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第二部
14.視察6
しおりを挟む私にできることは、領内に漂う穢れの流れを正常な状態に戻すことです。
ジャン様は、統治に関わっている人材の見直しという仕事があるので別行動をとることになりました。
代わりに後見人推薦の護衛を付けられることになったのですが……正直、あまり期待してはいませんでした。
――思ってもいませんでした。ここまで愚かだとは!
屋敷を出てしばらくして、見覚えのある馬車と合流させられました!
アンデル殿下の馬車です!
「よう、嬉しいだろう? 俺様と一緒にいられるのだから」
……焼き払ってやろうかと思いました。
それにしても、後見人の方は何を考えているのでしょう?
アンデル殿下に取り入り、自分がメルセンス子爵になろうとでも?
この穢れに満ちた土地で、いつまでも甘い蜜を吸うことができるとでも、本気で思っているのでしょうか?
「おい、ちょっと詰めろ。これじゃあ話も出来やしな――」
「――パック!」
許可も出していないのに、馬車に無理矢理乗り込もうとして……目の前の黒い狼に逃げ去っていきました。彼はバカなのでしょうか?
距離を取りながら後を付けてくるアンデル殿下……激しく気持ち悪く不愉快です。ベアトリス様を召喚しましょうか。
光の精霊であるパックにアンデル殿下の目を塞いでもらい、そのすきに穢れの調査を行いました。
領内の発展している区域から、貶められ忘れ去られた区域まで――。
そこで、少々困った事態になっていることが発覚しました。
このような物が民衆の間で流行るのは、普通のことなのでしょうか。
特に穢れが酷かった場所は、平民向けの福祉施設という名の――収容所でした。事前に渡された資料にはなかった場所です。
何をもって報告不要と判断したのか……。
穢れによる環境汚染問題は、統治者ならば把握しておかなければならない問題です。ジャン様だけに通知があったのだとしても、精霊たちのことを知っている彼が私に隠すとは思えません。
そんな状態で、陰でアンデル殿下に媚を売るような真似をして……本当に貴族と言うものは、全く……。
◇◆◇ ◇◆◇
「えっ?! どういうことですか! アンデル殿下!」
ジャン様にことの成り行きを報告したのは、晩餐の場でのことです。
今、食堂にはジャン様と私、そして後見人とアンデル殿下の四人がいます。
「貴様になにか関係があるか? たかが子爵風情が俺様に逆らうなよ」
「王族を気取るのであれば、それ相応の気品と良識を見せて頂きたいものです!」
「あぁっ?!」
またジャン様とアンデル殿下の攻防がはじまりました。
それを後見人は「仕方の無い人たちだ」というように、他人事の反応を見せています。……ジャン様の頭には、アンデル殿下のことしかないと思っているのでしょう。
高をくくりジャン様を下に見ていた彼ですが――。
「――さて、そんなことは後でどうとでもさせてもらいますけど……今は、貴方の方が問題なんですよ」
「な、何を言っているのかね? 君、ワタシは――」
ジャン様は、急にアンデル殿下から後見人へと視線を移しました。
彼にとっては対岸の火事だったのでしょう。急に、常にない厳しい視線で話をふられ、動揺している心の内が手に取るように分かります。
さて、私もジャン様も、ついでにアンデル殿下も……皆様、食事はお済みのようですね。デザートは……恐らく、別室でいただくこととなるでしょう。
――ジャン様はもう全ての手配を完了してしまいましたので。
◇
「あいつ、おっかねーな……」
アンデル殿下が、若干青い顔をしてそう呟かれました。
「そうですか? ジャン様はやるときはやるお方ですから!」
「詰めの甘いボンボンって調べだったんだがな……」
あらまあ、よくよく調べていらっしゃるようで。
私とアンデル殿下がいるのは、執務室です。
後見人の件ですが、ジャン様は割りと早い段階で彼の解任を決めていました。
解任するには諸々の許可が必要となります。なので……そちらの根回しを行いつつ、当の本人に勘付かれて邪魔をされないよう慎重に事を運んでいたようです。
新しい後見人は、リシュタンジェル公の庶子が請け負うこととなりました。
――もしかして、私がリシュタンジェル邸に赴くことになったことや、ジャン様がその後、頻繁にリシュタンジェル邸を訪れていたのは……。
これは、ウェルス様の入れ知恵でしょうか?
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