クズは聖女に用などない!

***あかしえ

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第一部

18話

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 ミントの作ったドレスを纏い、ジャン様と共に馬車に揺られた帰り道、やっぱりどこか勿体ない気がしてしまいました。
 俗に言う『帰りたくない』というやつですね。勿論、言いませんが。

 ……折角だから、ちょっとくらい――――踊ってみたかった……でしょうか。
 あんな騒ぎさえなければ…………。




 ◇◆◇ ◇◆◇


「あの化け物と瘴気は払った! 聖女としての、功績!! 分かってるわよね?!」
 登校するなり人気の無い校舎裏へ連れ込まれ、真っ黒な心の聖女様からそうすごまれました。え、まさか聖女様、内心ではアレを片付けたのはだと思っていらっしゃるのですか?!
 普通はウェルス卿や他に神官の方がいらしたとか、考えるものなのでは?!
 ――――見ていたのですか?!

「何の話をしている?」
「まあ、フレデリック! いいえ! モニカは何も悪いことはしていないわ! わたしが悪かったの……」
 何の真似ですか、聖女様。
 背後から声をかけてきたのは、彼女が言うとおりフレデリック殿下でした。ですが、この場にいるのは殿下だけではないのです!

「おい!どういうことだ! 貴様……リューが優しいのを良いことに、何をした!」
「可笑しいと思っていたんだ、以前から貴様は――」
「卑しいよね、考えがホント醜い。リューとは大違い!」

 アベル・プランケット卿、グスタフ卿、エドアルド卿の順に誹謗中傷の嵐です。最後は合奏状態となり、誰が何を言っているのか分からなくなっていますが。殿下は一瞬、三バカの暴走を止めようとして、止めました。
 マクマが何か仕出かすのを待っているようです。ウェルス卿といい、全く!
 三バカについては、先日、穢れを払ったばかりですし稚拙な口撃のみであれば、こちらはノーダメージで済むでしょうから、問題なしですが。

「こんな人気のない場所に呼び出して、リューに何をする気だったんだ!」
「みんな止めて! わたしは大丈夫だから、モニカを怒らないで!」
 彼女の涙腺には自由自在なスイッチが設けられているようです。
「ああっ! 君はなんて美しいんだ、リュー!!!」
 合唱が揃いましたね。おめでとうございます。




 朝から、このような感じの三文芝居に付き合わされ疲労困憊だというのに、昼は昼で――。

「モニカ嬢! 助けて下さい!」
「……は?」
 そう涙ながらに訴えかけてきたのは、最近度重なっているトラブルの後始末で増えつつある、顔見知りとなった生徒達でした。
 彼女達に食堂へと急かされる道すがら、事情を簡単に説明していただいたのですが……。

 初めはいつものように、聖女様が下位貴族へ難癖をつけ三文劇場上映中だったらしいです。しかし、そこへ呼んでもいないのにコーベル嬢及び偏的なご友人がドヤ顔で颯爽と現れ、聖女様軍団と口論を始め色々あって最終的に難癖を生徒が、責めを負う結果となってしまっているそうです。

「意味分からないですよ! お互いに自分の都合の良いことばっかりまくし立てて……とばっちりもいいところです!!」
「もうっ! なんなんですかあの人達っ!」
 廊下を走る道中、幾人かの生徒が悔しさに涙を流していました。

 一体どういう状況なのでしょう? 責めを負うって――?



 ……食堂の一角はまたしても、暗闇に包まれていました。結構大きいですね……。
「今頃、何しに来た! 貴様はさっさとそこのゴミどもを片付けてろ!」
 声だけでは誰なのかが分かりません。姿が見えないので、どこの誰を指しているのかも分かりません。

 ――パック!

『はぁい。クロ穢れを払えばいいのぉ?』
 ――はい、宜しくお願いします。

 例の<宙と光の精霊パック>ですが、私をストーキングしていたようで夜会の後、自室へ戻るなり自己紹介されました。私達とは時の流れが異なる時空に存在しているのか、マイペースです。ミントを黄色化したような出で立ちですが、身の丈よりも長い金色の髪が特徴的です。

 さて、闇が晴れて……現れたのは、聖女様軍団とコーベル嬢軍団、そして……床に座り込んでいる女子生徒?!
『モニカ~。この子ね、これ以上ここにいると、クロに食べられちゃうよぉ?』
 パックが物騒なことを口にし始めたので、取り敢えず彼女をこの場から連れ出そうとしたのですが、邪魔が入りました。

「その罪人をどうするおつもりですか?」
 ユーグ・ゴセック伯爵子息が、鋭い視線を送ってきます。払ったばかりだというのに、穢れが彼の体を取り巻いています。
浄化しますか?』
 ――嫌な予感がしますが、それをするとどうなりますか?
『消えてなくなりまぁす!』
 良い笑顔でパックが告げたのは――死刑宣告でした! 却下です!

「申し訳ございません。私は、大勢で一人の女子生徒を取り囲むような、な趣味を持ち合わせておりませんもので」
「何だと!」
「こいつは、が苦しんでいる間も見て見ぬ振りをしていたんだぞ! ああ……お前もそうだったな! 穢らわしい貧民風情が!」
「何の話です?!」
「この娘は先日、リューを突き飛ばしたのだ!」
「そんなことはしていません! ぶつかってきたのは、彼女の方――」
「黙れ見苦しい!」
「酷いわっ! わたし怖いっ!!」
「ああ、リュー!!!」

 皆、好き勝手に怒鳴るので、誰が誰を何の咎で責めているのか一切不明のまま、連中を無視してひとまず女子生徒を彼女の友人達へと託し、この場から立ち去るよう指示しました。

 終わったので、問題児達へ視線を戻せば――。
「どういうつもりだ!」
 ほぼ全員にそう怒鳴られました。やかましいです。
 ここまで突き抜けた愚か者ですと、常であれば放置しておきたいところですが、そんなことをしたら最近ようやく収まってきた例のアレサークレット頭痛が……!

「モニカ……どうしてわたしに意地悪する人達の味方をするの……? 酷いよっ!」
 聖女様の先制撃に、四バカ(アベル卿、グスタフ卿、エドアルド卿、テオーデリヒ卿、計四名)のが上がっていきます。グスタフ卿が馬鹿の一つ覚え召喚獣を発動しようとしますが、マクマによって術を封じられているようで呆けた顔をしております。
「お……前……いや、そんなことあるはずが……」
 グスタフ卿は何かに気付き始めたようですが、結局は己のプライドが勝利したようです。何度も術を試みてはしくじっています。
「グスタフ? どうしたの? 早くモニカを懲らしめて!」
 聖女様が不思議そうな顔で彼を見ています。おやおや、ファーストネームを呼び捨てとは、聖女様やりますね。

「リュー! ここは俺が! この不敬な女に鉄槌を喰らわせてやりましょう!」
「まあ、アベル!」
「心美しい貴女の御身は、この俺が命に代えても守ってみせる!!!」
 ドヤ顔で決めてくれていますが、彼が行使しようとしている魔術も全て、マクマに封じられてしまったようです。

『モニカ様、モニカ様! この人、完全浄化してしまいましょう!』
 ……ミントさん? 何怖いことを仰っるの?
『クロ…………きらい……完全浄化……しようよぅ』
 ……パックが殺る気満々で、物騒な提案をしてきます。この子達、本当にどうしたの?! 穢れにあてられてしまったの?!
『えっとね、パック達は、基本的に人間嫌いだから、我慢の限界かも……』
「…………へ?」

 ――『基本的に人間嫌い』……?!
 先日、ウェルス卿から聞いた<いにしえの精霊>についての話に確か……。
 ええっ?! でも、ミントやパックは私の側で、いつもとても楽しそうにしていたのになん――。
は、モニカを守ろうとするオーラが凄く強かったから、あの二人は仲間意識を持ってるだけで……』
 って……ジャン様のこと? 仲間意識――――――ちょっと待って!

 なんで、基準なの?

 聖女様の愛し子設定どこいっ――そう言えば、以前マクマは聖女様のことを、『人間が勝手に決めた愛し子』と言っていたような気が……どういうこと?!




「何の騒ぎだこれは!!!」

 マジギレした殿下の登場で、その場はお開きとなる……はずでした。殿下の背後に、見覚えのある老紳士がいなければ。
 あの日、講堂のから現れた、枢機卿さえいなければ――――。





 ◇◆◇ ◇◆◇



 現れた枢機卿は、聖女様へ大聖堂で行われる公会議へと出頭命令を下されました。今回の公会議には、司教だけでなく各国の王族や主要貴族も軒並み参加を義務づけられていました。これは異例の事態です。
 それ故でしょうか……聖女様はこれはコーベル嬢との婚約破棄及び自分とフレデリック殿下との婚約発表だろう、と考えていたようです。

 ですが、公会議で彼女に突きつけられたのは、聖女の資質の再証明――つまり、『再試験』だったようです。
 穢れの蓄積は、もはやこの国だけの問題ではなくなっていたようです。
 教会及び諸外国との協議の結果、現聖女に必要な能力が認められないのであれば、聖女の選定をやり直す必要がある、ということになったようです。


 フレデリック殿下の話によりますと――。
 彼女の聖女としての能力について、割りと早い段階で疑問の声は上がっていたそうですが、教会に太いパイプを持つガーヌ公の強力な後押しがあり、黙殺されたそうです。
 ですが、ここ数ヶ月の彼女の挙動――特に、祓うべき穢れを目の前にして、他者を押しのけてまでも、いの一番に逃亡を図った件が諸外国にまで知れ渡り、決定打となったようです。

 それにしても、聖女様は一体どのような経緯で『聖女』と認められたのでしょう…………?








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