クズは聖女に用などない!

***あかしえ

文字の大きさ
上 下
59 / 82
第二部

13.視察5

しおりを挟む

 視察の目的は概ね果たされました。
 問題山積だったようですが、現状のままにしておくわけにはいかないという結論にはなったようです。

 『議会』の開催は来月です。
 ジャン様の後見人についてなのですが、その際にその座から降ろされそうです。
 彼は公爵家に連なる者として、プライドが高く子爵位のジャン様を下に見てえつには入る暇人でした。仕事ができないのであれば、当然でしょうね。

 貴族というものは、なぜこうも手を抜きたがるのか……なぞです。




 ◇◆◇ ◇◆◇


 メルセンス領に問題が山積していたため、ジャン様は滞在予定を延長することになりました。彼は私だけでも先に王都へ帰したかったようなのですが、私もここに残ることにしました。
 穢れの排出がうまくいっていないことが少々気になります。暴動が起こりやすい状況にあるような気がしたので。



 朝、いつものように朝食を取るため食堂へ向かっていると、騒々しい音が聞こえてきました。ジャン様が、誰かともめているようです。
 この声は……え、なんでいるのですか?

「来たな! モニカ・リシュタンジェル!!」
「……どうして、この人がここにいるのですか?」
 その場にいた人物に目眩がします。
 貴方は勉学に励むために、わざわざ隣国から留学してきたのでは? なぜここで遊んでいるのですか? それにしても、朝っぱらから目に痛い絢爛豪華なお召し物ですね。メルセンス領は自然豊かな発展途上の田舎町です。そのようなゴテゴテとして動きにくい服装では、悪目立ちするだけですよ。

 視察ではっきりと分かりましたが、ここは一般的な警備体制が整っていないのです。平民が安心して暮らすことのできない街。
 王都も一部そのような区画はありますが……。


「面白い噂を耳にしてな。なんでも、このメルセンス領に、聖女が現れたと噂になっているではないか!」
「さあ? 私は知りません」
 面倒はごめんです。部屋へ戻ろうかと一瞬考えましたが、視界に入る朝食の準備を始めている使用人を見ると……申し訳ない気になります。

「モニカ様は、どうなさいますか? お部屋へご用意致しましょうか?」
 こちらの使用人も私の都合を優先してきます。の使用人がよほどだったということですね……。ここは、お言葉に甘え――。

「遠慮することはない! ここで取ることを許可してやる!」
 ものすごくいい顔で、アンデル殿下がそう高らかに叫びました……。



 結局、そのまま食堂で朝食を取ることにしました。
 部屋で取ることにしたら、アンデル殿下が更に騒いで屋敷の皆様に迷惑をかけそうだったので……。

「医療機関に聖女が現れたらしいな。お前ら、昨日視察したんだよな? 何かしたのか?」
「何のことなのか分かりかねます」
「お前には聞いてない」
 アンデル殿下の質問に返事をしたのはジャン様です。二人とも、おしゃべりをしながらだというのに所作はとても綺麗です。殺気立った雰囲気にそぐわない気品あふれる食事風景とは……。

「今日はどこへ行くんだ? 俺も連れてけ!」
「遊びに行くわけではありません」
「お前には言ってない!」
「不敬だぞ!」
「何がですか? 供も連れず、警備体制が不十分と分かりきっている場所へ出向こうとしている他国の王族を止めることがですか? 誰ですかそんなことを言うのは。全く、一体どんな教育を受けたらそんな発想が――」
「お前、本当に不敬だな!!!」

 ジ……ジャン様?


 ジャン様とアンデル殿下との小競り合いは小一時間続きましたが、最終的に、遅れてやってきたアンデル殿下のお付きの方々が殿下を回収し去って行きました。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。 顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。 辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。 王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて… 婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。 ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。 設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。 他サイトでも掲載しています。 コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

処理中です...