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学園編
15.寄付金は湧いてこない
しおりを挟む入学式は、滞りなく進み……終わった。
私はクリストフ殿下と別れて、何とか『ミーシャ・デュ・シテリン』に戻り、入学式へ参加をすることとなった。色々あってすっかり頭から抜けていたが、講堂の私の席はど真ん中。壇上で挨拶をするクリストフ殿下の……目の前だ。
前回、私は己の席が殿下と離れていると知り、無理矢理に王族席へと席を作らせた。殿下の冷たい視線に、あの頃だって気づいていた。気づいていたのに、意に介さなかった。――冷たい態度を取られて傷ついた! という思いばかりで、己が相手に嫌な思いをさせているという自覚が、まるでなかった。
今は…………。
――諸々ありすぎるので、視線を合わせることができません…………。
◇◆◇ ◇◆◇
入学式を終えてから、はじめての休日――。
私は朝早くから、学園から王都中央まで行く乗合馬車に乗り、王都へとやって来ていた。……パトリックと共に。
学園に入学したからといって、私が行っていた孤児院への寄付を父が肩代わりしてくれるというようなことはない。マリー・トーマンが無事、己の地位を確立し自分の力で孤児院経営に携われるようになるまでは、寄付を続けなければ。
事前にパトリックには、今日の行動について話をしていた。前科者が闇市疑惑のあった商業施設へ向かうのだから、報告しなければまずいだろうと思ったからだ。
いざ出かける時間になった際、正門にパトリックが待ち構えていた時は驚いた。彼は行商人風に完璧な変装までしていたのだから。綺麗な黄金色の髪を薄汚れた灰色のベレー帽で隠し、身にまとっていたのは生成りの固そうな綿製品だ。
影のように周囲に溶け込んで見えるのは、服装のせいもあるだろうが、彼が己の気配を消すことに長けているからだろう。
それが、今まで彼が味わってきた、苦労の結果なのだとしたら……。
目的地は、例のセオドーニア商会のとある喫茶店。色々と試したところ――数年前に、ミゲル殿下に連れられた喫茶店が商談に一番適していると気づいたからだ。一つ一つの席がボックス状に区切られていて防音効果もある。
ミゲル殿下は色々と考えて、あの場を選んでいたようだ。全然気づかなかった。あの頭の回転の速さ……全く、空恐ろしくなってくる。
本日の目的は、髪を売る、新しいエチケット・ブックの執筆に関する打ち合わせ。それと、新しく紹介を希望してくる新興成金と貧乏貴族の書類審査用の書類を受け取ることだ。
商談中、パトリックは席を外していたが、商談が終わる頃にまた戻ってきた。私としては同席してもらっても構わなかったのだが。
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