上 下
47 / 106
学園編

24.続・私は保護観察中…

しおりを挟む


「考査自体はちゃんと受けろよ?」
 パトリックが胡散臭いものを見る目で見てくる!
「受けますよ! それまでサボったりしたら、実家に連絡が行ってしまいますから」
「ならいいが。クリスが『ミーシャ』が授業をサボりすぎているのを、気にしてたんだよ」
「え、な、なんで殿下が??」

 昼食時、私は旧図書室と講堂の裏にある人気の無い小さな庭――。
 保護観察中の面談義務のように、私はパトリックへ状況報告をしていた。パトリックに対する「悪いことはしていません!」という報告と、「私の思考回路、安定していますかね?」という確認も込めて、これはちょっと外せないルーティンだ。

 その最中、パトリックの口から出てきた、クリストフ殿下が私のサボりを気にしているような台詞が気がかりだ。
 パトリックには報告しているが、私は学園に通いながらも家庭教師のバイトは続けているのだ。マリーの孤児院への寄付金を稼ぐためにも、辞めるわけにはいかない。貧民保護に関する法律が変わるまでは。

「お前さあ……」
「パトリックの協力は必要ありませんので!」

 私が寄付金を稼ぐために、中流階級者相手に商売のようなことを始めてからしばらくして、パトリックから援助の申し出を受けたことがある。断固拒否する。これは、私の贖罪でもあるのだし、彼は彼で大変なこともあるかもしれないし。
 それに……パトリックに、マリー・トーマンに対する執着が増えるようなことは、あまりしてほしくない。

 ――報われないつらさが、増すだけかもしれないから。


「頑固だよな、お前……。まあ、お前は地頭がよく出来てるからな。今更勤勉にならなくとも、問題無いだろうさ」
 パトリックの疲れたような表情が気にかかる。彼はいつも一人で抱え込むから、吐かせなければ!
 ・
 ・
 ・
「マリー・トーマンの勉強が芳しくないんですか?! あれ? あの、彼女の天賦てんぷの才はどこへ?!」
 ――彼女の入学が許されたのは、その才能あってのことだったはず!
「……お前、人をつかみかかる癖なんとかならんのか」
「…………モウシワケゴザイマセンデシタ」


 ええっと――――マリー・トーマンに勉強を教えてくれと頼まれたのは、実は一度や二度ではない。ここ一月の間は、殿下との親交を深めてもらうためにもお断りしていた。
 その間、著しい成長が見られなかったのだとしたら、結果は推して知るべし。

「でも、おかしくありませんか? 前回、彼女は首位が取れたのは一つだけでしたけど、上位十位以内には入っていたではありませんか? 優秀だから、学園へ入学を果たしたのでしょう?」
「そうなんだがなぁ……」
「……勉強に集中できない状況に置かれているとか……でしょうか。彼女は素直に打ち明けたりはしないでしょうから、彼女のルームメイトに聞いてみます」

 パトリックからの反応がなかったため、不思議に思い彼を見上げると――彼は、なんとも形容しがたい様子で、こちらの様子を窺っていた。責めているわけではなさそうだ。驚いているわけでもなさそう。感心しているわけでも、面白がっているわけでもない。……なんだろう?
「あの……パトリック?」

「なんでもねーよ。あ……」
「どうかしましたか? パトリッ――」

 パトリックが反応を見せた。私から視線をそらして、思わずといったように。つられるように彼の視線の先を見る。



 マリー・トーマンとクリストフ殿下がいた。

 二人は穏やかに微笑みながら、常識的な節度をもって共に歩いている。日本の高校だったら普通に、礼儀正しい先輩後輩の関係にさえ見える光景だ。でも、ここは日本じゃない。そんなことをしてしまえば、につけ込まれてしまう。

 私やパトリックが物陰から二人の姿を見つけてしまったように、隠れることのない二人は多くの視線にさらされている。貴族の子息令嬢が多く通うこの学園で、この光景を好意的に見る者はまずいない。よくて興味本位、大抵は『貧民風情が王族に取り入ろうとするなんて!』というもの。かつての己もそうだったのだから、よく分かる。

 しかし、過去の私は前期の修了考査が終わるまで彼女の存在には気づきもしなかった。ということは今回は、前回よりも早く二人の仲が深まっているということ?!
 それは――――……。

「仲良くやってるみてぇだな」


 パトリックはそれで…………本当に、いいの?






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

婚約破棄された王太子妃候補は第一王子に気に入られたようです。

永野水貴
恋愛
侯爵令嬢エヴェリーナは未来の王太子妃として育てられたが、突然に婚約破棄された。 王太子は真に愛する女性と結婚したいというのだった。 その女性はエヴェリーナとは正反対で、エヴェリーナは影で貶められるようになる。 そんなある日、王太子の兄といわれる第一王子ジルベルトが現れる。 ジルベルトは王太子を上回る素質を持つと噂される人物で、なぜかエヴェリーナに興味を示し…? ※「小説家になろう」にも載せています

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...