明日大丈夫。オレ、見たい映画あるんだよね』
文面から伝わる、司の嬉しそうな顔に、また机に突っ伏してしまった。いや、まだ、まだ発情期だし。絶対そうだし。
『心配かけて悪かったな。その映画、おごらせてもらうぜ』
しばらく深呼吸してメールを返すと、また速攻で返事が返ってきた。
『やったー。大和ふとっぱらーだいすきー!』
ああもう。なんだよこいつ、こいつなんなんだよ。無自覚でやってるの、もはやムカつくレベルなんだけど!
ニヤニヤした顔が戻らなくて、顔を正面に上げられない。胸がドクドクいってる。
見たい映画を、女子とのデートじゃなくて、オレと行きたいって言ってくれたのが。友人としてでも、冗談だとしても、だいすきなんて言ってくれたのが、こんなにも嬉しくて……辛いなんて。知らない方が良かったな。
オレはスマホを伏せて、ホームルームまで顔を上げる事ができなかった。
昼休みに入ってすぐだった。
今日は保健室に行こうかどうか迷っていたら、担任の先生に職員室に呼ばれた。
最近、休んでるが大丈夫か、とかそれぐらいの話。がついでで、本題は、放課後に生徒会にいくつか書類を持って行ってほしいというものだった。提出しないといけない書類を、学級委員長がまだ出してない上に、インターハイの合宿に行ってしまって居ないのを忘れていたそうだ。どっちもうっかりすぎない?
でもオレのクラス、帰宅部、オレだけなんだよな。断れる理由もなく、はあ、とだけ曖昧に頷いたら決まっていた。
面倒な事になったが、仕方ない。さっさとこの話終わらせないと、昼飯もまだ食べてないんだ。
先生に軽くごめんなと言われて、ようやく解放された。
職員室も保健室も、教室からちょっと遠いんだよな。
溜息を吐きながら自分の教室に戻る。いつもよりにぎやかな気がするなあ、そんな風にぼんやり思いながらドアの外から教室の中を見ると、
「へー、土岐くんテニスもできるんだぁ」
「すごーい!」
「いや、できるって程じゃ……」
「女テニの子が言ってたよ。この前、男テニのエースと良い勝負したんでしょっ」
「なにそれ、めっちゃかっこいいじゃん!」
「あはは……たまたまだよ。向こうが手を抜いてくれただけで」
「土岐くん謙遜しすぎだよー」
司の周りに女子が四、五人いて、きゃいきゃいしながら弁当を食べていた……オレの机を取り囲んで。
すっと物音を立てずドアから離れて、とりあえずトイレに向かう。
どうしよう。
あんなに女子が群がってたら、ごめんって言っても鞄から弁当取り出せそうにないし、下手したら一緒に食べよなんて言われるかもしれない。いや、どう考えても無理だろ。ムリムリしんどすぎる。
健全な男子高校なので、お腹は減っている。だが、精神的苦痛を負ってまで腹に詰め込みたいかといわれると、ぎりぎりノーだ。
そうだ、購買にパン買いに行こう。
ようやくそれに思い至って、ぼんやり流しっぱなしだった蛇口をひねる。顔を上げると、鏡には酷い顔が映っていた。オレ、こんな絶望してそうな顔してたのか。良かった、誰もこなくて。パンパンと軽く頬を叩いて気合を入れる。
昼休みの時間は有限だ。
手を拭き急いで一階にある購買所に向かうと、購買の机の上はすっからかんだった。
呆然。
購買があるのは知っていたが、母ちゃんの弁当だけで過ごしていたので、こんなにも売れているなんて知らなかったのだ。
「あら、あんた遅かったね。最後の一つを、さっきあの子が買っていったよ」
「え?」
オレの様子に苦笑しながら、おばちゃんが指さした先にいたのは。
「高木先輩?」
後ろ姿でもわかる。あの美人さは。
思わず呼んでしまったような形になって、その人影はオレを振り向いた。
「……ああ、きみか。なに、ご飯忘れたの?」
手には、うぐいすパン。……いや、人の好みは色々だから何も言うつもりないけど、意外、だった。
「いえ、持ってきたんですが……その」
オレが言い難そうにしているのに気づいたのだろうか、ふぅんと高木先輩は言って、顎でくいっと外の廊下を示した。ついて来いって事かな。そう思ってトテトテと小走りで近寄ると、苦笑された。
「きみね、不用心すぎじゃない。まあいいけど。面白そうな話なら、このパンをあげてもいいよ」
くくっと魔性の笑みで笑われると、ひぇってなる。美人は、性別を超えるのか。いや同じ性別だった。
購買からそのまま一緒に外の廊下に出る。
旧体育館につながっているだけなので、放課後にならないと人通りはほとんどない。高木先輩、こういう人目につかなさそうな所知ってるなんて、さすがだな。
外の廊下に出ると、高木先輩は廊下と外を隔てている板に軽く寄りかかり、オレをたる。
「で、何かあったの?」
オレは先輩の目の前で、苦笑するしかなかった。
「いや、あの、昼休みすぐに先生に呼ばれて職員室に行ったんです。で、帰ってきたらオレの机の周りに司のハーレムができてて、お弁当、取りに行く勇気がでなかったんです」
と、ここでハッと気づく。司って言ってもわからないか。
「あの、司っていうのは」
「知ってるよ。二年の土岐だろ。うちの学校でアルファって噂されてるやつだ」
オレが説明する前に、高木先輩がニヤっとしながらそう言った。そうか、司、最近高木先輩に連絡先聞かれたとか言ってたよな。ズンと胸が重くなった。なんでだろ。
「えっと」
「そういえばこの間、土岐は嫌だって言ってたね。なに、どんな関係?」
高木先輩は、なおも楽しそうにニヤニヤしながら、オレに聞いてくる。オレは高木先輩からちょっと目線を外した。
「どんなって、別に。幼馴染です。昔から知ってる奴で」
へえー、とここ最近で一番興味深そうに、高木先輩が声を上げる。
「きみが土岐と幼馴染、ねえ。意外だね」
その言葉には、苦笑した。
「そうでしょう。司、なんでもできるしイケメンだから、よく昔から釣り合わないとか、邪魔だって女子に怒られるんです」
そう、ちょっと冗談めかして言って高木先輩を見た。すると高木先輩は、おやっという風に目を開いた。なぜだかわからなくて高木先輩の次の言葉を待っていたが、ふっと鼻を鳴らしただけで、何かを言ってはこなかった。
「だから、司にも女子にもどいてって言えなくて。購買にはじめてきたんですが、パンが無くなるのめっちゃ早いんですね。驚きました」
変わりにオレが言葉を発すると、高木先輩は肩を竦めた。
「当たり前だろ。十分以内に完売する事もあるよ。今日は運が良かったね。ほら」
そう言って、高木先輩はオレの方にうぐいすパンを投げてよこした。突然の事に慌てたが、なんとか地面に落とす事なく無事キャッチできた。
「えっ」
「放課後のおやつに買いに来ただけだから、それやるよ。まあまあ面白いもの見れたし」
意味がわからなくて高木先輩を見ると、またちょっとニヤっとしていた。
なんだか、噂とは全く違うんだな、高木先輩。ぜんぜん、冷たい人じゃないじゃないか。
「ありがとうございます!」
「別にいいよ。じゃ」
先輩はクールに手をちょっとだけ上げて、去って行った。オレの手には、うぐいすパン。
と、その時、昼休みの終わりをつげるチャイムが鳴った。
何を考える間も無く、オレは急いでビニールを開けて、口に突っ込みながら教室に戻った。こんな行儀悪い事したって母ちゃんに知られたら、怒られそうだ。
教室に着くころには、何とか口の中に全部詰め込めて、事無きを得た。司とそのハーレムも跡形もなくなっていて、良かった。
うぐいずパンって、甘みがちょっと物足りない。しょっぱさもあるなんて、知らなかったな。
いや、かわすといっても、朝はいつもより少し早めに登校し、昼休みは保健室へ避難、放課後もさっさと帰るというぐらいだった。だが、司には全く会わなかったのだ。
人気者の司クンが放っておかれるなんて事そうそう無いからな。ここぞとばかりにアピールしている女子もいる事だろう。
……胸の奥か痛い気がするが、気のせいだと思う。うん。そもそも避けてるの、オレだし、胸が痛いとか言う資格なんてないし。
そうこうしていたら、金曜日になっていた。
抑制剤も残り少なくなり、発情期の終わりを感じる。もう、ほとんど普通に生活できている、と思う。明日は、午前中におじいちゃん先生の診察があるけど、午後から予定無いし、司誘ってどこか遊びに行こうかな。最近、勝手に避けたりして悪い事したもんな。あっ、でも、もう彼女作っちゃったかな……。
胸の奥がツキリとしたが、発情期が終わったからこれぐらいですんだんだ。きっとそう。また、フラれたって言いにくる時にはきっと元通りのはず……オレ、こんなに性格悪かったっけ。
一人、溜息がもれる。
こんな事してても、だめだな。
オレはいつも通り朝早くから教室についていたので、スマホを取り出して、司にメールした。
『おはよ。司、明日の午後ってひま? ようやく風邪完全になおったから、どっか遊びに行こうぜ。あ、でも、彼女できたんなら気にしないでな』
昼ぐらいには返事が返ってくるだろう。そうのんきに構えて、ようやく普通に見れるようになったゲームの攻略情報を見ていた。やり込みコンプした人まだでてきてないから、頑張ってみようかなあ。
オレが画面を見ていると、メールの通知が来た。司からだった。あいつ、歩きながらスマホしてるのか? 危ないな。なんて思いながらも少しニヤついている自分に気づいてしまった。
『おはよー、やっとなおったか!長かったなぁ。明日大丈夫。オレ、見たい映画あるんだよね』
文面から伝わる、司の嬉しそうな顔に、また机に突っ伏してしまった。いや、まだ、まだ発情期だし。絶対そうだし。
『心配かけて悪かったな。その映画、おごらせてもらうぜ』
しばらく深呼吸してメールを返すと、また速攻で返事が返ってきた。
『やったー。大和ふとっぱらーだいすきー!』
ああもう。なんだよこいつ、こいつなんなんだよ。無自覚でやってるの、もはやムカつくレベルなんだけど!
ニヤニヤした顔が戻らなくて、顔を正面に上げられない。胸がドクドクいってる。
見たい映画を、女子とのデートじゃなくて、オレと行きたいって言ってくれたのが。友人としてでも、冗談だとしても、だいすきなんて言ってくれたのが、こんなにも嬉しくて……辛いなんて。知らない方が良かったな。
オレはスマホを伏せて、ホームルームまで顔を上げる事ができなかった。
昼休みに入ってすぐだった。
今日は保健室に行こうかどうか迷っていたら、担任の先生に職員室に呼ばれた。
最近、休んでるが大丈夫か、とかそれぐらいの話。がついでで、本題は、放課後に生徒会にいくつか書類を持って行ってほしいというものだった。提出しないといけない書類を、学級委員長がまだ出してない上に、インターハイの合宿に行ってしまって居ないのを忘れていたそうだ。どっちもうっかりすぎない?
でもオレのクラス、帰宅部、オレだけなんだよな。断れる理由もなく、はあ、とだけ曖昧に頷いたら決まっていた。
面倒な事になったが、仕方ない。さっさとこの話終わらせないと、昼飯もまだ食べてないんだ。
先生に軽くごめんなと言われて、ようやく解放された。
職員室も保健室も、教室からちょっと遠いんだよな。
溜息を吐きながら自分の教室に戻る。いつもよりにぎやかな気がするなあ、そんな風にぼんやり思いながらドアの外から教室の中を見ると、
「へー、土岐くんテニスもできるんだぁ」
「すごーい!」
「いや、できるって程じゃ……」
「女テニの子が言ってたよ。この前、男テニのエースと良い勝負したんでしょっ」
「なにそれ、めっちゃかっこいいじゃん!」
「あはは……たまたまだよ。向こうが手を抜いてくれただけで」
「土岐くん謙遜しすぎだよー」
司の周りに女子が四、五人いて、きゃいきゃいしながら弁当を食べていた……オレの机を取り囲んで。
すっと物音を立てずドアから離れて、とりあえずトイレに向かう。
どうしよう。
あんなに女子が群がってたら、ごめんって言っても鞄から弁当取り出せそうにないし、下手したら一緒に食べよなんて言われるかもしれない。いや、どう考えても無理だろ。ムリムリしんどすぎる。
健全な男子高校なので、お腹は減っている。だが、精神的苦痛を負ってまで腹に詰め込みたいかといわれると、ぎりぎりノーだ。
そうだ、購買にパン買いに行こう。
ようやくそれに思い至って、ぼんやり流しっぱなしだった蛇口をひねる。顔を上げると、鏡には酷い顔が映っていた。オレ、こんな絶望してそうな顔してたのか。良かった、誰もこなくて。パンパンと軽く頬を叩いて気合を入れる。
昼休みの時間は有限だ。
手を拭き急いで一階にある購買所に向かうと、購買の机の上はすっからかんだった。
呆然。
購買があるのは知っていたが、母ちゃんの弁当だけで過ごしていたので、こんなにも売れているなんて知らなかったのだ。
「あら、あんた遅かったね。最後の一つを、さっきあの子が買っていったよ」
「え?」
オレの様子に苦笑しながら、おばちゃんが指さした先にいたのは。
「高木先輩?」
後ろ姿でもわかる。あの美人さは。
思わず呼んでしまったような形になって、その人影はオレを振り向いた。
「……ああ、きみか。なに、ご飯忘れたの?」
手には、うぐいすパン。……いや、人の好みは色々だから何も言うつもりないけど、意外、だった。
「いえ、持ってきたんですが……その」
オレが言い難そうにしているのに気づいたのだろうか、ふぅんと高木先輩は言って、顎でくいっと外の廊下を示した。ついて来いって事かな。そう思ってトテトテと小走りで近寄ると、苦笑された。
「きみね、不用心すぎじゃない。まあいいけど。面白そうな話なら、このパンをあげてもいいよ」
くくっと魔性の笑みで笑われると、ひぇってなる。美人は、性別を超えるのか。いや同じ性別だった。
購買からそのまま一緒に外の廊下に出る。
旧体育館につながっているだけなので、放課後にならないと人通りはほとんどない。高木先輩、こういう人目につかなさそうな所知ってるなんて、さすがだな。
外の廊下に出ると、高木先輩は廊下と外を隔てている板に軽く寄りかかり、オレをたる。
「で、何かあったの?」
オレは先輩の目の前で、苦笑するしかなかった。
「いや、あの、昼休みすぐに先生に呼ばれて職員室に行ったんです。で、帰ってきたらオレの机の周りに司のハーレムができてて、お弁当、取りに行く勇気がでなかったんです」
と、ここでハッと気づく。司って言ってもわからないか。
「あの、司っていうのは」
「知ってるよ。二年の土岐だろ。うちの学校でアルファって噂されてるやつだ」
オレが説明する前に、高木先輩がニヤっとしながらそう言った。そうか、司、最近高木先輩に連絡先聞かれたとか言ってたよな。ズンと胸が重くなった。なんでだろ。
「えっと」
「そういえばこの間、土岐は嫌だって言ってたね。なに、どんな関係?」
高木先輩は、なおも楽しそうにニヤニヤしながら、オレに聞いてくる。オレは高木先輩からちょっと目線を外した。
「どんなって、別に。幼馴染です。昔から知ってる奴で」
へえー、とここ最近で一番興味深そうに、高木先輩が声を上げる。
「きみが土岐と幼馴染、ねえ。意外だね」
その言葉には、苦笑した。
「そうでしょう。司、なんでもできるしイケメンだから、よく昔から釣り合わないとか、邪魔だって女子に怒られるんです」
そう、ちょっと冗談めかして言って高木先輩を見た。すると高木先輩は、おやっという風に目を開いた。なぜだかわからなくて高木先輩の次の言葉を待っていたが、ふっと鼻を鳴らしただけで、何かを言ってはこなかった。
「だから、司にも女子にもどいてって言えなくて。購買にはじめてきたんですが、パンが無くなるのめっちゃ早いんですね。驚きました」
変わりにオレが言葉を発すると、高木先輩は肩を竦めた。
「当たり前だろ。十分以内に完売する事もあるよ。今日は運が良かったね。ほら」
そう言って、高木先輩はオレの方にうぐいすパンを投げてよこした。突然の事に慌てたが、なんとか地面に落とす事なく無事キャッチできた。
「えっ」
「放課後のおやつに買いに来ただけだから、それやるよ。まあまあ面白いもの見れたし」
意味がわからなくて高木先輩を見ると、またちょっとニヤっとしていた。
なんだか、噂とは全く違うんだな、高木先輩。ぜんぜん、冷たい人じゃないじゃないか。
「ありがとうございます!」
「別にいいよ。じゃ」
先輩はクールに手をちょっとだけ上げて、去って行った。オレの手には、うぐいすパン。
と、その時、昼休みの終わりをつげるチャイムが鳴った。
何を考える間も無く、オレは急いでビニールを開けて、口に突っ込みながら教室に戻った。こんな行儀悪い事したって母ちゃんに知られたら、怒られそうだ。
教室に着くころには、何とか口の中に全部詰め込めて、事無きを得た。司とそのハーレムも跡形もなくなっていて、良かった。
うぐいずパンって、甘みがちょっと物足りない。しょっぱさもあるなんて、知らなかったな。
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