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第二部
26.イミナバコ2
しおりを挟む呪いの対象を他者へ移す――術式や構成は一切不明ですが、大精霊にはそれができるようです。
◇◆◇ ◇◆◇
「……っ!」
呪いが移行した直後、一瞬、ジャン様はフラつきましたがすぐに、いつもの様子に戻ったようです。
「一瞬、負荷がかかりましたが……もう大丈夫です。本当に移行したのですか?」
実感が湧かないようで、ジャン様は不思議そうな顔をされています。
移行を確認するため、フレデリック殿下を振り返り、目の前の殿下の様子に安堵したようです。
フレデリック殿下の体に纏わりついていた穢れの気配はなくなりました。
同時にゆっくりと血色が戻り、閉じられていた瞳が開かれ、ひとまずの無事を確認することができたようです。
陛下と枢機卿が歓喜の声を上げていますが、元凶はまだ退いていないのですよ?
もう全て終わったみたいな顔をされるのはやめていただきたいのですが?
「す、すまん……」
お分かりいただければ結構です。
フレデリック殿下の呪い、ジャン様が肩代わりしている状態なんです。
今すぐ貴方たちに振ってもいいんですよ?
「ミント、分かる?」
『ええ……分かったけれど……これは穢れかしら?』
ミントが言わんとしていることが分かりません。
フレデリック殿下を取り巻いていたあれは、確かに穢れでした。源泉を見れば穢れではない、なんてことあるのでしょうか?
ミントの先導で、近衛を伴い現場へ向かうことになりました。
目的地は、離宮の近くにある馬小屋です。なので近衛を連れて、現場へ向かうことになりました。非常時とはいえ、離宮内を下位貴族のみで闊歩しているという状態はあまりよいとは言えません。
本来であれば近衛も必要ないくらいなのですが、彼は王への報告要員なのでしょう。
「ぐっ……!」
「ジャン様!? 大丈夫ですか?!」
「ええ、大丈夫です。風が強くなったみたいですね」
「風?」
一瞬、体をぐらつかせたジャン様ですが、すぐに体勢を立て直しました。
彼の体を支えようと手を伸ばしますが、大丈夫だと言わんばかりの顔で彼はそれを制します。自分のことには構わずに解呪を優先するように、と彼は考えているのでしょう。逆の立場だったなら、私もそう思ったでしょう。
でも――――……!
「馬小屋はこの先です!」
近衛兼案内人がそう言うのが聞こえると、ジャン様は先を促します。
「行きましょう! 早く呪具を!」
「ジャン様……はいっ!」
――呪具を解呪すればいい。早く、一刻も早く!
・
・
・
本当に馬小屋は近くにあるのでしょうか?
動物特有の匂いが全くしません。それに、元凶に近づいているはずだというのに、穢れの気配が全くしないのです。ジャン様の体に影響が出ているということは、間違いなく元凶には近づいているのでしょう。
……穢れでは……ない? いえ、そんなはずがありません。
フレデリック殿下に纏わり付いたものは、明らかに穢れでした。
一体どういうことなのか、と考えていると――、
「――何者だ!」
近衛の緊張感を孕んだ声が、周囲に響き渡りました!
不審者、ということは犯人がいたのでしょうか!? やはり、原因は犯人たちによって新たに運び込まれた『忌み箱』ということに……。
「……え?」
そこにいたのは、『忌み箱』の巣窟となっていた平民向けの医療施設の施設長、タイタス・エトナ・マリニャックでした。
――彼がなぜこのような場所に?!
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