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第一部
37話
しおりを挟む『モニカァ大変っ!!!』
使用していた姿見から、出し抜けにコロロが大泣きしながら飛び出してきました! 慌てて抱きとめ事情を聞き出そうとしますが、要領を得ません!
「コロロっ!!!」
『ジ……ジャンが死んじゃうっ!!!』
――――――え?
――どういうこと?
ジャン様には、聖剣も、賢者の石で作られたブローチもあるのに?
怪我なんか……コロロが大泣きするレベルの怪我なんかするはず…………!!
◇
ミントに姿見を使って、ジャン様の私室へ不法侵入できるようにしてもらいました。この際、諸々は棚上げをして、ひとまずジャン様の現状を確認したい!
――いきなりジャン様の寝室の姿見から現れた不審者である私は、速攻でウェルス卿に見つかりましたが、実は彼がコロロに私を連れてくるよう依頼していたらしく、騒ぎにならずにすみました。
「――ジャン様?!」
血だらけの包帯に巻かれた痛々しい姿のジャン様が、寝台に横たわっていました。止血が完全でないようです!
【世ノ光成リシ者ヨ、――汝ガ導キニ於イテ彼ノ者ヲ癒ヤセ】
これは正真正銘癒やしの呪文ですが、効果の程は分かりません。私の体では実証できませんでした。ですが……数十秒かけて、ジャン様の表面上の傷が徐々に薄くなっていくのが分かります。包帯の下をゆっくり確かめると……治っていました! 綺麗さっぱりです! ですが、これは表面的な状態なので、皮下組織の損傷については私には分かりません。
なのでジャン様にはもうしばらく眠ってて頂きましょう。
【世ノ光成リシ者ヨ、――汝ガ導キニ於イテ彼ノ者ヲ和セ】
――これで、ぐっすり眠れるはずです。
差し当たっての緊急処理が完了したところで、ジャン様の寝台からやや離れた場所へ移動し、ウェルス卿に尋問をすることにしました。
「ウェルス卿、一体何があったのですか? 渦中にあってブローチを外したのはなぜなのか、ご存じなのではありませんか?」
あのブローチを着けていて、こんな怪我をするはずがありません。事が起こった最中、ジャン様はブローチを身につけていなかったということになります。
――しかし、ウェルス卿への問いかけに答えたのは、興奮状態のコロロでした。
『人間を守るためにブローチを外したんだ! 我が儘な人間なんか放っておけばいいのに、あのブローチには傷を癒やす効果があるから、傷ついた人間を癒やして回ってたんだけど、その内――』
コロロの説明では要領を得なかったので、ウェルス卿に何が起こったのかを説明してもらいました。
聖女様に懸想していた例の四人が暴走し、民衆を殺しながらコーベル邸へ向かっている事――。
衛兵を呼びに行かせた馭者が、怯えてジャン様に助けを求めてしまったため、衛兵ではなくジャン様がやってきてしまった事――。
そして四人を制圧した後、民衆を助けるためにブローチを使用していたところ…………ブローチの特性に気付いた民衆が、ジャン様を襲いブローチを奪おうとしたこと――。
人間が作り出したブローチならば、それで無理にでも手に入れることができるのでしょうが、あれは精霊が作り出したもの。精霊が認めた人間にしか、持つことはできない代物です。
民衆を助けようとしたまま、民衆に襲われ気を失ったジャン様のもとへ、ブローチは未だに戻りません。
『モニカさま! 人間をヤ――』
『ミント!』
哀しそうな顔のマクマと、怒り心頭のミントが喧嘩をはじめそうな一方で、窓の外から民衆の騒乱の声が聞こえてきました。
姿見で連中の様子を窺うと、四人は怪我人を盾にしてコーベル邸へ乗り込もうとしているのが視えました。
……どの面下げてここへ来たというの?
――「俺の聖剣を返せ!」
――「ボクのものだ!」
――「オレのだ!」
――「ぼくのに決まってるだろ!」
人が姿見で様子を伺っている間に、あの四人が敷地内へ侵入してしまったようです。階下で四人が揉め合う声と、使用人のものと思しき悲鳴が聞こえてきます。
「お前達、危ないから部屋から出るな! ジャンを部屋から絶対に出すな!」
ウェルス卿は、戸惑い指示を伺いに来た使用人にそう命じ、一人であの四人と対峙しようとされていたので……止めることにしました。
「モニカ嬢?」
「……怪我人もいるようですので、私がやります」
「え……いや、君それはもしや……」
ウェルス卿の顔に不安が広がっています。私の身を案じていると、受け取っておくことにしましょう。
「なぜお前がここにいる! モニカ・ホーグランド!!!」
エントランスへ通じる大扉を開けるなり、アベル・プランケット卿にそう怒鳴られました。怒声が反響しまくったようで、他にも何やら騒いでいるようですが、何も聞き取れませんでした。
それにしても皆様、随分と禍々しい出で立ちですね。
使用人の皆様が怯えていたのも納得です。コーベル家所有の私設衛兵が鎮圧にやってきたようですが、貴族相手に及び腰である様子が透けて見えていますね。
役には立たなさそうです。
「お屋敷の皆様は下がっていて下さい」
「え? いや、しかし……」
私設衛兵の皆様の反応はごもっともです。
ですが困りました……ここで人払いをすると、問題児まで立ち去ってしまうので、これはもう仕方がありませんね。あれこれ考えるのは面倒になってきました。
「私、皆様と違って無駄話がキライなんです」
「何をふざけたことを――」
皆様が口々に同じような罵声を浴びせてきます。
「――だから、直ぐに終わらせます」
【世ノ光成リシ者ヨ、――混沌ヨリ出デシ汝ガ僕ヲ……白キ獄ヘ繋ゲ】
――永遠に、お別れの時間です。
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