悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ

文字の大きさ
19 / 106
幼少期編

18.私はやるべきことを…やらねばならない

しおりを挟む




 あの時のクリストフ殿下の顔が、全てを物語っていた。

 あれがおそらく、決定的なものになってしまったのだ。この時を境に、私とクリストフ殿下の仲は、私が経験してきた通りの冷え冷えとしたものへと変わっていった。

 パトリックにも心配をかけてしまった。
 彼としては、複雑な心境だろう。お人好しだから。極悪非道なミーシャ・デュ・シテリンのことなど放っておけばいいのに……彼はそれができない。
 まあ、そんな彼だから……何とかしたいと思ったのだ。
 クリストフ殿下を傷つける結果となったとしても。





 ――――――――――――――――――――――――どうして……だろう……?







 ◇◆◇ ◇◆◇




 パトリックを含む、シュトルツァー家はあの後どうなったのか――。

 父の話によると、マデリーネ嬢は教会預かり、シュトルツァー公の爵位については変動なしという結果に落ち着いたらしい。
 彼女の薬物使用はやはり重大事案で、とても「豪邸の一角でゆっくりのんびり治しましょう」が認められる事態ではなかった。そのため、が介入し、教会が運営する向けの入院施設に放り込まれることになり、面会謝絶で治療に専念するようだ。陛下直下管轄組織の一つに、警察組織が存在する。漫画には警察描写など一切出てこなかったが。洗練されいない彼等は、軍人や騎士に毛が生えた程度の存在でしかないのだが。

 シュトルツァー公については、事実上の執行猶予処分となった。この国にそんな法律はない。しかし、王家にとって、事を公にするのは都合が悪かった。
 内密にしておきたかったのだ――マデリーネ嬢への王家の仕打ちやら、そのために発生した、私の跡に残るかもしれない傷の存在など。何度も言うが、シュトルツァー家はともかくシテリン家は隣国王家の系譜をたどる一族。
 王家としても面倒は起こしたくない、といったところか。


 前科者の私が、王家やシュトルツァー家について物申すことは、何もない。
 ――パトリックは、納得していないようだけれど。

 本人は語らないので、長男から話を聞いたところ――パトリックは、長い間、姉から虐待を受けていたと分かった。彼の女嫌いは筋金入りだ。姉に虐げられ続け、がトドメを刺したんだ――。家人も、長女の扱いには困り果てていた。地方へ飛ばしてもなまじ頭が切れるから戻ってきてしまうから。だから、最終的に替えのきく三男を……。

 ……ああ、それについては身につまされるところがある。
 私も、修道院に放り込まれたとしても、早晩戻ってくるだろう。悪辣なこの頭脳で、周囲を血祭りに上げて。世間から離れた修道女を謀るなど造作もない。
 だから、私は己の投獄先に修道院は選ばない。
 もう二度と、誰も傷つけない。誰かを傷つけるくらいなら……死んだ方がマシだ。



 そして最後に――常備軍は諜報員を捕縛することはできなかった。国外脱出したのではないかと結論づけ、捜査は打ち切られた。諜報員が個人的に例の孤児院に寄付をしていたことが引っかかるが、事の繋がりを調べることはできなかった。

 なので――孤児院の出資は、私が個人的にすることにした。マリー・トーマンが入学できなくなったりしたら困るし。

 未来永劫するわけじゃない。マリー・トーマンがクリストフ殿下と結ばれるまで、時間を稼ぐことができればいい。王家と関わりができたのならば、孤児に関する法整備を訴えることもできるだろう。

 現状、孤児に焦点を当てた法律はない。ギリギリかすっていると思われるのが「救貧法」だ。内容は――まだまだ調整が必要だろう。
 マリー・トーマンは高官になって、『自分と同じような虐げられている人々を救いたい!』と夢と希望を胸に、王立学園へと入学したんだ――漫画では。


 『ミーシャ・デュ・シテリン』にとってあの子は、賤しい存在だった。
 人の婚約者を誑かす遊び女でしかなかった。
 ……今はもう、そんなことを思ってはいない。

 自分の何が悪かったのか、何を理解していなかったのかはもう分かってる。


 だから、今はもう……大丈夫……………………な、はずだから……。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい

真咲
恋愛
主人公ライナスを学生時代にいびる悪役令嬢、フェリシアに転生した。 原作通り、ライナスに嫌味を言っていたはずだけど。 「俺、貴族らしくなるから。お前が認めるくらい、立派な貴族になる。そして、勿論、この学園を卒業して実力のある騎士にもなる」 「だから、俺を見ていてほしい。……今は、それで十分だから」 こんなシーン、原作にあったっけ? 私は上手く、悪役令嬢をやれてるわよね?

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang
恋愛
皇女シエラ・ヒペリュアンと皇太子ジェレミア・ヒペリュアンは血が繋がっていない。 シエラは前皇后の不貞によって出来た庶子であったが皇族の醜聞を隠すためにその事実は伏せられた。 元々身体が弱かった前皇后は、名目上の療養中に亡くなる。 現皇后と皇帝の間に生まれたのがジェレミアであった。 "容姿しか取り柄の無い頭の悪い皇女"だと言われ、皇后からは邪険にされる。 皇帝である父に頼んで婚約者となった初恋のリヒト・マッケンゼン公爵には相手にもされない日々。 そして日々違和感を感じるデジャブのような感覚…するとある時…… 「私…知っているわ。これが前世というものかしら…、」 突然思い出した自らの未来の展開。 このままではジェレミアに利用され、彼が皇帝となった後、汚れた部分の全ての罪を着せられ処刑される。 「それまでに…家出資金を貯めるのよ!」 全てを思い出したシエラは死亡フラグを回避できるのか!? 「リヒト、婚約を解消しましょう。」         「姉様は僕から逃げられない。」 (お願いだから皆もう放っておいて!)

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...