クズは聖女に用などない!

***あかしえ

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第二部

10.視察2

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 ジャン様は叙爵されて間もないタイミングで、一度、メルセンス領へ訪れたことがあるそうです。
 ――その時の民衆の様子に若干の引っかかりを感じたようなのです。
 もっと早く教えてほしかったです!

 ともかく、そういう理由もあり、私を現地にいきなり連れて行くのは不安が残る。ということで、ジャン様が一度確認をすることになりました。後見人への不信感も査察に踏み切った理由の一つです。
 確かに、ここへやってきた時の後見人の態度を見れば不安にもなるでしょう。
 ジャン様を侮っているのが手に取るように分かりました。

 この街は、前任者の頃から不穏な様相を呈していたのでしょうか。
『穢れにさらされて我を忘れた民衆が色々とやらかしてしまう』ことは、ジャン様も身をもって分かっているはずです。

 なので――――。





 ◇◆◇ ◇◆◇


 ジャン様一行は、朝食前の朝早くに出かけ、夜遅くに帰ってきました。

「すごかったんです! メルセンス卿が現れた瞬間に厚い雲が晴れて!」
「本当なんです! 枯れ果てていた井戸から水が出てきたんです!」
「驚きました! 荒れ果てて雑草一本生えていなかった畑から芽が出たんです!」

 目の前で興奮に声を弾ませているのは、今日ジャン様に同行された村人にふんした従者の方々。対するジャン様は困ったように頭をかいています。
 後見人の方は目を丸くして、言葉もないようです。昨日とはえらく違います。

 ――皆様の、この反応……やりやがりましたね、あの子たち……!



 歓喜に震える彼等の発言を整理すると――、

 ここのところずっと空を覆っていた暗く分厚い雲が、ジャン様が現れると同時に一条の光が差し、後に晴れ渡った――。
 水不足が訴えられる土地へジャン様が訪れると、干上がっていたはずの井戸に次々と水が湧き出した――。
 天候不順と穢れの汚染によりやせた田畑へ立ち入ると、足下からポツポツと小さな芽が出始め、気付けば畑全体がうっすらと緑に色づいた――。

 ――ということらしいです。



 客間でジャン様と二人きりにしてもらい、をすることになりました。
「マクマ! ……は、大きいからミント!」
 つい癖でマクマを呼びそうになりますが、今の彼は大きな馬形態なのです。室内にぶには、ちょっと邪魔です。
 以前の形態に戻すことができればよいのですが、やはり真の聖女様でなければむずかしいのでしょうか?

『お呼びでしょうか?』
 ミントが現れました。
 私の記憶がない間、ジャン様にもミントの姿が見えていたらしいのですが、今は見ることが出来ないそうです。

「どういうこと?!」
『モニカ様、濡れ衣です』
 ――今まではやっぱりわざとだったのね……。
『モニカ様のの影響が強くなり、弱体化していた小精霊が活性化したようですね。きみがお持ちのブローチや聖剣が媒介となり、土地に作用したのでしょう』
 ――わ、私のせい……?

「……ジャン様、私のせいかもしれません……」
「えっ?!」
「私の魔力? が、ブローチや剣を伝って小さい精霊? を活性化させてしまったようです。すみません……記憶を改ざんした方がよいでしょうか?」

 このまま噂となってしまえば、『真の聖女騒動』にジャン様が巻き込まれるのは必至です。私の不注意のせいでご迷惑をおかけしたくはありません。

「俺は構いませんよ。確かにおかしな噂に巻き込まれることになるでしょうが……言ってしまえば、噂も使いようによっては役に立ちますから」

 ――本当に、大丈夫なのでしょうか。
 確かに、領地を治める上で『精霊の加護を受けている』という類いの噂は、とても役に立つでしょう。ですが――彼は以前、ブローチの真実に気づきかけた平民に襲撃を受けました。噂の危険性については十分理解されているはずです。


 それに、私がそばにいる限りならないでしょう。このような事態は。
 ですが、危険な場所にいるかもしれないジャン様には、ブローチも剣も身につけていて欲しいです。


 噂をうまく利用する――そういう腹黒いことに、けている方がいらっしゃいましたね……。


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