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第二部

 1.幸福な今

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「あのっ! 本当に、本当に大丈夫でしょうか? どこかおかしいところとか、ありませんか?? 本当ですか? 私に気を使ったりしていませんか? それに――」
「大丈夫ですよ。おかしいだなんてとんでもない。貴女は、誰よりも美しい俺の自慢の婚約者様ですよ」
「……っ!!!」
「――ふっ……っくくく……」
「ジャン様、意地悪だったんですね!!!」

 ――もうっ! 信じられません! ジャン様が私に意地悪をしてきます!!


 ◇


 この国の社交シーズンは、四月から九月までの春と夏の間です。
 この時期になると、皆様、自領の田園邸宅カントリーハウスから王都にある町屋敷タウンハウスへとやって来るのです。
 私の養父であるリシュタンジェル公爵家の皆様も、町屋敷へいらっしゃいます。


 『王都にある学園に通うため』という大義名分の下、王都にあるメルセンス邸(旧コーベル邸)で生活することを許されていました。社交シーズンで王都へやってくる間、私はリシュタンジェル邸で暮らすことになりました。

 実は、初めてなのです。リシュタンジェル邸で生活するのは……。
 しかも、早々に家庭招待会アト・ホームズという名の社交パーティ? とやらをするらしいのです! ホーグランド家では長らく行われて来なかった行事です。
 実母は私が幼い頃に亡くなりましたし、後妻となったあの方には、パーティを開くだけの諸々が備わってはいなかったようですし……。


 ……結局、ジャン様に泣きついて社交のイロハをたたき込んでもらっている最中なのですが……。
 ジャン様は、『社交の基礎はきちんと身についている』と仰っていましたが、ついているはずないのです! 私にはそれらを教えてくれる父も母も、家庭教師も誰も居ませんでした。

 ジャン様は私に甘すぎるので、こういう時、少々困ってしまいます。

「本当に、少しもおかしいところはないんです。モニカ嬢は本当に誰にも師事されていなかったのですか?」
 笑いを引っ込めて、今度は不思議そうな顔でジャン様が私の顔をのぞき込みます。

 ……ち、近い……。ジャン様はスキンシップを取ることに慣れているのでしょうか? 私のことを、とてもとても大事にしてくれているのを感じます。

 感じますが…………照れます……!!!
 ――いまだかつて味わったことが無いほどに!!!


「し、していませんっ!」
「家庭招待会は王宮で行われるような舞踏会ではなく、とても私的なものです。
 招待状によると、テーマは音楽とのこと。楽団を呼ばれるようですから、大人しく席について、時折お辞儀をしていれば大丈夫ですよ。
 学園の夜会と同じような者だと思えば」

 ――あの様なおままごとと……同じ……???


「そう言えば、春から隣国から留学生が来ると窺いましたが……」
 思い出したように放たれたその質問に、先日、から告げられた懸念事項を思い出しました。

「ああ! 言っていましたね。隣国の王族らしいですよ。
 によると、聖女騒動について独自の情報網を駆使して、何らかのおこぼれを奪い取ろうとやって来るようですよ?」

「え゛っ……」

 ジャン様が若干引きつった顔をしています。
 ご安心下さいジャン様! ジャン様のお手を煩わせるまでもありません。

 私をこの場から遠ざけようとする愚か者は…………私が自分で排除致します。
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