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第二章:恋人義姉とイチャイチャになるまで
恋人義姉と過ごすイチャイチャモーニング その②
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「……それは、違いますよ、博嗣くん」
カチン、とコンロの火を消す音とともに義姉が声を出す。確かな意思を感じさせる声だ。
「確かに、私がここまで、その……大胆な真似をするようになったのは……あの人を喪ったからです。誰も悪くなくても、当たり前が壊れてしまうって、そう知ったからです」
何かを堪えるように、百花が語る。
「やり残したこと……後悔なんて、数えきれません。変に恥ずかしがって、強がって、意固地になって……そんなのばかりです」
俯いた博嗣の視界に、百花のつま先が映る。いつの間にか目の前まで近づいてきていた。
顔を上げると、聖母のように柔らかな笑みを浮かべる、憧れ続けた女の顔があった。
「でも、誰でもいいわけじゃありません……あの人の代わりでもありません……博嗣くんだから、私は色々なことをしたいんですよ」
そう言って、百花は博嗣を抱きしめた。顔面が柔らかい乳房の谷間に埋もれる格好だ。
そのまま頭をよしよしと撫でられる。
「……なんで?なんで僕なの?」
「博嗣くんが好きだからです……博嗣くんに、救ってもらったからです」
「…………?」
「わかりませんか?あの人がこの世を去ってしまったとき、博嗣くんは私の側を離れようとせず、ずっと励まし続けてくれたでしょう……本当は、県外の大学にも行けたのに」
「それは……」
「あの頃の私は、毎晩同じ夢を見ていました……暗くて狭い部屋に、独り閉じ込められる夢。光が欲しくて彷徨うと、身体が燃え出しちゃうんですよ。熱くて、苦しくて、やがて灰になって……そこでいつも、目が覚める」
百花の手のひらはうっすら冷たく、汗を掻いていた。気のせいか、わずかに震えている。
「怖かったんです……いつか本当に、自分がこのまま死んじゃうんじゃないかって……ううん。むしろ、生きていることが怖かった」
「生きてる、ことが……?」
「はい……あの人がいなくなっても、当たり前のように回る世界が……そして、そこに順応できる自分が。なんだかひどく、間違っているような気がして……もっと悲しまなきゃいけないとさえ、思っていた気がします」
未亡人の告白を、少年は黙って聞き届ける。
「でも私には、博嗣くんがいました……私が悲しんだら、私以上に悲しそうな顔をする博嗣くんが、側にいてくれました……だから私は、強くあろうって、そう思えたんです」
「……それは、良いことなの?無理をさせてただけなんじゃないの?」
「無理でもいいじゃないですか。ただ流されるまま死ぬより、生きようと思って生きる方が、辛くても充実した人生になりますよ」
そこで義姉は言葉を切った。熱を取り戻した腕に力がこもり、ぎゅっと抱きしめられる。
「……私にそう思わせてくれたのは、他の誰でもないあなたなんですからね、博嗣くん」
その言葉が、博嗣の仄暗いところを癒した。
(まさか百花さんが、僕のことをそんな風に思っててくれたなんて……!)
嬉しかった。兄とは違う自分が、彼女の役に立てていたことが、本当に嬉しかった。
思わずこちらからも、ぎゅううぅっと力強く抱き返してしまう。
鼻先をくすぐるのは百花の放つ甘く心地よい体臭と、いつもの朝食の香り。
兄が好きな砂糖入りのそれとは違う、博嗣好みのしょっぱい卵焼きの香りだった。
カチン、とコンロの火を消す音とともに義姉が声を出す。確かな意思を感じさせる声だ。
「確かに、私がここまで、その……大胆な真似をするようになったのは……あの人を喪ったからです。誰も悪くなくても、当たり前が壊れてしまうって、そう知ったからです」
何かを堪えるように、百花が語る。
「やり残したこと……後悔なんて、数えきれません。変に恥ずかしがって、強がって、意固地になって……そんなのばかりです」
俯いた博嗣の視界に、百花のつま先が映る。いつの間にか目の前まで近づいてきていた。
顔を上げると、聖母のように柔らかな笑みを浮かべる、憧れ続けた女の顔があった。
「でも、誰でもいいわけじゃありません……あの人の代わりでもありません……博嗣くんだから、私は色々なことをしたいんですよ」
そう言って、百花は博嗣を抱きしめた。顔面が柔らかい乳房の谷間に埋もれる格好だ。
そのまま頭をよしよしと撫でられる。
「……なんで?なんで僕なの?」
「博嗣くんが好きだからです……博嗣くんに、救ってもらったからです」
「…………?」
「わかりませんか?あの人がこの世を去ってしまったとき、博嗣くんは私の側を離れようとせず、ずっと励まし続けてくれたでしょう……本当は、県外の大学にも行けたのに」
「それは……」
「あの頃の私は、毎晩同じ夢を見ていました……暗くて狭い部屋に、独り閉じ込められる夢。光が欲しくて彷徨うと、身体が燃え出しちゃうんですよ。熱くて、苦しくて、やがて灰になって……そこでいつも、目が覚める」
百花の手のひらはうっすら冷たく、汗を掻いていた。気のせいか、わずかに震えている。
「怖かったんです……いつか本当に、自分がこのまま死んじゃうんじゃないかって……ううん。むしろ、生きていることが怖かった」
「生きてる、ことが……?」
「はい……あの人がいなくなっても、当たり前のように回る世界が……そして、そこに順応できる自分が。なんだかひどく、間違っているような気がして……もっと悲しまなきゃいけないとさえ、思っていた気がします」
未亡人の告白を、少年は黙って聞き届ける。
「でも私には、博嗣くんがいました……私が悲しんだら、私以上に悲しそうな顔をする博嗣くんが、側にいてくれました……だから私は、強くあろうって、そう思えたんです」
「……それは、良いことなの?無理をさせてただけなんじゃないの?」
「無理でもいいじゃないですか。ただ流されるまま死ぬより、生きようと思って生きる方が、辛くても充実した人生になりますよ」
そこで義姉は言葉を切った。熱を取り戻した腕に力がこもり、ぎゅっと抱きしめられる。
「……私にそう思わせてくれたのは、他の誰でもないあなたなんですからね、博嗣くん」
その言葉が、博嗣の仄暗いところを癒した。
(まさか百花さんが、僕のことをそんな風に思っててくれたなんて……!)
嬉しかった。兄とは違う自分が、彼女の役に立てていたことが、本当に嬉しかった。
思わずこちらからも、ぎゅううぅっと力強く抱き返してしまう。
鼻先をくすぐるのは百花の放つ甘く心地よい体臭と、いつもの朝食の香り。
兄が好きな砂糖入りのそれとは違う、博嗣好みのしょっぱい卵焼きの香りだった。
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