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第二部
19.呪いと聖女4
しおりを挟む収容所周辺の穢れ問題は、とりあえず解決しました。
あの周辺で問題になっていた穢れは全て祓いましたし、穢れの自浄作用を阻害していた『忌み箱』も全て破壊したので。
ミントの話によると、この地区に放置されていた『忌み箱』は、元々そこにあった物のようです。ウェルス様が仰っていた、最近意図的に置かれたものとは別だと。『忌み箱』自体は、外国から伝わってきた物なのだと。
そして、あの荒くれ者たちが根城にしていた掘っ立て小屋は、人が生活するために建てられた家ではないと。聖女の恩恵を受けることができない人々が、それでも自分たちで『穢れ』を何とかしようとして考えた苦肉の策なのだそうです。
『穢れ』のための家……らしいです。
私には理屈がよく分からないのですが――。
昔の人々は、あの『意志を持った穢れ』を人並みに扱っていれば、自分たちに災いが降りかかることはないと考えていたらしいのです。
しかし、その努力も徒労に終わったようですね。それを伝える人が誰もいない事実が、全てを物語っているのです。
◇◆◇ ◇◆◇
領内の問題が全て解決したわけではないのですが、視察は終了となりました。
後は、人員を整理し時間をかけて、流れを見守っていかなければならない段階なのだと、ジャン様もウェルス様も言います。
私としても、あの場でできることは、何もありません。
誰かが意図的にメルセンス領を呪具塗れにしようとでもしていない限りは。
教会の禁書にこの呪具に関するコトが記載されていれば……容疑者の中に、教会関係者がいるということになります。メルセンス領に……ジャン様や私に恨みを持つ教会関係者には、一人心当たりがあります。
現在行方不明中である、リュクレース・ガーヌを聖女へ押し上げた、あの枢機卿が第一容疑者といったところですね。
ウェルス様は『本を届けに来た』というようなことを仰っていましたが、本当は私を王都へ戻るように促しに来たのではないかと思います。
ここで問題が発生していたのだとしたら、それを解決しない限り私はここから動かないと……彼には分かっていたのでしょう。
だから、禁書までも持ち出したのですね。やることが空恐ろしいですね……。
「あの、やはり私もそちらへ――」
「大丈夫ですよ。呪具の報告を受けて、リシュタンジェル公もかなり心配されているようです。元気な顔を見せて上げて下さい」
視察先からリシュタンジェル邸へ戻ったのは、当初の予定から二週間遅れの夕方、夕食前の頃となりました。
館の車寄せには使用人だけでなく、リシュタンジェル公やら夫人やら姉君やら兄君やら弟やら妹やら……家族総勢でお出迎えをされてしまいました。
「長旅ご苦労様。ジャン様も今日はこちらにお泊まりになりませんか?」
夫人がジャン様へそう問いかけました。当初、断っていたジャン様でしたが、リシュタンジェル公やその他のご家族の皆様からの希望もあり、本日は泊まって行って下さることになりました。
私は……ちょっと短絡的に考え過ぎていました。
仮にも、領主であるリシュタンジェル公が、次期領主である視察帰りのジャン様を泊めた理由なんて……冷静に考えれば分かるはずだったのに。
◇
夕食後、ジャン様はリシュタンジェル公と共に執務室に籠もられてしまいました。
「寂しいの? ずっと一緒にいたのにぃ?」
「そっそういうわけでは……っ」
リシュタンジェル邸にいる間の日課となっていたのですが――夕食後、私はいつも、談話室でベートラ様とお喋りに花を咲かせます。これが、慣れると結構楽しいのです。メルセンス邸へ戻るとベートラ様はいないのだな、と思うとそれはそれで、少し寂しくなりそうです。
「あの、ベートラ様にもご婚約様がいらっしゃるのですよね?」
「ええ、まあね……でもねぇ……身近に恋愛結婚の成功者を見てると、ちょっと羨ましくなっちゃうわよ」
「えっ?!」
――そ、そう……ですか。そう……なるのですよね、ええ、なんだかとても照れます。
ベートラ様とのお喋りは楽しいです。とてもとても楽しいのですが……やっぱり、メルセンス邸に帰りたい……のでしょうか。
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