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第一部
26話
しおりを挟む――彼がこの街中まで付いてきたのは、精霊達ではなく聖女様の過去を探るのが目的だったのでしょうか?
過去の罪でも暴いて、妹君同様、衆人環視の中で聖女様をざまぁしたいと?
ウェルス卿からはコーベル嬢と異なり、穢れを感知できなかったので油断していました。私も自分の穢れは感知できませんので、己の感知能力はたかが知れていますが……。
まあ、私には関係な――――――――――――――――――いいい(以下略)。
――フォローすればいいのでしょう! フォローすれば!!!
「ウェルス卿、誰にでも過去に些細な過ちの一つや二つは犯しているものです。それを態々、遠い街を巻き込んで角を立てる必要があるのでしょうか?」
仮にも教会が聖女とした少女です。人倫にもとる行き過ぎた行為や、法を犯すような行為はしていない…………はず……です…………よね?
(『あの聖女様…………人殺しなんだよね』)
……姿見から聞こえたような気がしたアレは……夢だったのでしょうか?
それとも………………。
「確かに尤もなご意見ですが、そうではないかもしれないとモニカ嬢自身も思っていらっしゃるのではありませんか?」
だとしても私には関係――――なくはないですね! 大変な事態ですね! 真面目に考えなければならない事態ですね!!
「ですが、私は異常事態でも起きない限り能動的に調査する気はありません。いたずらに騒乱の種を探しに来たわけではありませんので。
事に触れずに、事態を治めることが可能ならばそうします。ですので……私に対して、過度な気遣いは無用に願います」
穢れの流れは見えています。数十キロ離れた街々の穢れを吸い寄せてしまうほどの何かがあるのだとしたら、話は簡単です。それを処分すればよいだけの話です。
「ウェルス卿は代表の方からこの近辺で起きている異常事態や住民の健康状態などをお伺いして下さると助かります」
お願いしているように見せかけて、マクマとコロロに圧力をかけて頂きました。
――快諾して頂けたようで何よりです。
◇◆◇
穢れは村のはずれにある、壊れた集落へと向かっているようでした。風で流されているわけでもない……自発的に動いているようにしか見えません――。
木造の小さな家が十数件のみの小さな壊れた集落ではありますが……。
野党にでも襲われたかのような惨状ですが、苔生す様子も無く風化するには少し早いこの有り様……。もしかしなくともこの区画だけつい最近、故意に破壊されたような印象を受けます。この辺りの事情についても、後ほどお伺いさせて頂くとしましょう。
「おい! 危ないぞシスター!」
――『シスター』? ああ、私のことですね、そう言えば修道女の格好をしているんでした。
廃村へ向かう私に気付いたのか、町人と思しき青年が一人やってきました。
「危ない、とは?」
「悪魔が出るんだよ! 今までも沢山の神父様が祓いに来てくれたけど、誰も祓えなかったんだよ! 死にたくなきゃアンタも……」
「悪魔ですか。――あ」
などと青年と世間話を始めていたら、件のお方がいらしたようです。皮と骨だけの子供のような輪郭に、黒々とした毒々しい諸々が……何とも悪魔らしい悪魔ですね。
悲鳴を上げて泣きわめく前にとっとと逃げていただきたいのですが……。
【世ノ光成リシ者ヨ、――混沌ヨリ出デシ汝ガ敵ヲ……撃チ滅ボセ!】
――よしっ! 追加がきました。おや? おやおや?
おやおやおや…………一体何体いるのですか!!!
討っても討っても次から次へと現れるのではキリがありません! やはり、穢れを呼び寄せる何かを消滅させるしか――――。
「ア、アンタ…………聖女様か?!」
「私をあの人と一緒にしないでいただきたいのですが?」
――まだ逃げていなかったのですか?! 腰でも抜けましたか?!
「え? え?」
「兎も角! 私はこの先へ向かいますので、貴方はご自分で逃げて下さい。
よろしいですね?」
「は……はいっ! ひっ……人を呼んできます!!」
「そんなこと言ってませんっ!!!」
……青年は私の最後の一言をちゃんと聞いてくれていたでしょうか? 若干不安の残る退場の仕方ですが……。
まあ、今は先を急ぐとしましょうか。
【世ノ光成リシ者ヨ、――混沌ヨリ出デシ汝ガ業ヲ……滅セヨ!】
瘴気となった穢れを祓いつつ、廃村へと足を踏み入れようとするのですが瘴気の濃度が濃く祓っても祓っても直ぐに視界が遮られます。
……自動で発動し続けるようなそんな呪文、呪文……??
『【眷属ヲ退ケヨ】って言ってたよ!』
……ああ、そう言えばそんな呪文もありました。
マクマはどうやら過去の聖女様方とのやり取りを思い出しているようです。幼児に見えますが、一体何歳なのでしょうか?
【世ノ光成リシ者ヨ、――混沌ヨリ出デシ汝ガ眷属ヲ……退ケヨ!】
おおっ、私の周りの瘴気が自動で消滅していきます。コレは便利ですね。効果範囲はさほど広くない…………おや? どうやら範囲も威力もこちらの意思に応じて変化するようです。
それもそうですね。神聖魔術とはそういうものでした。
瘴気を祓ってしまえば、諸悪の根源は直ぐ目の前にありました。村の中心にある井戸から、穢れが湧き出しているのが見えます。
生命線とも言える井戸に穢れを招くような何かを入れたとは考えにくいですが、事故でも起きたのでしょうか?
まず、井戸全体を浄化してみましたが効果はありませんでした。瘴気を浄化する呪文では発生した穢れにしか効果がないようです。
ひとまず、元を絶つため闇を除去しておきますか。
【世ノ光成リシ者ヨ、――混沌ヨリ出デシ汝ガ業ヲ……滅セヨ!】
手応えはありました。何かに命中し、霧散したようですが――――。
――『ォ姉…………チャ………………許サ……ナ……ィ』
――え? 今の声………………何?
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