お前の失恋話を聞いてやる

灯璃

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オレと幼馴染

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「聞いてくれよ大和やまとー。またフられたあぁぁ」
「あははは! まったかよ、つかさ。本当、こりねえなあ」

 学校の昼休み中。
 オレの机の前で、弁当を食べながら愚痴っているこいつは、土岐とき つかさ。オレの幼馴染で、親友だ。
 二年前。
 長年の親友だがこいつは、平凡なオレとは違い、アルファ、と診断された。




 オレたちの世界には、性別というのが、四つある。
 大きく別けて男性と女性。そして男性の中でも、アルファ、ベータ、オメガ、と別れる。

 アルファは、選ばれた性だ。世界的にも少数で、希少種だ。
 ベータが人数的にも一番多い、大多数だ。普通の男性、というとまずこのベータを指す。 
 そしてオメガ。同じように希少種なのだが、男性としては中途半端だからか、別の理由があるからか、低く見られがちだ。筋肉が少なく、身長も低く華奢な者が多い。女性と見分けがつかないくらいの者もいる。
 そして一番の特徴というのが、男性性でありながら、アルファの子を妊娠できるのだ。その一点において、オメガはアルファとつがえるようにできている。

 番、の中でも特別な、運命の番というのがあるそうだ。
 しかし、そんな古い伝統は、既に赤い糸伝説のように古臭く、信じる者も信じない者もいる。この情報が発達した現代社会において、なおかつ少子化の現在、そんなロマンチックなおとぎ話を信じる人は少ないということだ。
 運命に出会う、というのはとても幸運な事らしい。出会えば、すぐわかるのだという、都市伝説。

 そして、この男性女性以外の性は、産まれてすぐに特徴が出るわけではないので、第二次成長期もっと言えば中学三年生の時に皆、一律で検査を受ける事が法律で決まっている。
 その情報は個人情報なので生徒たちには明かされないが、アルファは言わなくてもわかってしまうものだ。噂が立ったりもする。
 だが、自分がオメガだとわかってしまった人間は……。
 卒業するまで隠し通すか、あけっぴろげにして婚活するか。何にしろ、特殊な人間だと思われてしまう。


 そしてオレは、不幸にも(こういう言い方は最近怒られるが)オメガ、と診断された人間だった。もちろん個人情報なので、両親と学校でも一部の先生以外は知らない。

 頭が、真っ白になった。

 ベータだと思って、普通に暮らしていたのに。普通に女の子と結婚して、子供をもうけて暮らしていくんだと、なんの疑いもなく、将来を考えていたのに。


 この世界には、ハッキリとした差別がある。
 オメガだというだけで、なれる職業が限られてくるのだ。それは、筋肉量が少ないとか華奢とかそんな些細なものじゃない。発情期のやりくりにみんな困っているからだそうだ。学校の社会科でならった。
 女性、も妊娠出産の為に仕事をやめさせられたり、働きにくかったりするらしい。でもオメガは、それ以上に発情期のせいで強制的に働けなくなるそうなのだ。
 差別はよくない、ってみんなわかってる。だから、ちょっとずつ改善してるらしいけど、依然として風当たりが強いのだそうだ。

 それを授業で聞いていた時、大変そうだなと思っていたが、まさか自分が当事者になるなんて、思いもよらなかった。
 発情期というのも早かったり遅かったりするらしくて、いつ自分に起こるかわからない恐怖もある。起こってしまえば、目敏い人にはバレてしまうだろう。 
 そんな恐怖の中でも、普通に学校に通っているのは、いや通えているのは、幼馴染のこいつの存在がでかいと思う。

 つかさ
 ずっと隣に住んでる、オレの同い年の幼馴染。
 栗色の髪はちょっとくせっ毛だが、それがまた良い感じに似合ってる、はっきり言ってイケメンだ。幼稚園の頃から、女の子には告白され、男の子にも人気という、オレの自慢の幼馴染。泣き虫だったのにいつの間にかそれもなおってた。
 オレの母ちゃんは、何かといったらつっ君(司)を見習えってうるさいけど、無理だよ。だって、アルファって診断される前からこいつは、身長がぐんぐん伸びて、成績もスポーツも人並み以上にできて、誰にでも愛想良くて誰とでも仲良くなれる、スーパーマンなんだ。
 アルファと診断されるべくしてなった、選ばれた奴だ。
 オメガだったオレとは、それでなくても平凡なオレとは、根本的に違うんだ。

 ずっと、憧れのようなものが、こいつに対してはあったんだと思う。
 だって、オメガって診断された後、頭真っ白になって、次に思ったのが、司ともしかしたら……だったから。
 自分でもめちゃくちゃ驚いたけど、ベータだって信じ込んでたから(ベータの男同士の交際は未だに偏見がすごい)、今まで無意識に考えないようにしてただけかもしれない。
 でもいざ、社会的に許容される立場になっても、その気持ちを告白する事はできそうになかった。

 だってこいつ、女の子大好きだし。……そうでなくても、オレのようなオメガを選ばなくても、こいつの周りは、選りどりみどりだ。オレが選ばれる事なんて無いだろう。

「なーなー、それでな、高木先輩に連絡先聞かれたんだ。一回オメガもいっとくべきかなー」

 机に突っ伏し、カフェオレの紙パックのストローを噛みながら、司が言う。
 それに、オレは頬杖をついたまま答える。

「おい、またストロー噛んでんぞ」
「えっ、あ、マジだ。なーんか、止められないんだよなぁ」

 と、言いながらも、その細いストローをきれいな白い歯でガジガジ噛む。最近やるようになった癖だが、一向に治る気配がない。なんだろう。

「なんだよ、口さみしいのか? ほら、これでよかったらやるよ」

 オレは、鞄の中に忍ばせておいた、レモンキャンディーを一個渡す。サンキューといいながら、包み紙を開けて口に放り込む司。遠慮のない、幼馴染の距離。この距離を、手放したくない。

「おっ、すっぱい」
「ははっ、レモンだから当たり前だろ」

 すっぱそうに顔を歪めながらも、吐き出さずそのまま舐める司。本当に、良い奴なんだよなあ。
 オレと幼馴染なのだって、たまたま家が隣同士で親達が仲良かったからだし、それがなかったら近づけなかっただろうなあ。

 ちなみに、さっき司が口に出した高木、という人物は、オメガと公言してる三年生の事だろう。開き直っている側の人だ。
 それもそのはず、彼の人は綺麗な顔をしており、去年の女装コンテストで10点満点をかっさらっていった伝説をもつぐらいの人だ。オメガ、に対する顔のハードルが上がるよなあ。オレ、完全に平凡というか平凡ちょい下だもんな。
 一生懸命、司がレモンキャンディーと格闘している間に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
 良かった。司の言葉は、スルーしきれたようだ。

「あっ、やべ。次体育だった。オレいくわ! じゃ、また帰りな!」
「おう。また」

 司が、自分のクラスに慌てて戻っていく。そして、オレのクラスじゃない奴らも次々に戻っていく。司目当てでここに来た奴らだ。
 田舎なせいか、アルファが珍しく、みんな司を見にきているようで。
 そんな中、こいつと仲良く話しをしているオレが、注目を集めないわけなくて。

「ちょっと早乙女さおとめ君。土岐君と何話してたの」

 隣の女子が聞いてくる。名前もあんまり知らない子だった。

「いや、別にこれといって」
「ふられたとか話してなかったっ」
「えっと、そう、みたいだけど」
「じゃあさ、これ、私の連絡先。渡しておいてくれない。お願いっ」
「おーい、そこ。なに話してんだ。ここの問題解いてもらうぞー」

 オレが、どう反応しようか困っていたら、先生から注意されてしまった。
 女子はオレを強めに睨みながらも、

「はーいすみませーん。わかりませーん」

 そう言って、教室には小さな笑いが起こった。
 可愛い子だから、こういった切り抜け方ができるんだろうなあ。感心しながら見ていたら、椅子に座った彼女に、小声でお願いね、とまた言われてしまった。断りきれずに、紙片を受け取ってしまう。

 その後は、先生もそれ以上の興味は無くしたようで、淡々と授業は進んでいった。
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