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第二部
20.聖女の噂
しおりを挟む王都へ戻ってきた翌日は休みましたが、その次の日からは学園へ登校するようになったのですが……困った事態に陥っていました。
「モニカ様! メルセンス領へ行かれたのですよね?! 聖女様にはお会いになりましたのですか?!」
今日は一人で登校です。
いつものように、学園へ到着し車寄せで馬車を降りるなり、制服姿の少年少女たちに取り囲まれました!
皆様、瞳をキラキラとさせて……純粋と言えば聞こえは良いのですが、少々不安になります。
集まってくる人々は、良いところの子息令嬢のみならず。
噂は学園内限定で広まっているものなのか、街で広まっているものなのか、社交界で広まっているものなのか。
仔細を確かめようにも、みんな興奮しているようで冷静に相手をしてくれそうな人が見当たりません。
「えっと……さあ? 何の話でしょうか……え、えっと……」
行く手を遮られています。私は武闘派ではないので、彼らを投げ飛ばすわけにもいきませんし……困りました。
「困らせるなお前たち! モニカ・リシュタンジェル、俺の傍に来――」
……一番困らせている人が高らかに何か叫んでいるのが聞こえます!!
どこにいるのかと視線を彷徨わせている間に、いきなり抱き寄せられ――そうになったので、精霊たちの誰かがアンデル殿下をぶっ飛ばしました……!
――赤から青へ。
集まっていた生徒たちの顔色が鮮やかに変化していきます。
いい顔で高らかにセクハラを働いていた輩が、次の瞬間、地べたを這いずっていること自体は問題ないのに。そう――相手が、隣国の王太子殿下でさえなければ。
これ、皆さまの目には、私が投げ飛ばしたように見えているのでしょうか?
自分たちも巻き込まれる可能性があると心配して、青くなっている?
――卑怯な手段ではありますが、ミントに皆さんの記憶を改ざんしてもらいましょう。アンデル殿下は……いいですよね、このままで。
「モニカ嬢! だ、大丈夫か?!」
アンデル殿下が復活するのを待っていた私の下へ、次に現れたのは……フレデリック殿下です。慌ててやってきたのでしょうか、汗をかき、息も上がっています。
しかし……生徒たちの視線が、以前ほどの熱量を伴ってはいないようです。
民衆の間に広まっている――『王族が聖女様を怒らせて、この国は見捨てられた』という噂の影響は確かにあるようです。
私の目的としては、民衆が他力本願の上に責任転嫁をしないよう、動いて欲しかったのですが……人心掌握とは難しいものですね。人はまだまだ『理想の聖女』を諦められないでいる……うーん。
「フレデリック殿下、この場を修めてもらっても宜しいでしょうか?」
失われたカリスマ性を再び取り戻せるよう、頑張って下さい!
◇◆◇ ◇◆◇
取り囲まれては正確な情報を得ることが出来ません。
なので、己の教室へやってくれば、極少ない人々から落ち着いて情報収集を図れるはず!
……結論から言えば、情報収集は成功しました。かなり、苦労しましたけれど。
学園内に広まっている噂は、一日早く学園へ復学したアンデル殿下が広めたものだったようです。……本当にあの人は……!!!
それ以外は、王都の社交界で広まり、それが市民へと伝わったようです。
今が社交シーズンであることも、タイミングが悪かったと言えるのかもしれません。
『忌み箱』については、詳細は伝わっていないようで、『真の聖女騒動』で悪とされた方々を慕う者たちの仕業なのではないかと、噂になっているようなのです。
真偽の程は不明ですが、既に呪いに巻き込まれて儚くなられた方もいるのかいないのか……。
ミントは色々と物知りではあるのですが、今回の件は把握できないそうです。
こういった場合の状況把握に適している姿見は、メルセンス邸にありますし……社交シーズンが終わるまで、後三ヶ月。
……間に合いませんね。
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