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第一部
4話
しおりを挟む「人目のあるところで、いきなりおかしなことを言うのは止めて!!」
急いで自室へ戻り、慌ててマクマへ苦情を入れました! 今後、このようなことは控えていただきたい!!!
先程も、マクマが突拍子もないことを言うものだから、挙動不審となりジャン様に訝しみを通り越して心配されてしまいました!
頭痛で失神した上に、かなりのご迷惑をおかけしてしまいました!!
『えぇっ?! おかしなって、え、何が??? って、わぁっ! 物を投げないでよぉ!!!』
室内を飛び回るマクマに向かい、手当たり次第に小物を投げまくりながら説教をしています!
「何が躾治すよ! 存在自体がっ! 怪しいマクマにっ! そんなことっ! 言われてもっ! ねぇっ!!」
『ええー?! まだボクを疑ってるの? 神聖魔法使えるのにー?!』
「そんな言葉に私は騙されません!」
幼少の砌より、神聖魔術を行使することができるのは、ごく一部の心も体も清らかな選ばれた人間だけなのだと言われて育ちました。治癒魔術は、神の加護が他者よりも強いことを示しており、持っているだけで特別な能力だとも。
その代表的な存在が、聖女様ですね。
それ故、幼い頃は私が用いているのは神聖魔術ではないと思っていました。ですが、神聖魔術が実は誰にでも扱える魔術であると今はもう分かっています。
国家戦略の一環だったのでしょう。行使することができないでいる皆様は、上手に洗脳されてしまっただけの話なのです。
神聖魔術は他の魔術と違い、気合いで威力が変わるものです。邪悪な者が強い意志で行使すれば恐ろしいことになりますからね。
私は今も、真実には気付いていない振りをしています。
『えぇ~なんでそういう結論になるかなぁ』
◇◆◇ ◇◆◇
王侯貴族御用達の学園なだけあって、食堂も絢爛豪華な造りとなっています。子爵家の中でも下の下に位置する我が邸よりも、豪華な造りです。
折角、こんな豪華な施設内で食事を取ることができる立場にあるのだから、落ち着いて一人静かに食事を取りたいものですが――――。
「どういうつもりだ! モニカ・ホーグランド!! 貴様の昨日の行いが、リューをどれほど傷つけたか分かっているのか!」
ランチの味を最悪にするもの――それは、直ぐ側にいる愚か者である。
私の美味しい食卓の邪魔をしてくれているのは、先日もいの一番に騒ぎ出した騎士団長の息子、アベル・プランケット伯爵令息です。
毎週月曜日は、聖女様と王太子殿下の二人だけのランチタイムを設けておりまして、嫉妬に身を焦がすアベル卿は、己の不満をこちらにぶつけてきたのでしょう。
本当にこの男は愚か者です。
聖女様から解放されている今こそ、彼が本来愛すべきご婚約者様との絆をお確かめになる絶好のチャンスだと思うのですが。それに、聖女様の性格上そうした方が、また構ってくれるようになると思うのですが。
聖女様は気に入った男性を堕としきるまでは「貴方だけが特別よ」と、潤んだ瞳で見つめ甲斐甲斐しく世話を焼きます。実際にかり出されるのは私どもですが。
しかし、彼女の魅力に屈した途端、興味を失ってしまうのか彼女の関心の全ては王太子殿下へと戻ってしまいます。
取り巻きの中には、婚約者の方と修復不可能な亀裂が生じてしまった方もいらっしゃると聞きます。アベル卿がご婚約者様と決別されたという噂は耳に届いて来ないけれど、目の前の彼の様子を見る限りでは、その噂が届く日も遠くはないでしょう。
「おい! 聞いているのか! どういうつもりだ!」
――コレの相手は真面目にせずとも大丈夫よね……うん、サークレットも異常なしです。では、このまま無視無視……。
「何をしているのです!!!」
――何事っ??!
横で喚くアベル卿を無視しランチを堪能していた私の耳に、聞き覚えのある怒鳴り声が飛び込んできました。誰かと思ったら――――コーベル嬢の弟君ジャン・コーベル様ではありませんか。
しばらく揉め合う二人を放置していると不意に静かになったので視線を戻してみると、二人の間でどのようなやり取りがあったのかは知りませんが、人の目と鼻の先で両者睨み合っております。
決して少なくない利用者がいるこのタイミングで、視線を集めるような愚かな真似をするのは止めていただきたい。
あなた方と違い、私は他人に注目されることをよしとしません。
「ジャン・コーベル! 貴様、どういうつもりだ!」
「モニカ嬢にご迷惑をおかけするような真似は控えて下さい!」
「俺に意見する前に、貴様の愚かで非常識な姉君を黙らせたらどうだ!」
「……っ!」
――勝負あったようです。
あの程度の悪口雑言どうということはないのだからジャン様も放っておけばよいのに。
まあ、血気盛んな小僧二人がキャンキャン吠えているだけならば放っておいても問題ありませ――――――。
「いだだだだだだ!!!」
ここでサークレット発動?! ここにはコーベル嬢はいな――――え、この二人?!
この二人を仲裁しないと性根が腐っていると?!
放置するわよ、こんなトンマコンビ――――――――――――――痛っ!!!
「コーベル嬢! 大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫です。私のことはお気になさらず、ここにいると悪目立ちしますので、お二方はここを離れられた方が立ち去られた方が宜しいかと」
ジャン様が私を心配してくれるのは嬉しいのですが、この痛みは貴方達のせいなのよ!!!
「疚しいことがあるのだろう!」
「病人の側で騒がないで下さい」
「だから俺をここから追いやろうとするんだ! あれだけリューの側にいながら、貴様は本当に――」
「視野の狭い物の見方をしないで下さい」
アベル卿は喚き立てているようですが、ジャン様は静かにアベル卿を窘めようとしています。冷静に事を運ぼうとしているのかもしれませんが……アベル卿は単細胞なので、彼の冷静な一挙一動が気に障るようです。
「――――!!」
アベル卿が何か喚いているようですが、己の頭痛対処の方が大事です。彼をこの場から立ち去らせればよいのかし――。
「いい加減にして下さい!!」
ジャン様がそう怒鳴るのと同時に、アベル卿が背後へ吹っ飛びました。
……ジャン様もしかして……殴り飛ばしましたか?
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