クズは聖女に用などない!

***あかしえ

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第一部

13話

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 最終的に、私はエドアルド卿にエスコートをされて夜会へ出る――ということにはなりませんでした。
 何しろあの後、聖女様とエドアルド卿は遅れてやってきた教師達によって、連行されていきましたので。お二人とも良いお声で語らいでおられたので、耳障りに感じたどこかの誰かが、動かれたのかもしれませんね。
 後から知ったのですが、エドアルド卿もあの実習後から勤勉の義務を放棄し講義さぼって、聖女様に反感を持つ生徒に対し、片っ端から私的制裁を加える等問題行動を起こしていたようです。
 やらかしていたのはエドアルド卿だけではないというのですから、もう……。

 そして更に驚きなのですが、なぜか後日、が正式に我が邸へ押しかけてきてエスコートの申し出をしてきたのです。
 ……ある意味、聖女様より凶悪な手法としか言い様がありません。これでは父の手前、承諾するしかないではありませんか。

 コーベル家仕様の豪華な馬車が、車寄せに着いた際の父の顔と言ったらありませんでした。ウェルス卿は、父のあの顔を見た瞬間に、己の勝利を確信したことでしょう。
 使用人達からを回収するという緊急ミッションの邪魔をされ、それでなくとも面倒だったのに相手までさせられて最悪の一日でした。

 彼の目的は定かではありませんが……彼は浄化実習の監督者でしたからね……面倒毎に巻き込まれなければいいとしか……。



 ですが流石、の実兄でいらっしゃる。ウェルス卿は、それはそれは美しいドレスを送って下さいました。
 最先端の技術とデザインが採用された、着る人を選ぶとてもとても美しい――

 ――――背中の大きく開いたドレスを………………。







 ◇◆◇ ◇◆◇




 学園には、わざわざ舞踏会等のイベントのために用意された、美しく豪華な建物があります。夜会に参加することを許されているのは、生徒達だけではありません。彼等の両親、縁者も参加を許されています。
 ……父は鼻息荒く出席のチャンスを狙っていました。邪な願いはいつも泡と消え、その度に父に口汚く罵られ妹に悪し様に嘲られる日々でしたがそれでも、父を連れて参加するよりは遙かにマシだと……思っていたのに。



「モニカ嬢! あのっ……ウェルス卿と夜会に出られるというのは本当ですか?!」
 結構な数の手荷物を片手に廊下を彷徨いていたところ、見知らぬ数名の女子生徒に声をかけられました。
 現在、使用人達に着服されていたお礼の品を無事取り戻し、当該生徒へ返礼の品を届けて回っている最中だったのですが……情報の伝わりというのは、私が思っていたよりも早いようです。

「もうドレスまでご用意されているとか! 本当ですか?!」
「それは……」
 興味津々と言った様子で、側で聞き耳を立てているだけだった生徒らまで聞きに来る始末です。

 私も知らなかったことなのですが、前回の夜会まで、ウェルス卿はコーベル嬢のエスコートをされていたのだそうです。本来ならば、婚約者である王太子殿下がされるのが一般的だと思うのですが、王命か否か、聖女様が現れてからというもの、王太子殿下は彼女に付きっきりらしいのです。

 ……それが、今回の浄化実習でのあの体たらく……王太子殿下も、今度ばかりは聖女様をお見捨てになるのでは、と周囲は……というより恐らくはコーベル嬢自身も、そう思っているのではないでしょうか。

 それに淡い期待をして、今回の件を仕組んだ可能性もありますね。
 コーベル嬢は、私がドレスに袖を通すことなどできるはずがないことを、知っていますから。

 ……彼女を助ける必要なんて、なかっ――――――――ひぃああああああっ!!!



 ――頭痛が酷いので、ドレスの背中は適当に縫い合わせるとして、ウェルス卿の狙いも調べておきたいですね。
 一度、ダメ元で、マクマにウェルス卿の様子を見てきてもらったことがあったのですが……徒労に終わりました。もっと利口な精霊の知り合いが欲しい……とマクマに愚痴ったところ、なんと、紹介されました…………。

『知の泉の精霊・ミントと申します』
 直径十センチほどの大きさで、蝶と人間を足して四頭身のぬいぐるみにしたような外見の、全体的にピンクっぽい色の女の子と思しき可愛らしい精霊でした。
 一般生徒も、精霊について授業で習う機会はありますが、知の泉の精霊とは聞いたことがありませんね。折を見て、殿下に確認をすることができればよいのですが……どうなりますかね?

 早速、彼女――で合ってるのでしょうか?――を、ウェルス卿の下へ派遣に出してみたところ、物の見事に…………気付かれてしまいました。

「君の特性について、少々話をさせていただいても宜しいかな?」
 ウェルス卿にそう声をかけられたのは、学園に設置されている車寄せへ向かう最中のことでした。ミントを放った翌日のことでした。

 向かった先が、人の居ないティールームで安心しました。コーベル邸などに連れて行かれたら、面倒この上ないですから。

「前置きはお互いに不快になるだけだから止めておこう。君、精霊が見えているね?」
「何のことでしょうか」
「とぼけるのはなしにしてもらおう。昨日、君がボクの下へ精霊を放ったのは分かっている。それも――でしかその存在を確認することができなかった<知の泉の精霊>だ。リュクレース・ガーヌは精霊の存在を感じ取ることすら出来ないというのに」

 ――あの子、そんなに特異な存在だったのですね。マクマのやつ! もっと汎用性の高い子を紹介してくれればいいのに。
 ウェルス卿が、どのレベルの禁書を指しているのかは分かりかねますが、ホーグランドの家格では禁書とやらを閲覧することは不可能でしょう。小さい頃散々探し回っ――
「君は幼少の頃から、ホーグランドの家格で許されている禁書の閲覧を申請しているね? それも……神聖魔術に関するものばかり大量に」
 ――――――――!!!
「通常の人間に神聖魔術など使えるはずが無い、故に文官は深く考えることもせずに許可を出していたのだろうけれど――――君は、神聖魔術が使えるのかな?」
「…………恐れ多いことを仰らないで下さい」
「そうかな? あの浄化実習の日、君は――――」


 ――――――――――――――――――――見られ――――――――。


「兄上!!!」

 ――ぃったああああああああああああいっ!!!

 見られていたのならば……しかないかしら? という無意識の思考にサークレットが反応するのと、コーベル嬢が驚いた様子でティールームへ現れたのは、ほぼ同時だったようです……。






 私が頭痛に耐えている間に、目の前に座っている人物がウェルス卿からコーベル嬢へと、変化していました。

「兄が迷惑をかけて申し訳ないわね」
 公爵家のご令嬢にお茶を入れさせるのは忍びないのですが、替わろうとすると「具合が悪いのでしょう?」と制されてしまうので、お願いすることにしました。

「ガーヌ嬢の最近のご様子はご存じですこと?」
「あ……ええ……」
 コーベル嬢は先日の騒ぎのことを、ご存じなのでしょうか? 聖女様はあれから、正式に停学処分となってしまわれました。教師の前で、いつもの調子で暴れたらしく不興を買ってしまったようです。今までは許されていたことが、少しずつ許されなくなっているようです。

 ……このままでは、そう遠くない未来に爆発してしまうかもしれませんね。

「それと、先日の実習の件なのですけれど……」
 ――ま、まさか彼女も何か見て――――――。
「ありがとう、感謝しておりますわ」

 予想外の反応をされてしまい……理解と反応が一瞬遅れました。

は、キミの働きを認めても良いと考えているんだ」
 …………?
 何者かが急に会話に割って入ってきたようです。しかも、聞き覚えの無い上から目線の男性の声です。振り返れば……見覚えがあるような無いような男性が二人いました。

『この二人は、アントワーヌ・コーベルの逆ハーメンバーですよ!』
 ……思わず紅茶を吹き出しそうになってしまいました。
 理由はいくつかありますがまず、今のはミントの声で、私の目の前で「エヘン!」と言わんばかりに、胸を張っていることが一つ。
 精霊ミントの口から『逆ハーメンバー』なんて言葉が出てきたことが一つ。
 コーベル嬢にもとうとう、聖女様と同レベルのが出来てしまったというのが一つ。彼女の信奉者取り巻きは、聖女様のそれとは違い良識ある子息令嬢の集まりだと思っていたのに……。

 だとするとというのは、アントワーヌ・コーベル嬢の愛称……?
 ……くだらない派閥争いには巻き込まないで頂きたいのですが?

 案の定、やはり彼等にも精霊の姿は見えていないようです。
 今のところ、見えるのは王太子殿下とウェルス卿だけのようですね。

『常軌を逸した濃度の穢れを保有してますよ、この人達!』
 今度は、私の手を触ったりつねったり噛みついたり……ミントは何がしたいのでしょう? 常軌を逸した穢れとやらで情緒不安定なのでしょうか?

 ミントの発言を受け、改めてコーベル嬢陣営の新顔を見てみれば、いかにも不愉快だと言わんばかりの態度を取られました。「ジロジロ見てんなよブス!」と言ったところでしょうか。

「アンの広い心で、キミのこれまでの不敬を不問にしてと言うんだ。キミは感謝するべきだよね? 自分の立場分かってる?」

「……これは、コーベル嬢のお考えですか?」
「ち、違うわ! 止めて二人とも!」
 ――さあ、どうでしょうね? 本当にそのような気がないのであれば、この二人からこのような発言が出るはずもないのではないかと、思うのですけれど。


 コーベル嬢がこの調子では、先程感じた懸念も杞憂ではすまされないことになりそうですね…………。








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