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第二部
9.視察
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ジャン様が過保護全開で、アンデル殿下に食ってかかっています。守られるというのは、こそばゆいものですね。
――さて、いつまでも色ぼけている場合ではないようです。
ジャン様の胸元で輝くブローチが気になります。コロロやパックが、また何か迷惑をかけてしまう前触れではないでしょうね。
来週にはトラブルの渦中にある遠方への視察予定がありますから心配になってしまいます。前科がてんこ盛りの精霊たちが、思いもかけないことをしでかしてしまわないかと、とても心配です。
・
・
・
最終的に、アンデル殿下が逃げ帰っていきました。
「ジャン様、大丈夫ですか?」
仮にも相手は王族。精霊が事を起こすのと、ジャン様が彼に喧嘩を売るのとでは、対応が異なってくるのではないでしょうか?
「大丈夫でしょう。好き勝手に動いているように見えて、彼は色々と計算されているようなので」
「え?」
「俺が止めにくるのを見越していたんですよ。でなければ、貴女を守護する精霊たちに反撃を喰らうのは必至ですからね」
――ああ、あの子たちが大人しかったのはジャン様の気配を感じたから?
私の言うことは聞かなかったのに……!
「資料は見つかりましたか?」
「いえ。探している最中に絡まれたので」
「じゃあ、俺も探すの手伝います。どんな本をお探しなのですか?」
「ジャン様の視察について行くので、為になりそうな事前知識を入れておこうかと」
私がそう言うと、ジャン様は一瞬驚いた顔をして、すぐに嬉しそうに笑いました。不思議に思って聞いてみると。
「ああ、すみません。今まで兄に寄ってきたご令嬢とは全然違うんだな、と思って……」
「えっ?! このようなことはしない方がよいのでしょうか?!」
「まさか! とんでもない――って、俺がこう思ってしまうのも本来はよくないんでしょうね」
確かに、今の時代、女性はあまり小賢しいことを言うべきではない、という風潮はまだまだ根強く残っています。社会に進出しようとする女性もいるにはいるのですが、やはり苦労は絶えないようです。
時代と共に、価値観は普通に変わっていくものだと思うのですが……。
「いいと思います」
――そういうところ、好きなんですよ?
◇◆◇ ◇◆◇
それからの一週間はあっという間でした。
私は私で、メルセンス領の事前情報の収集に忙しかったですし、ジャン様も領主として内外に認められるための詰め込み教育も佳境を迎えているようでした。
視察結果によっては、ジャン様の実務が早まるかもしれないそうです。
これは……王命です。年齢的にも極めて異例な事態ではあるのですが、『穢れ』対策ができる領主というのは、現状とても貴重な存在なのだそうです。
――多少の懸念事項があろうともそれを凌駕してしまう程に。
メルセンス領は、王都から馬車で二日ほどかかる距離にあります。
二週間分の荷物なのですが……結構な量となってしまいました。
はじめは以前に行われた『聖女様の廓清パレード』と同程度の荷造りをしていたのですが、リシュタンジェル公に注意されました。
「今回は聖女様のパレードとは違う。次期領主夫人として向かうのだから、現地の有力者との社交も職務の一環となるだろう。厳格さも場を見誤れば礼を欠く」
そう仰ると、いつの間に用意していたのか、私用の正装用ドレスを持ってきて使用人の皆様に荷造りの指示をし始めました。流麗で迅速な指示に、口を挟む間もなく……私の視察様の荷造りは完了してしまいました。
――さて、いつまでも色ぼけている場合ではないようです。
ジャン様の胸元で輝くブローチが気になります。コロロやパックが、また何か迷惑をかけてしまう前触れではないでしょうね。
来週にはトラブルの渦中にある遠方への視察予定がありますから心配になってしまいます。前科がてんこ盛りの精霊たちが、思いもかけないことをしでかしてしまわないかと、とても心配です。
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最終的に、アンデル殿下が逃げ帰っていきました。
「ジャン様、大丈夫ですか?」
仮にも相手は王族。精霊が事を起こすのと、ジャン様が彼に喧嘩を売るのとでは、対応が異なってくるのではないでしょうか?
「大丈夫でしょう。好き勝手に動いているように見えて、彼は色々と計算されているようなので」
「え?」
「俺が止めにくるのを見越していたんですよ。でなければ、貴女を守護する精霊たちに反撃を喰らうのは必至ですからね」
――ああ、あの子たちが大人しかったのはジャン様の気配を感じたから?
私の言うことは聞かなかったのに……!
「資料は見つかりましたか?」
「いえ。探している最中に絡まれたので」
「じゃあ、俺も探すの手伝います。どんな本をお探しなのですか?」
「ジャン様の視察について行くので、為になりそうな事前知識を入れておこうかと」
私がそう言うと、ジャン様は一瞬驚いた顔をして、すぐに嬉しそうに笑いました。不思議に思って聞いてみると。
「ああ、すみません。今まで兄に寄ってきたご令嬢とは全然違うんだな、と思って……」
「えっ?! このようなことはしない方がよいのでしょうか?!」
「まさか! とんでもない――って、俺がこう思ってしまうのも本来はよくないんでしょうね」
確かに、今の時代、女性はあまり小賢しいことを言うべきではない、という風潮はまだまだ根強く残っています。社会に進出しようとする女性もいるにはいるのですが、やはり苦労は絶えないようです。
時代と共に、価値観は普通に変わっていくものだと思うのですが……。
「いいと思います」
――そういうところ、好きなんですよ?
◇◆◇ ◇◆◇
それからの一週間はあっという間でした。
私は私で、メルセンス領の事前情報の収集に忙しかったですし、ジャン様も領主として内外に認められるための詰め込み教育も佳境を迎えているようでした。
視察結果によっては、ジャン様の実務が早まるかもしれないそうです。
これは……王命です。年齢的にも極めて異例な事態ではあるのですが、『穢れ』対策ができる領主というのは、現状とても貴重な存在なのだそうです。
――多少の懸念事項があろうともそれを凌駕してしまう程に。
メルセンス領は、王都から馬車で二日ほどかかる距離にあります。
二週間分の荷物なのですが……結構な量となってしまいました。
はじめは以前に行われた『聖女様の廓清パレード』と同程度の荷造りをしていたのですが、リシュタンジェル公に注意されました。
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そう仰ると、いつの間に用意していたのか、私用の正装用ドレスを持ってきて使用人の皆様に荷造りの指示をし始めました。流麗で迅速な指示に、口を挟む間もなく……私の視察様の荷造りは完了してしまいました。
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