クズは聖女に用などない!

***あかしえ

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第二部

 4.覚悟を決めます

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 本日、午後の早い時間に、リシュタンジェル家の町屋敷タウンハウスへ向かうことになりました。

 目的地は、コーベル家のそれと同様にかなり豪華な造りをしていました。
 家族構成は、御当主のリシュタンジェル公、リシュタンジェル公夫人、男児三人、女児四人。その内の長兄、次兄、長女は既に独立か嫁いでおり、普段、本邸にはいらっしゃらないようなのですが……全員にお出迎えをされてしまいました。

「よく来てくれたね」
 リシュタンジェル家の皆様は、さすが名家と言える完璧な挨拶を返してくださるので、気後れします。
 そんな私の心情も把握されているようで、痒い所に手が届くフォローっぷりです。子爵家と公爵家でこれ程までに気品に違いがでるものなのでしょうか?
 それ以外の理由については、あまり考えたくはありませんね……。


 ◇


 屋敷内の案内をしてくれたのは、次女である御年十七歳のベートラ様でした。
 彼女は一目見て分かるほど、良家の子女として完璧な教育を施された方です。
 その立ち居振る舞いは……少しだけ、アントワーヌ様を彷彿とさせましたが――躊躇いは一瞬のうちに消え去りました。

 彼女はとても朗らかで、人好きのする性格の方でした。
「妹たちがよく使用人区画に遊びに行くんだけど、両親がいない時は大目に見てやってね」
「使用人区画に? なぜ……」
 ――虐められてしまいませんか?

 純粋な疑問だったのですが、ベートラ様は一瞬、鎮痛な面持ちを浮かべられました。すぐに優しい微笑みに戻りましたが。


 私の居室としてあてられたのは、ベートラ様の隣の部屋でした。
 元々はギャラリーとして使用されていた部屋だったそうです。なんだか申し訳ないと思ったのですが――。
「絵画が見たくなったら家族みんなで遊びに行くわ!」
 と、ベートラ様は笑います。この部屋に一人で取り残されることは無さそうです。至れり尽くせりですね。


「――それで、今週末のお茶会についての話はもう聞いてるかしら?」
「はい。その……」
 ――本当に、私がいてもよいのでしょうか?
 別に、己を卑下して言っているのではありません。客観的に見て、私の貴族令嬢としての礼儀作法に疑念が残るのは事実です。
 ジャン様は私に甘いし、他の皆様もが誇張して伝わっているのか、気を使われてばかり。こんな調子でリシュタンジェル家の皆様にご迷惑をおかけするのはさすがにまずいだろうと思っているのですが……。

「貴女を我が家の一員として、と結婚する前に示しておきたいのが第一目的だから、貴女がいないと始まらないわ。
 貴女も分かってると思うけど、子爵夫人という立場も素敵だけど、公爵家の娘という立場も今後の貴女を守るために必要なものなのよ。頑張りなさい!」


 ――ジャン様と一緒に頑張ると決めた以上、避け続けてきた社交界にも顔を出さなければならない……ええ、そうですね。

 これは、腹をくくるしかなさそうです。
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