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第二部
7.嵐の前の…
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リシュタンジェル邸で開かれたお茶会は、問題無く終了しました。
予想外の客人が現れ、一時騒然としたことはありましたが、最終的に皆様に喜んで頂くことができたようです。
後日、皆様から改めてお礼をいただきましたが――学園では新たな問題が浮上しているようでした。
◇◆◇ ◇◆◇
「おはようございます、モニカ嬢」
「は、はい、おはようございます……って、ジャン様?!」
朝、学園へ向かうため、リシュタンジェル邸の車寄せにつけられていた馬車に乗り込もうとして、中にジャン様がいるではありませんか!
「どうされたのですか?!」
「ご迷惑でしたか?」
――とんでもない! ……嬉しいです。
「……大丈夫です」
「では、参りましょう」
素直に「嬉しい! 逢いたかった!」と言ってしまえば、よかったでしょうか。自分の気持ちに正直になりすぎると、わがままになってしまいそうで……加減が難しいですね。
何しろ彼は、私に甘いので。昔からずっと、私に『わがままを言って欲しい』と仰って下さいますから。
リシュタンジェル邸から学園まで、馬車で三十分ほどかかります。ですが、メルセンス邸からリシュタンジェル邸までも、馬車で三十分ほどかかるのです。
「何か用があったのでしょうか?」
そうでもない限り、朝早くからこんな手間のかかることをするはずがないと、そう思っていたのですが――。
「逢いたかったから、というのは理由になりませんか?」
「……え、あ、あの……」
「ご家族には適わなくとも、その他の生徒の誰よりも一番に挨拶をしたかった、というのも理由になりませんか?」
「ジャ、ジャン様?」
彼は目を瞑り腕を組んで、本格的に考え込み始めてしまいました。
――は……恥ずかしいです! え、え、ど、どうしたらよいのですか?!
「困ったな……。二人きりにもなりたかったし、ゆっくりと話もしたかった。
この手で触れられるほど、傍にいたいとも思っていました。我慢しろと言われても……難しいな。貴女はやっと俺を好きだと言ってくれたのに――」
「わ、分かりました! 分かりましたので!!!」
顔が熱い。本当に顔が熱い。もしかしたら赤くなっているかもしれない。
こんな感覚を味わったのは初めてです!
目の前のジャン様は、はじめは本当に真面目に考え込んでいるような顔をしていたのですが、最終的に楽しそうに笑い出しました! また揶揄われました!
しばらくジャン様と談笑しながら、学園への時間を楽しく過ごしていたのですが、後方でいきなり何かが崩れるような大きな音が聞こえて来ました!
「な、なんだ?!」
ジャン様がすぐさま反応し、馭者へ状況確認をしています。私はどうしたものかと考えていると、ミントが姿を現しました。
「ミント! 何があったのか知っている?」
『このワタシを拐かそうとしていたので、身の程を弁えさせました』
……あ、なんか理解しました。
「メルセンス卿……その……背後で、ソデイルの馬車が大破しているようで……」
馭者の困惑した声が、私の下まで伝わってきます。ジャン様はまだ状況がつかめていないようで、降りて状況を確認しようとし出したので。
「ジャン様、大丈夫です!」
「え?」
「……ミントの敵です。ここは彼等に任せましょう」
「え?」
『隣国の王太子が国内で大怪我をした』なんて、通常であれば国際問題に発展しかねない一大事です。ですが、王族の我儘というものに私は辟易しているのです。
大丈夫。
死ぬようなことにはならないでしょう。私はもう、面倒事の無意味なフォローは……しないことにしました。
――私は、真の聖女などではないのですから。
予想外の客人が現れ、一時騒然としたことはありましたが、最終的に皆様に喜んで頂くことができたようです。
後日、皆様から改めてお礼をいただきましたが――学園では新たな問題が浮上しているようでした。
◇◆◇ ◇◆◇
「おはようございます、モニカ嬢」
「は、はい、おはようございます……って、ジャン様?!」
朝、学園へ向かうため、リシュタンジェル邸の車寄せにつけられていた馬車に乗り込もうとして、中にジャン様がいるではありませんか!
「どうされたのですか?!」
「ご迷惑でしたか?」
――とんでもない! ……嬉しいです。
「……大丈夫です」
「では、参りましょう」
素直に「嬉しい! 逢いたかった!」と言ってしまえば、よかったでしょうか。自分の気持ちに正直になりすぎると、わがままになってしまいそうで……加減が難しいですね。
何しろ彼は、私に甘いので。昔からずっと、私に『わがままを言って欲しい』と仰って下さいますから。
リシュタンジェル邸から学園まで、馬車で三十分ほどかかります。ですが、メルセンス邸からリシュタンジェル邸までも、馬車で三十分ほどかかるのです。
「何か用があったのでしょうか?」
そうでもない限り、朝早くからこんな手間のかかることをするはずがないと、そう思っていたのですが――。
「逢いたかったから、というのは理由になりませんか?」
「……え、あ、あの……」
「ご家族には適わなくとも、その他の生徒の誰よりも一番に挨拶をしたかった、というのも理由になりませんか?」
「ジャ、ジャン様?」
彼は目を瞑り腕を組んで、本格的に考え込み始めてしまいました。
――は……恥ずかしいです! え、え、ど、どうしたらよいのですか?!
「困ったな……。二人きりにもなりたかったし、ゆっくりと話もしたかった。
この手で触れられるほど、傍にいたいとも思っていました。我慢しろと言われても……難しいな。貴女はやっと俺を好きだと言ってくれたのに――」
「わ、分かりました! 分かりましたので!!!」
顔が熱い。本当に顔が熱い。もしかしたら赤くなっているかもしれない。
こんな感覚を味わったのは初めてです!
目の前のジャン様は、はじめは本当に真面目に考え込んでいるような顔をしていたのですが、最終的に楽しそうに笑い出しました! また揶揄われました!
しばらくジャン様と談笑しながら、学園への時間を楽しく過ごしていたのですが、後方でいきなり何かが崩れるような大きな音が聞こえて来ました!
「な、なんだ?!」
ジャン様がすぐさま反応し、馭者へ状況確認をしています。私はどうしたものかと考えていると、ミントが姿を現しました。
「ミント! 何があったのか知っている?」
『このワタシを拐かそうとしていたので、身の程を弁えさせました』
……あ、なんか理解しました。
「メルセンス卿……その……背後で、ソデイルの馬車が大破しているようで……」
馭者の困惑した声が、私の下まで伝わってきます。ジャン様はまだ状況がつかめていないようで、降りて状況を確認しようとし出したので。
「ジャン様、大丈夫です!」
「え?」
「……ミントの敵です。ここは彼等に任せましょう」
「え?」
『隣国の王太子が国内で大怪我をした』なんて、通常であれば国際問題に発展しかねない一大事です。ですが、王族の我儘というものに私は辟易しているのです。
大丈夫。
死ぬようなことにはならないでしょう。私はもう、面倒事の無意味なフォローは……しないことにしました。
――私は、真の聖女などではないのですから。
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