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第一部
25話
しおりを挟むそして肝心の廓清パレードでは、聖女様の浄化を求め多くの穢れに見舞われた人々が沿道に詰めかけているというのに、聖女様は煌びやかな物以外は全て無視、縋り付こうとすれば「取り巻きが黙っていない」と言外にアピールする始末らしいのです。
しかもその噂が、いつの間に民衆の間に広まったのか、民衆の中には沿道から睨みつけるような強者まで現れているそうです。
このままでは、穢れが大量に集まるパレード中に、学習能力の無いどこかの誰かが召喚術など行使して大問題になりそうで戦々恐々としております。
殿下に前もって忠告はしているのですが……前例が二度もありますので、今ひとつ安心できません。
毎度毎度、パレードの度に結構な量の穢れを溜め込んで戻られるのですが、その分街の穢れが除去されている……ようなことはありません。
パレード中の彼女の様子を、殿下やジャン様からお伺いしたいのですが同行者が多いためか何だかんだと都合が付かず出来ずじまいです。
――私の体は一つしか無いというのに!!!
どこの領地にも、本来の許容量を軽く超えた量の穢れを貯蔵している集積場があり、そこを浄化するためにこっそり足を運んでいたのですが……全ての集積場において、貯蔵されていたはずの穢れがなくなっていました。
現地の管理人である神官様方にお話をお伺いしたところ、初めは気付いてすらいないようでした。穢れの濃淡を図る専用の計測を用い、初めて事の重大さに気付いたようです。後に彼等から面倒な追求をされかけましたが、適当に流して立ち去り続けました。
穢れとは心が清らかであればある程、見えなくなるものなのでしょうか?
マクマが言うにはどこの集積所も、穢れは既にどこかへ移動した後らしいです。浄化ではなくあくまで移動しただけだと。
そう言えば、実習場の穢れは意思を持ったかのように動いていましたが――。
「ねえ、穢れって集まると意思を持つものなの?」
『知らないよそんなの! だって、あれは人間が作り出したものだもん!』
精霊といえども、全知を有しているわけではないようです。
『……と言うより、人間の進化と共に突然変異を起こしたのかもしれません』
ミントは周囲の状況を冷静に分析しながら、そう結論づけました。
民衆におかしな影響はないようで、消えた穢れの行方はパックとミントで探すことができるらしいので、お願いしました。
……というか、本来聖女様の役目なので、私には関係ないことのはずなのですが……なぜ、私がやらなければならない流れになっているのでしょう?
◇◆◇
『機嫌直してよモニカぁ! モニカだって綺麗な空気で生活したいでしょ?!』
マクマが何だかんだと理由を付けつつ、人に浄化作業をさせようとしてきたのは、廓清パレード六日目、一行が最後の街へと向かっている幌馬車の中でのことでした。
聖女様方は前の街を昼前に出発し、夜には最後の街へ到着する予定となっていますが、最後尾を走っている私の馬車は途中で方向転換を行います。
事前に神官様にお伝えし、了承を頂いておりますので問題ありません。ですが、詭弁を弄する必要もなく神官様からの許可を頂くことができたのは、ウェルス卿が介入してきたからに他なりません。
――つまり、それはそれで面倒なことになっているのです!!!
「若輩ながら、某もお力添えをさせていただきますので」
いかにも何か企んでいますと言わんばかりの顔で、ウェルス卿がそう仰います。マクマは意味が分かっていないのか、顔に疑問符を浮かべて彼を一瞥するだけですし、コロロに至っては再び壁を建設中ですし…………おかしな金属でおかしなものを造り出すのは止めなさい!!!
――オ・リハル・コン? って何ですか。
「モニカ嬢、おうかがいしたいのですがこの馬車……かなりスピードが出ていませんか?」
ウェルス卿の焦った表情は……初めて見ますね。今後のために、少々脅かしておきますか。
「出ていますよ。通常の馬では目的の街へ間に合いませんので」
――馬にも馬車にも、マクマが特殊加工を施しました。私に穢れを浄化させるための努力は、惜しまないようです。パックがいれば私は必要ないようにも思うのですが。
「強度的に大丈夫なのでしょうか?!」
「…………私は大丈夫ですが?」
「………………!!!」
溜飲が下がる、とはこういうことを言うのでしょうか?
しかし、愉悦に浸っている暇はありません。周囲の様子が明らかに異常です。
「ウェルス卿、外の様子をどうご覧になりますか?」
「外ですか? ……ああ、これは――――」
幌から顔を出してみると、ある一定の方向に向けて風が吹くように穢れが移動している様子が見えます。しかもかなり大量の。
「ボクには到底祓えそうにありませんが、貴女の手にかかれば造作も無いことなのでしょうね?」
――騒ぎに乗じて貴方を消し炭にすることも、造作も無いのですが?
「……恐ろしい目つきをしないで下さい。ボクは己を知る男ですので、お邪魔はしませんよ」
馬を飛ばした甲斐もあり、目的の街には夕暮れ前には辿り着く事が出来ました。
しかし、既に日が暮れてしまった――――と勘違いする程の穢れに覆われていました。
街の人々は勢いよく走り込んできた馬車に何事かと集まってきたようですが、修道女姿の私が姿を現した所、直ぐに要件を察知していただけたのか、代表者との謁見の手筈を整えて下さいました。
「君は、この町がどういう町か知ってるのかい?」
――穢れまみれの町……という意味ではないでしょうし……………………何??
「ここは、あの聖女様がお生まれになった町なんですよ」
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