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第一部
21話
しおりを挟む聖女様が作り出した『謎の気』を集めるためのパレードについて、正式に通達されたのはジャン様から話を聞いた一月後のことでした。
その間も聖女様の周りは騒動が絶えませんでしたが、それは割愛させて頂きます。きりがありませんので…………。
確かに、歴代の聖女様方は<廓清パレード>と言って人と大地に清浄な気を直に送るため、精霊を引き連れ穢れの多い土地を巡っていました。しかしそれは、教会や王族の思惑と己の使命感との間で折り合いを付け、パレードの形になったと伝え聞いております。
間違っても飾り立てた己を誇示し、他者の気を奪ったりするものではありません…………。
『人間はおかしな事をするね? いつもはボク達の力を送ってたのに??』
マクマは不思議そうな顔をして、私が学園からもらってきた『パレードのお知らせ』を見ています。
今日は久々の休日です。前回のように特別な事情が無い限り、自室に使用人が入ってくることはないことを学習したらしいマクマと愉快な仲間達が、羽を伸ばしまくっています。
ミントはどこでどう作っているのか分からない、謎の菓子を大量に持ち込んできますし、マクマは私の杖に勝手に謎の魔術を付与して遊んでいますし、パックは部屋の中に謎の光る草花を植え始めましたし……この子達は……!
『モニカ様! 今度の逢瀬ではこちらをお持ち下さい! 研究の成果です!』
――ミント、『今度』って何?
『これ、ジャンと観に行くの?』
――マクマ、聖女様のパレードなのになんでそう他人事なの? あと、何度も言うけど神聖魔術は食べ物ではありません。杖を返しなさい。
『キラキラ~キラキラ~』
――パック、人の部屋に何してるの……?
さて、人間嫌いと噂の精霊達ですが、ジャン様のことはお気に入りのようです。お菓子は勿論、パックが育て始めた花の一部は、彼への献上品だったようです。
――こんな光る花、どうやって説明しろと?!
ウェルス卿は精霊について詳しいし、ミントやパックのことも見えているようですし……。ジャン様はそんなウェルス卿の実弟なのです。迂闊なことはできません! と言うと、彼等はシュンとしてしまうので……参りましたね。
そうだ! ……殿下に相談してみましょうか? いざとなれば、彼の権力でウェルス卿を押さえ込むことができるかも……。
なんて、我ながらあくどいことを考えましたが、サークレットは反応しません。
『オウジサマとお喋りしますか?』
藪から棒に、またしてもミントがおかしなことを言い出しました…………。
◇◆◇ ◇◆◇
「殿下っ! 昨日は、本当にいきなりミントが失礼致しました!」
翌朝、最優先で私は殿下を探し出し人気の無い校舎裏へ連れ出し、昨日のミントの突撃について謝罪しました。もう、この謝罪を終えるまで生きた心地がしませんでした……。
「いや、謝らないでくれ。本当に……君は、凄いな……」
――とんでもない神経をしていると言われてしまいました……!!!
昨日、ミントはいきなり自室の姿見に物理を無視して潜り込み、戻ってきたと思ったら……殿下を連れてきてしまったのです!!!
誘拐です誘拐! 一国の王位継承者を!!! 一族郎党極刑ものです!!!
まさか使用人にさえ捨て置かれている己の境遇について、神に感謝する日が来ようとは、思いもしませんでした……。
殿下は快く許して下さいましたし、パックが何をしているのかについても教えて頂くことが出来たのでそれはよかったのですが……。
パックは私の部屋に、神聖魔力の供給口を作ろうとしていたようです。ジャン様にも分け与えるということは、彼に精霊の加護を送ろうとしていることの現れのようで――。
殿下の目が一瞬――いえ、見間違いでしょう、ええきっと多分恐らく……。
ついでに言うと、ミントが食べ物をジャン様に送ろうとしているのも同じだそうです。
本来であれば聖女様の夫となる方……つまり、殿下に贈られるべき加護……ですよね、これ。殿下は何も言いませんけど。
マクマ達に少しは殿下に気を遣うように言っても、私の言うことなんか聞きません。何しろ、泥水の中に私を突き飛ばすような愛らしさですからね……。
聖女様が諸々覚醒なされば、事態は改善されるでしょうか?
殿下はそれを待っていらっしゃる……の、ですよ……ね?
「来週は聖女様の<廓清パレード>ですよね? 殿下は――」
「廓清……ね。彼女が行うのは収奪だろうがね」
――ええ……殿下がそれを言っては……。
「誰もが<廓清パレード>だと思い、穢れを払ってもらおうと沿道に押しかけるだろう。大量の穢れを持って」
……パックの草花をちょっと分けて差し上げたいところですが、殿下が言うには、精霊が自主的に譲与行為をしなければ、加護は受けられないそうです。
「精霊のことで、分からないことがあったら何でも聞いて欲しい。私も、君の力になりたいと考えているのだから」
「は、はい……」
殿下は、精霊が私の下へ集まっているような気がして、焦っているようです。新しい妖精と知り合いになったら自分に報告するように、と言われました。
精霊の我が儘に巻き込まれる殿下と、私の我が儘に巻き込まれるジャン様……お二方には、本当にご迷惑をおかけしております……!!!
「あの、新しい精霊ということで、紹介したい精霊がいるのですが……」
「――また増えたのか?!」
殿下が青くなってしまわれました。
「ええ、実は――――……」
◇◇◇
昨日殿下がお帰りになった後、パックの花をなんとか目立たない代物に――例えばブローチなどに加工して送ることはできないかと考えていた時のこと……。
『だったらコロロがいるよ!』
――こ、この流れは……!!!
『呼んできます!』
「ちょっと待ってミント! もうこれ以上知り合いは増やしたく――」
『――ぼく<地の恵みの精霊・コロロ>よろしくねーっ!!!』
ミントは私が止める間もなく出て行ってしまいましたし、言い終わるより早くとうの本人が現れましたし……時系列的に可笑しいでしょう!!! ほら、ミントが驚いた顔で戻ってきましたよ! アンタ、ウチ覗いてたでしょう?!
コロロは茶色の全長一メートル前後の狐をぬいぐるみ化したような、これまたファンシーな見た目をしていました。胴体は三十センチほどなのですが、尻尾が異様に長くふさふさと……しかもなぜか沢山……九本! あります。
ひとまず、覗きの罪状を締め上げて吐かせました。――全く!
大地の精霊ということで、コロロは鉱物を自在に操ることができるようです。パックのお花をブローチ風にアレンジして、賢者の石で作ってもらいました。
賢者の石って実在するんですね。ガラスのように透明になったり、鉄のように丈夫になったり、雲のように軽くなったり、薬草のように傷を癒やしたりと一人多役! 場所も取らずに便利ですね。初めて見ました。
◇◇◇
「――ちょっと待て! 賢者の石だと?!」
殿下にコロロの紹介と、昨日の経緯を軽く説明していたのですが……。
「いえ、コロロの発言なので、私達が思っている<賢者の石>とは違うのかも知れませんよ? 傷も治……りますが、特別な魔力……はあるでしょうが……あの、でも、そんな特別な物では……」
殿下、目が「欲しい」になっています。私からアクセサリーとかプレゼントしたら、絶対におかしな諍いに巻き込まれますよね? 送りませんよ?
欲しいのなら、聖女様にお願いして下さい。
……皆まで言わずとも、ご理解下さったようでなによりです。
「ジャン様には、露天商で買ったとでも言います。怪しい物だと思われると、受け取ってくれないかもしれませんし――」
『怪しいってなにぃ!?』
『ひどい~ひどいぃ……』
コロロとパックから猛抗議がきました! 殿下、さっさと自分だけ逃げようとしましたね?
「す、すまない。しかし、君たちの間には、確かな信頼関係があるようだな」
「聖女様も今度の巡礼を完遂し精霊が見えるようになったら、芽生えるのではないですか? 特訓されているのですよね?」
このような状況になっているのですから、聖女としての能力を覚醒させようと、頑張っているはずで…………え? 殿下、どうしましたか?
「そう……だな……彼女も……そうして……くれていると…………」
ご愁傷様です殿下。ですが、こうならないよう、しっかり聖女様の手綱を握るために側にいらしたのですよね? 国王陛下の命令で。
同情は……………………一切しませんよ?
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