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第二部
12.視察4
しおりを挟む最後の視察先は、医療施設でした。――貴族向けの。
領民向けの安価な医療施設へは、明日改めて向かうことになりそうです。
先代領主も後見人も、領民の健康管理を軽んじているようですが、疫病でも発生したらどうするおつもりだったのでしょうか?
『藁と煉瓦で病原菌を封鎖できるとでも思っているのか?』というようなことを、ジャン様が後見人に仰っておりました……。
◇◆◇ ◇◆◇
――さて、諸々終わると昨日同様、客間でジャン様と打ち合わせを行うことになりました。
「小さい精霊……というのは、いたのですか?」
「私には見えませんでした。ミントはいると言ってたのですが」
「え……それは……目に映っているのに『それ』だと認識していないということでしょうか」
私の返答に、ジャン様は考え込んでしまい――。
『そう! そうなのです! モニカ様が虫だの反射光だの言っていあの者たちが精霊なんです!!』
――え、そんなこと言われても……え、あれが精霊?
不思議そうな顔でこちらを見ているジャン様に、ミントからの言葉を告げると、彼は何かに納得したような顔をされていました。どこか、懐かしそうな顔をされています。
なんでしょう? 私にはピンと来ないのに、ジャン様の方が理解されているような……??
「ああ、いえ、昔に――――――いえ、何でもありません」
ジャン様が言う『昔』とは、あの頃のことでしょうか。
私は、もう、大丈夫なのに。
「仰って下さい。何かヒントになるのであれば!」
なかなかに言い渋るジャン様を説得するのは骨が折れましたが、最終的には勝ちました!
「光で遊んでいるようなモニカ嬢を見ました。初めて逢った時に……恐らく、殿下も気付いておられたのではないかと」
本当に気付いていたんですかね? 気付いていたけど、理解はしていなかったということでしょうか。結局、あんな騒動になってしまいましたし。
「精霊というのは、本来、言葉を話すようなものではないのかもしれません。だとしたら、愛し子なんて概念自体がないのかも」
そう言うと、ジャン様はおかしそうに笑いました。
「王家の皆様や教会のお偉方が聞いたら青くなりそうな台詞ですね」
◇
翌日となり、目的の平民向け医療機関へ向かったのですが――大規模な修繕が必要なのではないでしょうか。外観も内装も、組織も人も。
施設長が用意した視察用の『箱』は確かに綺麗でした。人材も物資も過不足なく配置され、理想的な医療機関に見えました。そこだけを見れば。
穢れを見ることができなければ、気付かなかったかもしれません。
耐久性に不安が残る荒ら屋のような場所で、薬とも言えない粗末な何かを処方されて終わり。『面倒だから放置しておこう』という責任者の強い意志を感じます。得心尽くの行いとしか思えません。
放置されていた重病人へ適切な処方を……行っているように見せかけて、精霊と神聖魔術で適切な治療を施しました。穢れが集まっているため、症状が悪化している可能性もありましたので。
施している間、ジャン様に人払いをお願いなどしたので、ご迷惑をおかけしてしまいました。
役人がわざわざここを視察先に指定して来たのですから、ここが一番待遇の良い施設だったと推察できます。
この医療施設に限ったことではありませんが、メルセンス領は他領に比べて穢れの排出がうまくいっていないようです。
陛下は諸々を見越して、ジャン様をここの領主へ? 王というのは、そのくらい頭が回らなければ務まらないのですね。
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