悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ

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学園編

58.感謝祭2

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 クリストフ殿下がどのような意図で私を誘ったのかは分からない。けれど、彼の傍にいれば必然的にマリー・トーマンの傍にいる機会ができるだろう。
 私は前回のような愚行を起こすつもりはないから、彼女に危害を加える輩の筆頭はデリア・リナウドだ。とすると……うん、ここは誘いにのっておいた方が後々楽になるかもしれない。


 ――その予想は、的中した。



 ◇◆◇ ◇◆◇


 王城、大広間へと続く廊下へ足を踏み入れた時点で、嫌な予感は既にしていた。
 十数メートルほど先に両開きの大扉が見えるのだが……これだけ離れた距離にいるというのに、奥の空間の喧噪が聞こえてきて目眩がする。
 聞き覚えのある金切り声が耳に飛び込んできた時は、特に――。


「お前のような下賤な輩がこの場にいること自体が迷惑なのですわっ!」
 ――私は貴女の方が迷惑かけてると思うよ? まあ、人のことは言えないんだけどね? この距離でも大声が聞こえてくるんだから、フロア内はさぞかし白けた雰囲気になっているのだろう。
 かつての己を客観的に見させられるとか、どんな拷問なのかと。

「わたしは帰りませんっ! 今日、ここへ来るのも沢山の人に協力してもらったんです! そんな皆の思いを無駄にしたくはありません!」
 ――マリー・トーマンも、正々堂々はいいのだが、いかんせん、正論パンチを繰り出す癖がある。かつてのや、今のデリアのようにあの子に嫉妬や焦燥を抱いていた相手の感情を逆なでしてしまうのだ。マリー・トーマンは悪くない。
 腹が立つからと金と権力にモノを言わせて害を為そうとするから、事態は更に悪化するのだ。

 隣で殿下が小さく小さくため息をついた。彼の鉄面皮はいつもと変わらないから、隠しているつもりなのだろう。マリー・トーマンをおとしめられてご立腹なのだろうか。どっちにしろ、早く止めに入らないと洒落にならない事態に陥りそうだ。
 だってここは、ヒロインのために存在する漫画の世界。
 そのヒロインがいなくなればどうなるのか……私には、想像もつかない。



 広間へ到着すると、観衆の視線はマリー・トーマンとデリア・リナウドに向けられていた。大仰に音楽と共に現れたわけではないから別にいいんだけど……見世物から視線をそらすためにもそうした方がよかったかもしれない。このままではあの二人は良い恥さらしだ。

「――音楽!」
 楽隊へ合図を送る…………うん、よし! 事前の打ち合わせなど何一つしていなかったけど、こちらの意図をくんでくれたらしい。殿下へ視線を送れば彼も理解してくれたようで、私の手を取りフロアの中央へと歩み出る――と、遠方から目を輝かせた王妃様がものすごい勢いでこちらへとやって来るのが見えた。
 あ、あれ……?
 あらあら、まあまあ! と言っていそうな雰囲気で目の前へと歩いてきた王妃様は、至極楽しげに。
「貴女たちがそうして連れ立っているのを見るのは本当に久し振りだわ」
 ――と言った。まあ、確かに私とクリストフ殿下がこうして並び立っているのは幼少の頃以来かも……。社交の場はおろか、登城すらかたくなに拒否してきた。殿下に近づくくらいなら死ぬ! と固い決意ですらいたくらいだったから……。
 え、王妃様のこの態度の違いは何だ。不気味すぎる。

 しかし、王妃様のこの行動のお陰でマリー・トーマンとデリア・リナウドに向けられていた視線がこちらへと移行してきた。デリア・リナウドのマリー・トーマンに向けられていた意識もこちらへと移行したようだ。
「ミーシャ様!」
 デリア・リナウドがこっちに来てしまった。あのままマリー・トーマンに絡んでいるよりはましか。この子が傍にいると殿下に迷惑をかけるかもしれないな。
「……殿下、私は彼女に話がありますので、殿下は彼女のフォローをお願いできますか?」
 私の発言を受けて、殿下が目の端でマリー・トーマンを確認する。えっと、もうちょっと親身にマリー・トーマンに向き合っていただけませんかね? あっ! まため息をつきましたね?!
 だが! 今はデリア・リナウドにくぎを刺すことが先決! もうこの子はっきり言って邪魔!!! この子が絡んでいると、物語のヒロインというアドバンテージ発揮されていないんじゃ……?


 ……前回の殿下のままだったら、私のことを徹底的に嫌い、マリー・トーマンに熱烈な愛情を抱いている殿下だったら、こんな状態にはならなかったに違いない。
 なんで今、こんな状況になっているんだろう?


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