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第一部
30話
しおりを挟む宮殿前のベストポジションに、コーベル一派は陣取っておりました。コーベル公及び奥方、高位神官の方々も何名かいらっしゃるようです。
もう、直ぐに分かりました。
なぜかって? ……彼女達の下へ大量の穢れが集結しつつあるからです!
高位神官のお歴々が気休め程度に結界を張っているようですが、効果の程は推して知るべし。
しかし……精神状態が健康な人には、穢れというものは本当に見えないのですね。穢れは神官の一人が手にしている黒い包みに向かって集められているように見受けられます。一見すると呪詛のようにも見えるのですが……。
あの穢れ、消し去った方が安全ですよね……近づきすぎるとバレますし、どうしたら――――――おや? 歓声が……。
目の前のコーベル一派の穢れに気を取られている間に、聖女様の馬車がやって来てしまいました。そう言えば廓清パレードについて回っていましたが、こうしてしっかりとパレード中の彼等を見る機会はありませんでしたね。
自室の姿見で視た前評判は芳しくありませんでしたが、実際に目の前で繰り広げられているのは沢山の歓声に囲まれている……どす黒い聖女様方といった光景です。
穢れに遮られて何も見えない! 己の屑さが憎い――などと感傷に耽っている場合ではありませんでした!
「そこまでよ! リュクレース・ガーヌ! わたくし、アントワーヌ・コーベルの名において、お前のような穢れた存在を許すわけには参りませんわっ!!!」
聖女様が乗る馬車の前にいきなりコーベル一派が飛び出しました!
当然、馬が暴れて暴走しかけます。……仕方が無いのでばれないように神聖魔術で馬の精神を安定させました。暴れ馬が襲うのがコーベル一派のみならば放置していました。無関係な一市民に一生残る傷を負わせる危険性もあるというのに……。
コーベル嬢は……変わることができないようですね?
「何を考えている!」
そう怒鳴ったのは、聖女様を乗せた馬車の馭者を務めていた神官の一人でした。
「お怒りはごもっともですわ! けれど……神に誓ってこれ以上の愚行を見過ごすわけにはいきませんわっ! さあ、皆も! これをご覧なさい!!!」
馭者のあまりの剣幕に一同呆気に取られたようですが、直ぐにコーベル嬢が復活し高らかに宣誓すると、包みを手にしていた一人の神官を勢いよく振り返ります。
「この者達の嘆きこそ、その女が罪人であることの証拠ですわ!!!」
彼女の動きを受けて、神官が周囲に見せつけるように手にしていた包みを掲げ、その布を解きました。
え、民衆にあんな穢れに満ちた物体を見せるのですか?
大丈夫なのでしょうか? あれ――。
『大丈夫じゃないよ! 披瀝灯に穢れを集めるなんて! あの人達、なんにも分かんないで化け物作っちゃってる!』
マクマが切羽詰まった様子で私の腕を引き、渦中へ連れて行こうとしてきます。
――パック! この辺浄化して!
『わ、分かったぁ』
……大きな光を放ちながら周囲を飛び回り始めたパックですが……のんびり屋の彼も彼なりに混乱しているようですね。間に合うでしょうか?
あ、馬車の上にいた殿下がパックの動きに気付いたようです。
そして同時に、沿道に一人残っていたウェルス卿が私に気付きました。
『もうっ! あなたたち最低! 何をしてるのか分かってるの?! これだから人間は……もうっもうっ!!!』
ミント! ウェルス卿と喧嘩をしている場合ではありません!
……あと<披瀝灯>って何?
『過去の愛し子たちは罪人に自白させるために使ってました。欲望をたくさん増やして嘘をつけなくさせていました』
「え、それってかなり危ないんじゃ……」
『愛し子たちは穢れを押さえることができるから、みんなが使う分には問題なかったんです……』
『死者の怨恨を増やすってことがどういうことか分かってンのかお前っ!
あーっもーっ! だから人間イヤなんだよっ!!! 言っとくけどなぁ!
俺たちはお前ら人間が絶滅しようが、本来どうでもいいんだよっ!!』
最後はコロロがウェルス卿に切れましたが……アンタ何言ってるの?
「<披瀝灯>……精霊と人間との間には、そんなにも隔たりがあるとはね……」
精霊達に何を言われても飄々としていたウェルス卿ですが、流石に堪えているようです。彼を慰める気はさらさらありませんが。
「ウェルス卿! 項垂れている場合ではありません! コーベル嬢から披瀝灯を取り上げて下さい!」
『間に合わないよ、モニカ!』
「――――え?」
――到底人の物とは思えない……しかし獸とも思えない、異常な咆哮が宮殿前広場に轟くのと同時に、公衆の面前に晒された披瀝灯から……おぞましい様相の女性の巨大な頭が大量の瘴気と共に出現しました!
披瀝灯に集まる穢れは未だ止まる気配を見せません。一目見ると汚泥に塗れた岩のような……幾体もの骸骨が巨大な頭を殴りつけている…………。
あれではとても証言などできそうもありませんね? コーベル嬢。
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