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第二部
24.聖女の噂5
しおりを挟む「ジャン様っ!!!」
「……俺は大丈夫です! ですが、殿下が……っ」
ジャン様は無事ですが、殿下への治療がストップしてしまった。
そんなところでしょうか。なぜそのようなことに?! 精霊たちが作ったブローチについて、その本質を理解できていないので分かりません!
この場に、まだ生きている『忌み箱』がある?!
パックが全て処分したと思っていましたが、見落としがあるのかもしれません!
倒れている少女たちのポケットを調べましたが、そこにあったのは壊れた木箱の破片のみです。
【世ノ光成リシ者ヨ、――混沌ヨリ出デシ汝ガ業ヲ……滅セヨ!】
祓っても祓っても、すぐに穢れが復活してしまいます!
元を絶たなければ意味がないようですね。
「モニカ?!」
――え、この声は……。
「ベートラ様?! それにリシュタンジェル公まで……どうしてここに?」
「移動先に貴女もメルセンス卿もいらっしゃらないから探したのよ!
っていうか、貴女さっきから『世ノ光成リシ者』って……どういうこと?!
あれ神聖魔術の呪文よね?! あの黒いのは何だったの? 殿下はご無事なの?!」」
確かに、あの部分は神聖呪文の枕詞のようなもので、知っている人は知っていますね。使えないと洗脳されているだけで……。
ベートラ様はすっかり興奮状態のようです。
ですが、今は事の成り行きを彼女に説明している暇はないのです!
それに、彼女たちのように避難先から戻って来てしまう人が、他にもいるかもしれませんし!
「そう……か。君が、そう……だったのか」
リシュタンジェル公が腑に落ちたと言わんばかりの顔でそう呟きます。
――え、あの時のこと……思い出したわけではありませんよね?!
「モニカ嬢、ここは全てを話してご協力を仰いだ方が建設的でしょう。彼らは信頼できる人ではありませんか。今は殿下に使われている呪具を見つけるのが先決です!」
――そうでした! ジャン様の仰るとおりですね。
リシュタンジェル公もベートラ様も、信頼できる方です。
「ご推察の通り、あれは神聖魔術です。そこに倒れている連中が呪具を離宮に持ち込んだために起こったことです。本体の呪詛はまだ残っているようなので、私は探して解呪しなければなりません。なので、この事はご内密にお願いしたいのと、フレデリック殿下を見ていていただきたいのですが」
「それは構わんが……お前は大丈夫なのか?」
「……はい。私は大丈夫です」
「……分かった。必ず、無事に戻るのだぞ」
「…………はい」
時間にしてしまえば、さほど長い時間ではありません。
ですが、リシュタンジェル公の葛藤や苦渋が……血のつながらない私を、本当に心配してくれているのが、伝わってきました。
私が慣れない感覚に戸惑っている間に、リシュタンジェル公はジャン様へと向き直り――。
「メルセンス卿、娘を頼みます」
「……はい、かしこまりました」
「ちょっと! 私だって心配してるんだからね?!」
人が義父と婚約者のやり取りにほろっとしていると、ベートラ様にわめかれました。おっと、彼女は無事に避難していただかなくては。
「ベートラ様は逃げて下さい」
「自分のことは棚上げする気?!」
――生粋のお嬢様ってどうしてこうも、死地に赴こうとするのでしょう?
◇◆◇ ◇◆◇
犯人たちの捕縛については、ウェルス様にお願いしました。
彼は元々、犯人らを捕縛するために準備を進めていたようなので。
呪詛により体調不良に陥ったフレデリック殿下は、別室に運ばれました。
手配したのはリシュタンジェル公です。騒ぎにならない適切な場所へ殿下を移動させるなど、必要な処置を行ってくれました。
殿下は来賓の間へ運び込まれました。
ここにいるのは、フレデリック殿下を除いて――ジャン様、リシュタンジェル公、ベートラ様、陛下、枢機卿、私、ついでにアンデル殿下。
数名の近衛と医師もいますが……呪詛相手では、心許ないです。
……ベートラ様は、激しく緊張されているようですね。
彼女が過去、陛下にお目通りいただいたのは最初の挨拶(社交界デビューの日)の時だけ。なので、とても緊張されているようです。
その方々は、恐るるに足らないと思いますが……。
「――ミント、この近くに『忌み箱』はある?」
『あります。効果がないものからある物まで……古い物から新しい物まで』
――人間と精霊間の、価値観の相違再び、ですね。禁書の情報によると、かなり危険な呪詛だったはずです。
私の知識では、人を呪い殺すことができるような呪術なんて、実在しないも同然です。
「沢山……?」
『祓いますか?』
「……必要ないと思っていたの?」
『申し訳ございません。人間が手慰みに作った玩具かと』
人間にとっては死活問題になりかねない呪具を、玩具ですか……。
『モニカ様もご存じのはず。人間は趣味で殺し合うものでしょう?』
斜に構えた物言いをしますね。
そう言えば、この子たちは『先の大戦を機に人間たちから距離を取るようになった』と、ウェルス様は仰っていましたね。……怒っているのでしょうか?
けれど、私が憎い誰かを『殺せ』と言えば、殺してしまいそうな危うさも感じます。生死感などが異なるのかも………………分からないので後にしましょう!
ミントの声が聞こえていたメンバーはその場で固まりました。
聞こえていない方々のために、ミントが言っていたことを告げると、残りの皆様も固まってしまいましたが――ジャン様はすぐに。
「は、祓えるのであればお願いをしてみませんか?」
「そう……ですね。パック! 離宮にある『忌み箱』を全部破壊して!」
・
・
・
パックは私の頼みを聞いてくれたのですが、フレデリック殿下の様子は良くなりませんでした。
原因は『忌み箱』ではないのでしょうか?
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