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第一部
33話
しおりを挟む当然と言えば当然なのですが……最終的にコーベル一派は捕縛、聖女様は教会へ審問のために拘束されることとなりました。
コーベル嬢のご友人は後始末をした私に対して、「証人を屠るとは、あの女狐の仲間か! なんと恥知らずな!」と私を罵ってきました……。状況判断能力に乏しい方々だったようです。
直ぐに城に詰めていた常備軍がコーベル嬢及びその仲間達を拘束、聖女様を追跡捕獲し事態は収束しました。幸い、民衆に大きな被害は出なかったようです。
皆様、的確な状況判断能力と清く正しい常識を御持ちだったようで、大事には至りませんでした。よかった、よかった。
聖女様は教会所属のお方なので、王族と教会とで一悶着あったようですが一週間も経たない内に、教会の奥深くにある拘束室へ軟禁される運びとなったようです。
<披瀝灯>を持ち出した神官についてですが、彼は独断と偏見に基づき、心酔していたとある女性のために動いていたそうです。あの魔導具は秘匿事項とされてきたので、それを持ち出せたということは……彼はそれなりの地位にいる人物なのでしょう。
そんな彼のその後の状況について、教会は黙して語らずですが「もう面倒をかけることは二度とない」だそうです。
これらの情報はウェルス卿からもたらされました。
ウェルス卿の見立てでは、あの神官はコーベル嬢に恋愛感情を抱いていたらしいです。
コゼック伯爵子息もアジェ辺境伯子息も……コーベル嬢も隅に置けませんね。それだけ多くの方に愛されていたのに……彼女は冷静になれなかったのでしょうか?
ジャン様は避難民の誘導及び護衛を行っていた為、そしてウェルス卿は私と共に悪魔を退治したとして、お二人が責任を問われるようなことにはならなかったそうです。コーベル嬢だけでなくご両親も拘束されてしまったため、現在はウェルス卿がコーベル公の代わりに様々な公務を行っているそうです。
そして私の身辺についてですが、父はコーベル派は無実であると王家や教会に釈明してくるように、と私に命を下そうとしています。父の中では、娘は父親の言うことを聞くもの、娘が聖女であろうとなかろうと所詮は只の道具であり己の言うことを聞くべき愚かな存在――ということになっているようです。
そういうことは、私の人払いの魔術に勝てるほどの強い意志を持ってからにしていただきたいですね。
普通に考えて、私が聖女と確定されればこの父では不適格として高位貴族と養子縁組をされることになると思いますが。下手に盾突けば処分されるでしょう。
どちらにせよ…………行動は早くされないと皆様、記憶がなくなってしまうかもしれませんけどね?
現在、ミントにあの一連の聖女騒動から私のことだけ綺麗さっぱり忘れてもらう為の薬か術かを探してもらっていますので。
血迷ってないで、早く新しい<真の聖女>を探してください。
ああ、ミントと言えば――<披瀝灯>は穢れが強すぎて対処できる人間がいなかったため、パックに浄化してもらったのですが……その後、なぜかミントがイヤイヤ期に突入してしまった為、教会への返却が難航しております。
◇◆◇ ◇◆◇
「モニカ嬢……?! どうして、ここに……」
教会の奥深く、本来王族と特殊聖職者、そして聖女様しか入ることを許されていない書庫で、ジャン様と遭遇しました。
私が今日ここにいるのは、マクマ達の本当のところを知りたかったからです。殿下に特別にお話を通していただきました。……聖女である疑いをかけられている身としては、教会に顔を出したくはありませんでしたが……最終的にミントに皆の記憶を消してもらうのですから大丈夫でしょう。
殿下に教会から本を盗み出してこい、と頼むわけにはいきませんからね。
「精霊……のことを、お調べに……」
「そういうジャン様は?」
「ええ、俺も教会へ来たついでに精霊のことを知りたくて――」
「ついで?」
「ええ……聖……あの人が……」
『あのお方は正式に聖女ではない』と、通達が広く下されるまでには政治的な駆け引きの結果、もうしばらくの時間が必要なのだそうです。
ジャン様は元・聖女様から証言を引き出すために教会の要請で、彼女との面会を終えた帰りだったようです。家のことについても聖女様のことについても、彼は大変辛い立場に置かれていると言うことは分かっています。
――コーベルの家など、捨ててしまえばいいのに。
「ああそうだ! あの、この剣をお返しさせていただこうと思ったのですが――」
私としては、あれはコロロからジャン様への贈答品という認識でしたのでそのままにしていました。ジャン様の言葉を受け、コロロが涙目でジャン様を見ています……私の足下で…………気付きませんよね。
「ええと、それ……お邪魔でしょうか?」
「え? いえ、そのようなことはありませんが――」
「なら、もらって頂けると助かります。でなければ、その……製造元が――泣きます」
「えっ?!」
足下へ視線を送ると、ジャン様は私の足下に見えない何かを探すように視線を彷徨わせていました。
やはり、ジャン様には見えないようです。
「モニカ・ホーグランド嬢――ですな?」
ジャン様をもう少しで説得できそうなところへ、見覚えのある長い白髪の老人と白髪交じりの聖職者が現れました。お召し物と様相からして枢機卿と――。
「以前にもお見かけ致しましたが、直接お話をさせていただくのは初めてですね。我が名はイマヌエル・ヨップ、枢機卿を任されております。こちらは――」
教皇、ヴィンフリート・ホンド――枢機卿の顔と名は知らなくとも、教皇の顔や名を知らない貴族はいません。屋敷の礼拝堂には肖像画も飾られています。
ひとまず恭しく一礼をしました。さて――――。
「単刀直入に言わせていただこう。君たちが有している聖剣、ブローチ及び精霊は、本来は教会が管理すべき物である。早急に返還を命じる」
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