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第一部
34話
しおりを挟む教皇のその発言を機に、いつから控えていたのか高位聖職者と思しき人々が、ご大層な台座のような物をこちらに掲げながら膝をつき始めました。
――<披瀝灯>はもう要らないのですか? それに、マクマが教皇様の目を塞ぐように立ちはだかっているのですが――――おやまあ……?
「早くしたまえ」
と、枢機卿が催促をし始めました。
「一つお伺いしても宜しいですか?」
「なんだ」
枢機卿に向かって問いかけたのですが、教皇様が答えてくださいました。
「貴方は本当に教皇なのですか?」
◇
……結論から言うと、教皇様は偽物でした。防犯のためにも、信頼の置ける人間の前にしか姿を現さないらしいです。
本当の教皇様はきちんと話をご理解いただける方でよかったです。マクマ達のこともきちんと見えるようですが……初手がまずかったですね。
特にコロロ、親の敵を見るような目で教皇様を睨みつけてます。聖剣諸々が欲しいのであれば、ご自分で何とかしてください。
「申し訳ございません。しばいた方が宜しいでしょうか?」
マクマの不敬について確認したところ、殿下と共に青くなられたのでその必要はないようです。
現在、教会深部にある教皇様の私室に、教皇様、殿下、枢機卿、ジャン様、私の五名とその他の生き物が集まっています。ジャン様は居心地悪そうですが。
「其方が神聖魔術を行使できると言うのは本当かね?」
「……はい」
――本当は誰でも使える魔術ですよね? 今、それを突っ込んでも大丈――。
「神聖魔術は誰にでも使える魔術ではないのだ」
「え? あの、でも……」
「君がなぜ、それほどまでに拒絶するのか理解は出来ぬが…………お主は――」
――何かを言おうとした教皇様を、マクマが蹴っ飛ばしました!!!
恐らくこの世で最も高価であろう椅子に座っていた教皇様が、そのまま床に転げ落ちました!!! 一族郎党、極刑待ったなしです!!!
「何してるのマクマ――っ?!?!」
「教皇お怪我は?!」
『ボクの許しも無しに余計なこと言わないでね?』
――しかも教皇様に対し、あるまじき暴言!!!
「マクマァァァ!!!」
『ぎゃあああ!!!』
尻尾を掴んで振り回し! お説教タイムです!!!
「や、やめるんだ、モニカ嬢!」
「私は大丈夫だ! ひぃぃっ!」
「どうしたのですかモニカ嬢?? 何をして……??」
怯える殿下と教皇様及び枢機卿、そして私のことだけをひたすらに心配してくれるジャン様と……。
『あはは、ぐるぐるぅ』
『マクマ様は短絡的なのです。ですがまあ……当然ですね』
『あの白い人キライ!!!』
臨戦態勢の精霊達が……!
「不穏だからアンタ達は外で待ってなさい!!!」
『はぁい……』
しょんぼりと壁を抜けていく様は可哀想ではありますが、致し方ありません。
「お主は……<いにしえの精霊>とも契約をしておるのか? 歴代最高と謳われた聖女ですらそれは叶わなかったというのに――」
「私は契約などしておりません。する意味もありません。行動を共にしているだけです」
「しかし……お主の指示に従っておったであろう?」
「……じゃあ……飼い主?」
皆様がまた青くなってしまわれました。
精霊というものに夢を見過ぎなのだと思います。合戦中に神聖魔術をおやつと称して食べてしまう知能レベルですよ? 現実を見ていただかなくては先が思いやられます。
さて、残る問題は――。
「<披瀝灯>の管理すらできなかった体たらくでは、精霊達の信頼を得るのは難しいでしょう。いずこかへ還されるのが関の山だとは思いますが……お望みとあらば聖剣とあの子達、ここへ置いていきますが――――いかがいたしましょう?」
◇◆◇ ◇◆◇
色々ありましたが、無事、現状維持を獲得しました。
行き過ぎた特権意識など持たなければ、まだチャンスはあったと思うのですが。
「あの、モニカ嬢、やはり俺には荷が重いというか……」
「コロロが泣きます」
「分かりました! ……じゃあ、本当に……もらってしまってもよいのですね?」
「ありがとうございます」
帰りの馬車の中、ジャン様にようやく聖剣の受け取りをしていただけました!
「それと、もしかしてこのブローチも……?」
「はい! コロロという狐に、<賢者の石>で作ってもらいました!」
「け……っ?!」
「ご安心を! 私達が知っている<賢者の石>とは違うものですよ。きっと、ありふれた鉱物の集合体でしょうからお気になさらず」
「――結局、聞けませんでしたね」
不意に、ジャン様が鋭い眼差しで窓の外に微かに見える教会を見ながら呟きました。それは私も考えていたことなのですが。
リュクレース・ガーヌを聖女として推薦した司教――聖女を見つけた功績が認められ、枢機卿に任命されたようですが――の行方について、ウェルス卿から伺うことはできませんでした。ならばと思っていたのですが……本当に行方不明であり、教会も現在捜索中だそうです。
教会が彼女を聖女だと認定したのも……権力闘争の結果に基づくところが大きかったようです。どの聖女候補も治癒の力が弱く神聖魔術は使用不能、決め手にかけていたのだと。最終的に公会議が開かれ決定されたのだと言います。
確かに、マクマは初めから『人間が勝手に決めた愛し子』と言っていましたね。
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