47 / 82
第二部
1.幸福な今
しおりを挟む
「あのっ! 本当に、本当に大丈夫でしょうか? どこかおかしいところとか、ありませんか?? 本当ですか? 私に気を使ったりしていませんか? それに――」
「大丈夫ですよ。おかしいだなんてとんでもない。貴女は、誰よりも美しい俺の自慢の婚約者様ですよ」
「……っ!!!」
「――ふっ……っくくく……」
「ジャン様、意地悪だったんですね!!!」
――もうっ! 信じられません! ジャン様が私に意地悪をしてきます!!
◇
この国の社交シーズンは、四月から九月までの春と夏の間です。
この時期になると、皆様、自領の田園邸宅から王都にある町屋敷へとやって来るのです。
私の養父であるリシュタンジェル公爵家の皆様も、町屋敷へいらっしゃいます。
『王都にある学園に通うため』という大義名分の下、王都にあるメルセンス邸(旧コーベル邸)で生活することを許されていました。社交シーズンで王都へやってくる間、私はリシュタンジェル邸で暮らすことになりました。
実は、初めてなのです。リシュタンジェル邸で生活するのは……。
しかも、早々に家庭招待会という名の社交パーティ? とやらをするらしいのです! ホーグランド家では長らく行われて来なかった行事です。
実母は私が幼い頃に亡くなりましたし、後妻となったあの方には、パーティを開くだけの諸々が備わってはいなかったようですし……。
……結局、ジャン様に泣きついて社交のイロハをたたき込んでもらっている最中なのですが……。
ジャン様は、『社交の基礎はきちんと身についている』と仰っていましたが、ついているはずないのです! 私にはそれらを教えてくれる父も母も、家庭教師も誰も居ませんでした。
ジャン様は私に甘すぎるので、こういう時、少々困ってしまいます。
「本当に、少しもおかしいところはないんです。モニカ嬢は本当に誰にも師事されていなかったのですか?」
笑いを引っ込めて、今度は不思議そうな顔でジャン様が私の顔を覗き込みます。
……ち、近い……。ジャン様はスキンシップを取ることに慣れているのでしょうか? 私のことを、とてもとても大事にしてくれているのを感じます。
感じますが…………照れます……!!!
――未だかつて味わったことが無いほどに!!!
「し、していませんっ!」
「家庭招待会は王宮で行われるような舞踏会ではなく、とても私的なものです。
招待状によると、テーマは音楽とのこと。楽団を呼ばれるようですから、大人しく席について、時折お辞儀をしていれば大丈夫ですよ。
学園の夜会と同じような者だと思えば」
――あの様なおままごとと……同じ……???
「そう言えば、春から隣国から留学生が来ると窺いましたが……」
思い出したように放たれたその質問に、先日、ミントから告げられた懸念事項を思い出しました。
「ああ! 言っていましたね。隣国の王族らしいですよ。
ミント情報によると、聖女騒動について独自の情報網を駆使して、何らかのおこぼれを奪い取ろうとやって来るようですよ?」
「え゛っ……」
ジャン様が若干引きつった顔をしています。
ご安心下さいジャン様! ジャン様のお手を煩わせるまでもありません。
私をこの場から遠ざけようとする愚か者は…………私が自分で排除致します。
「大丈夫ですよ。おかしいだなんてとんでもない。貴女は、誰よりも美しい俺の自慢の婚約者様ですよ」
「……っ!!!」
「――ふっ……っくくく……」
「ジャン様、意地悪だったんですね!!!」
――もうっ! 信じられません! ジャン様が私に意地悪をしてきます!!
◇
この国の社交シーズンは、四月から九月までの春と夏の間です。
この時期になると、皆様、自領の田園邸宅から王都にある町屋敷へとやって来るのです。
私の養父であるリシュタンジェル公爵家の皆様も、町屋敷へいらっしゃいます。
『王都にある学園に通うため』という大義名分の下、王都にあるメルセンス邸(旧コーベル邸)で生活することを許されていました。社交シーズンで王都へやってくる間、私はリシュタンジェル邸で暮らすことになりました。
実は、初めてなのです。リシュタンジェル邸で生活するのは……。
しかも、早々に家庭招待会という名の社交パーティ? とやらをするらしいのです! ホーグランド家では長らく行われて来なかった行事です。
実母は私が幼い頃に亡くなりましたし、後妻となったあの方には、パーティを開くだけの諸々が備わってはいなかったようですし……。
……結局、ジャン様に泣きついて社交のイロハをたたき込んでもらっている最中なのですが……。
ジャン様は、『社交の基礎はきちんと身についている』と仰っていましたが、ついているはずないのです! 私にはそれらを教えてくれる父も母も、家庭教師も誰も居ませんでした。
ジャン様は私に甘すぎるので、こういう時、少々困ってしまいます。
「本当に、少しもおかしいところはないんです。モニカ嬢は本当に誰にも師事されていなかったのですか?」
笑いを引っ込めて、今度は不思議そうな顔でジャン様が私の顔を覗き込みます。
……ち、近い……。ジャン様はスキンシップを取ることに慣れているのでしょうか? 私のことを、とてもとても大事にしてくれているのを感じます。
感じますが…………照れます……!!!
――未だかつて味わったことが無いほどに!!!
「し、していませんっ!」
「家庭招待会は王宮で行われるような舞踏会ではなく、とても私的なものです。
招待状によると、テーマは音楽とのこと。楽団を呼ばれるようですから、大人しく席について、時折お辞儀をしていれば大丈夫ですよ。
学園の夜会と同じような者だと思えば」
――あの様なおままごとと……同じ……???
「そう言えば、春から隣国から留学生が来ると窺いましたが……」
思い出したように放たれたその質問に、先日、ミントから告げられた懸念事項を思い出しました。
「ああ! 言っていましたね。隣国の王族らしいですよ。
ミント情報によると、聖女騒動について独自の情報網を駆使して、何らかのおこぼれを奪い取ろうとやって来るようですよ?」
「え゛っ……」
ジャン様が若干引きつった顔をしています。
ご安心下さいジャン様! ジャン様のお手を煩わせるまでもありません。
私をこの場から遠ざけようとする愚か者は…………私が自分で排除致します。
1
お気に入りに追加
2,752
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる