24 / 82
第一部
24話
しおりを挟む初志貫徹! 高位神官や極一部の民衆の冷たい視線など気にも止めず、聖女様は観光を満喫しております。
せめてもう少し大人しく観光してくれていれば、聴衆が穢れを生み出さずに済むのですが……。
事前通知されていた通り、初日は王都の観光スポットを巡って終わりました。
王都はそれほど穢れが侵攻していないので最悪「唾でも付けて治しとけ」対応でも自然浄化するでしょうが……。ひとまず、私は残された『聖女様の身の回りのお世話』という任を果たさなければなりません。愚痴や罵詈雑言を聞き流すだけですが…………おや? 照明が切れたのでしょうか? 暗いですね……??
「ねえ! 今日のわたしどうだった?! 綺麗だったでしょ!?」
「ああ勿論だ!」
「綺麗だよ、リュー」
「君は本当に、本当に…………」
聖女様のように割り当てられた客室の扉を開けるなり、驚くべき光景が目の前に飛び込んできました! なんと……下着姿の聖女様と、四バカがいるではありませんか!!! 何してんですか!!!
……ひとまず問答無用で彼等を叩き出しました。
廊下の照明が暗くなっていたわけではなく、聖女様が今日一日で周囲の穢れを大量に寄せ集めてきてしまったようです。穢れに耐性があるのは良いことなのでしょうか? ご自分では気付けず、浄化することもできないようではありますが。
しかし、このままでは明日に差し支えそうですね。
ばれないように祓っておきますか。
「……ええと、王宮でのお戯れは程々にされるのが宜しいかと思われます」
「うふふっ、モニカってば真面目なのね! 全く良い方に作用してないけど」
「お恥ずかしい限りです」
聖女様を指導教育する気はないのでどうでもい――――――――痛!!!
「――ねえ、今日のパレードのアイツ見たぁ?」
心当たりが多すぎて、誰の事を指しているのか分かりませんが、一番可能性が高いのは――。
「コーベル嬢……ですか?」
「そうそう! うふふっ、わたしが殿下と腕を組んで歩いた時のあの女の顔ったら! あははっ! 普段どれだけ澄ましてたって、わたしに嫉妬してるのが丸わかり! 最っ高に気分いいわ!」
……これは……些か、カミングアウトが過ぎるのではないでしょうか?
聖女様、パレード初日からそれほどまでに高揚されて、大丈夫なのでしょうか?
明日も早いので早めのお一人でのご就寝を何とかご理解頂き、漸く寝たので神聖魔術をかけ客間を出たところで、ジャン様と遭遇しました。足下には倒れ込んだ四バカがいますが……この四バカまさか聖女様の寝室へ…………え、いえいえ、まさか?!?
「モニカ嬢、お部屋までお送りします」
――大丈夫です――とお断りをするのも勿体ないので、お願いすることにしました。
「モニカ嬢は今日一日、どのように過ごされていましたか? 無理など言われていませんか?」
「全然大丈夫です!」
一瞬、ウェルス卿のことが頭を過りましたが、只でさえ家族と揉めている状態のジャン様にはとても言えません。明日は、何とか彼を振り切らなくてはなりませんね。あの馬車が私専用であれば、部外者立ち入り禁止方式を採ることができるのですが……難しいですね。
コロロが兎にも角にも壁を作りたがるのも困りものですし……。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です!!」
――ジャン様、最近、特に鋭くなっていませんか!?
◇◆◇ ◇◆◇
二日目から五日目にかけて、概ね順調に事は進んでいるのではないでしょうか。
私は、聖女様が廓清パレードに勤しんでいる間、所用で席を外しておりましたので詳細は分かりかねますが。
私が知る廓清パレードとはえらく異なりますが、お歴々が最終的に許可を出したのですから問題はないのでしょう。
ウェルス卿が付いてきてしまったことの方が問題です……!!!
ウェルス卿と顔を合わせ、皆様ピリピリされていらっしゃいます。
私が連れ込んだとして責められ一悶着ありましたし、ジャン様とウェルス卿は冷戦状態になりますし、聖女様はなぜか色気づいておられますし。やはりあの時、ジャン様に素直に相談すべきでした……。
子爵家の小娘である私が、公爵家の長男に物申せるはずもありません。いきなり最期の手段をとるのは、いくらなんでも気が引けます。
王都から出発した馬車は合計十二・三台、その内七台には聖女様の着替えその他が詰め込まれています。
御子息方の身支度は一人、幌馬車一台程度でしょうか? ジャン様と殿下は戦闘に備え、替えの服を持ってきていますがそれでも鞄一つか二つなのですが……。
人前に出る貴族の嗜みとして、煌びやかな衣装を身に纏うのは当然のことだとは思いますが、皆様、行き過ぎていませんか?
彼女と一部の仲間達は昼食後、態々別室で着替え午後からのパレードに臨むのですが、彼女等のこのような我が儘は迷惑だと、高位神官が私に苦情を寄越します。
事後に愚痴しか言えないのならば、永遠に口を噤んでいれば良いと思います。
私のように。
しかし、神官様の愚痴は止まるところを知りません……。
その時々に赴いた地の領主邸で、毎夜聖女様のために舞踏会が開かれているのですが、それについても――。
「なぜ、晩餐会ではなく舞踏会なのだ! まさか国庫使ってないだろうな?!」
と、烈火の如くお怒りです。ご本人に言えば宜しいのに。私は止めませんよ?
ウェルス卿の話では、ガーヌ公が根回しをして開かれているのだそうです。公爵令嬢として社交は責務の範疇でしょうが、今は聖女として赴いたはず――。
教会も王族も高位貴族の皆様も、聖女様に何を求めていらっしゃるのでしょうね…………。
しかも毎度どの夜会でも、聖女様は羽目を外しすぎてしまい周囲の方々から顰蹙を買う始末です。しかし、聖女様から言わせれば「皆ノリが悪い」、「頑張っている自分に対してその態度は非常識!」なのだそうです。
私は夜会に出席できるような装いを持ち合わせておりませんので、お屋敷の控え室で待機しておりましたが、神官様や現地の皆様より苦情を通り越して泣きつかれておりました……。
物陰から様子を窺うと、聖女様は現地の見目麗しい殿方を侍らせて楽しんでいる様子を確認できることもありました。私に泣きついてきたご令嬢方は、彼等の縁者かもしれませんね。……可哀想ですが私には何もできません。
確か二日目の夜会で、ジャン様が私を探しに控え室へやってきたことがあったのですが、聖女様もジャン様を探しにいらして来たため、愚痴を言いにやってきたご令嬢と対面し一触即発の事態となったこともありました。
元々血気盛んな性格だったのでしょうか?
0
お気に入りに追加
2,752
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる