[R18]拝啓、天国の兄貴へ 未亡人となったアナタの嫁と付き合うことになりました

みやほたる

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第四章:恋人義姉と大切な夜を過ごす

ある日の義姉の過ごし方 その②

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 その日の夕刻ゆうこく、伊瀬の実家にて。

 「悪いわね、百花ちゃん。今日お仕事だったのに、こっちのことまで手伝わせちゃって」
 「構いませんよ、お義母さま……三回忌は、私にとっても大切なことですから」

 向かい合って作業する義母に百花は穏やかに返事した。義母もふっとほおを緩めてくれる。

 「そう……でも、ありがとう。百花ちゃんがいてくれると助かるのは、本当だからね」

 義母の瞳は潤み、目尻にはシワが浮かんでいた。かれこれ十年近い付き合いだが、ここまで疲れた表情は滅多めったに見たことがない。それこそ和樹が亡くなった直後ぐらいだろうか。
 もっともその頃、百花はさらにひどい状態だったので、人を気遣う余裕はなかったのだが。

 「……不思議ですよね、もう二年も経っているなんて。全然実感が湧きません」
 「そうね。私だって、まだちょっと信じられないわ。でも、そういう私たちのために、三回忌ってあるんじゃないかしら」

 義母の言葉に、百花はわずかに首をかしげる。

 「時間の流れの感じ方って、その時々で違うじゃない?遅い時も早い時もある。でも、流れる時間の速度はずっと変わらないのよ……そして、それはきっと凄く大切なことなの」

 そう言ったあと「ひたってるのかしら、私」と自嘲じちょうした義母は、まだ少し元気がない。
 曖昧あいまいな言葉だと思った。
 ふわふわ、ぽわぽわしていて。
 決しておなかを満たせない砂糖菓子みたいだ。
 でも、だから、わかるのかもしれない。
 大切なのはきっと、時間の流れを実感できるほど長く長く生き続けることなのだろう。

 「お義父さまもお義母さまも、私も……そして博嗣くんも、頑張っていると思います。ちゃんと、今を、頑張っています」

 甘くない時間を過ごしたから、やり過ごせたから、今は言える言葉を見つけられた。

 「博嗣……うん、そうよね。あの子も、頑張ってる。本当に一生懸命、えらいくらいに」

 息子を想った母は今度こそ確かな笑顔を見せてくれる。それが嬉しくて、ほこらしい。

 「……ところで博嗣のことだけど。迷惑かけてない?ちゃんと家事とか手伝ってる?百花ちゃんに甘えてばかりじゃない?大丈夫?」

 母の顔を取り戻した義母がいつもの調子で話を進めてきた。これくらいほがらかな方が、百花としても落ち着いて話ができる。

 「はい。大丈夫ですよ。ご飯を美味しいって言って食べてくれるの、凄く嬉しいです」

 (それに、どちらかと言うと、最近は私の方が甘えてしまっていますし……)

 特に夜の営みでは、未亡人はすっかり淫らな調教をおねだりする牝犬と化していた。被虐願望を打ち明け、受け入れてもらって以来、マゾヒズムに一層の磨きがかかった気がする。

 「それなら別にいいけど……たとえあの子との同棲をやめても、私たちは百花ちゃんの味方だし、家族よ。何があっても助けるわ」

 義母の優しい言葉が身体に沁みる。

 「私にとっても、お義母さまはずっとお義母さまです。大好きで、大切な、もう一人の母親です。それはずっと変わりません」

 じわり、じんわりと、熱が広がっていく。
 胸に眠っていた秘密が膨らんで、弾けた。

 「……だからこそ、私からもお義母さまにお話ししなければならないことがあります。聞いて……いただけますか?」

 背筋を伸ばし、居住まいを正し、
 確かな意思を感じさせる瞳と声で、百花は義母へ告げるのだった。
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