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第二部
13.視察5
しおりを挟む視察の目的は概ね果たされました。
問題山積だったようですが、現状のままにしておくわけにはいかないという結論にはなったようです。
『議会』の開催は来月です。
ジャン様の後見人についてなのですが、その際にその座から降ろされそうです。
彼は公爵家に連なる者として、プライドが高く子爵位のジャン様を下に見て悦には入る暇人でした。仕事ができないのであれば、当然でしょうね。
貴族というものは、なぜこうも手を抜きたがるのか……なぞです。
◇◆◇ ◇◆◇
メルセンス領に問題が山積していたため、ジャン様は滞在予定を延長することになりました。彼は私だけでも先に王都へ帰したかったようなのですが、私もここに残ることにしました。
穢れの排出がうまくいっていないことが少々気になります。暴動が起こりやすい状況にあるような気がしたので。
朝、いつものように朝食を取るため食堂へ向かっていると、騒々しい音が聞こえてきました。ジャン様が、誰かともめているようです。
この声は……え、なんでいるのですか?
「来たな! モニカ・リシュタンジェル!!」
「……どうして、この人がここにいるのですか?」
その場にいた人物に目眩がします。
貴方は勉学に励むために、わざわざ隣国から留学してきたのでは? なぜここで遊んでいるのですか? それにしても、朝っぱらから目に痛い絢爛豪華なお召し物ですね。メルセンス領は自然豊かな発展途上の田舎町です。そのようなゴテゴテとして動きにくい服装では、悪目立ちするだけですよ。
視察ではっきりと分かりましたが、ここは一般的な警備体制が整っていないのです。平民が安心して暮らすことのできない街。
王都も一部そのような区画はありますが……。
「面白い噂を耳にしてな。なんでも、このメルセンス領に、聖女が現れたと噂になっているではないか!」
「さあ? 私は知りません」
面倒はごめんです。部屋へ戻ろうかと一瞬考えましたが、視界に入る朝食の準備を始めている使用人を見ると……申し訳ない気になります。
「モニカ様は、どうなさいますか? お部屋へご用意致しましょうか?」
こちらの使用人も私の都合を優先してきます。実家の使用人がよほどアレだったということですね……。ここは、お言葉に甘え――。
「遠慮することはない! ここで取ることを許可してやる!」
ものすごくいい顔で、アンデル殿下がそう高らかに叫びました……。
結局、そのまま食堂で朝食を取ることにしました。
部屋で取ることにしたら、アンデル殿下が更に騒いで屋敷の皆様に迷惑をかけそうだったので……。
「医療機関に聖女が現れたらしいな。お前ら、昨日視察したんだよな? 何かしたのか?」
「何のことなのか分かりかねます」
「お前には聞いてない」
アンデル殿下の質問に返事をしたのはジャン様です。二人とも、おしゃべりをしながらだというのに所作はとても綺麗です。殺気立った雰囲気にそぐわない気品あふれる食事風景とは……。
「今日はどこへ行くんだ? 俺も連れてけ!」
「遊びに行くわけではありません」
「お前には言ってない!」
「不敬だぞ!」
「何がですか? 供も連れず、警備体制が不十分と分かりきっている場所へ出向こうとしている他国の王族を止めることがですか? 誰ですかそんなことを言うのは。全く、一体どんな教育を受けたらそんな発想が――」
「お前、本当に不敬だな!!!」
ジ……ジャン様?
ジャン様とアンデル殿下との小競り合いは小一時間続きましたが、最終的に、遅れてやってきたアンデル殿下のお付きの方々が殿下を回収し去って行きました。
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