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幼少期編

11.軌道修正しなくては!4

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 モール内にある喫茶店の一つ、クリーム色のレンガ造りの店に三人で入ることになった。可愛らしい外観だなと思って見とれてしまったのを、ミゲル殿下に気付かれたらしい。ファンシーで随分と可愛らしい内装だ。ちまたではこういった物がはやっているのか。日本時代を思い出して、ちょっと懐かしい。

「やはり変わっていますね」
 突然ミゲル殿下にそんなことを言われた。とてつもなく失礼なことを言われているような気がする。
「シテリン家の長女は粗こつ者で随分と幼いってね」
「まだ十二歳ですから」
「そうは言っても、婚約者がいる身で単身、男に会いに行くのはどうかと思ってね」
「面白いお話ですね。まあ……正式な婚約者などいない自分には、関係のない話ですけど?」
「あはは、そうだったね」

 前回、ミゲル殿下とはこれほど親しく話をすることはなかったから、気付かなかったけど……この立ち居振る舞い、猫被ってるパトリックと似ている。
 ということは――もしかしなくとも、私に対して悪意を抱いている?

 ――だが!!

「クリストフ殿下は私以外にも婚約者のお話があったのでしょうか? ミゲル殿下はご存じですよね?」
 パトリックの姉君マデリーネ嬢のことだ。あれ程の執着はがないと生まれないだろう。妄想だったら、シュトルツァー公も修道院にでも入れるだろうし。

「……あぁ、もしかしてシュトルツァー邸に行ったのってそれが原因?」
 ミゲル殿下の様子が変わった。好機と見て、曖昧に微笑んで見せると……ミゲル殿下は勝手に納得し、話してくれた。


 ミゲル殿下の話をまとめると――。
 マデリーネ嬢が社交界正式デビューである『王宮での初拝謁』を済ませたのは十七歳の春。当時、クリストフ殿下は齢四つ、ミゲル殿下は齢七つ。
 両陛下は、彼女をミゲル殿下の婚約者候補の一人とした。だが、最優先ではなかった。殿下の婚約者候補として一番の有力者は、某国の第一王女だ。

 ――ああ、そういうことか。
 普通に考えて、マデリーネ嬢と成婚の可能性は万に一つもない。しかし、某国との婚姻は諸手を挙げて賛同できるものではない。はっきり言って、信用できるかできないか、五分五分の相手だ。だから、どうしても控えが必要だったのだろう。
 あるいは、永久に『控え』として囲っておくつもりでもあったのかもしれない……。


「僕の方の婚約が本決まりになって、婚約解消の旨を通知したのが、今から十年前。その後、弟の婚約者に内定したんだ。その後、君に変更になったのが今から六年前」

 ――私だ……! 知らぬところでまたしてもパトリックに迷惑を……!

 ああ……でも、ここで私が辞退してマデリーネに婚約者の座が戻ったとしても、マリー・トーマンには勝てないのよ! 最悪、マデリーネが私の二の舞を演じる可能性だってある! 既にその片鱗を見せている彼女を、渦中に放り込むわけにはいかない。
 どうしたらいい? どうしたら、彼女は落ち着く?

 ――――あ…………いやいや、ダメだって。
 脳裏にすぐとか浮かんでくる脳みそ、何とかならないかな……。

「しかも、彼女は弟にご執心のようだからね」
 ミゲル殿下の目にも明らかなのか。隣の長男が言葉もなく目をまん丸にしている。こんな兄にも他国の姫君と縁談話があるのに……とも思うが、我が家の場合は事情が異なるからな。



 ◇

 その後、世間話を少々して、この場はお開きとなった。無駄に精神力を吸い取られた。その後、施設内を買い物と見せかけて見て回ったが、異常は見受けられなかった。店員に『かの国』なまりの人間はいなかったし、『かの国』製とおぼしき商品もなかった。
 ――商品にも、タグは一応ついている。この国の景品表示法は、日本ほどの信頼は置けない。だが生地や縫製、商品のデザインや若干残る塗装の匂いなどで判別することはたやすい。

 商会ぐるみで犯罪行為をしているのだとしたら、外貨を稼ぐために自国の商品を売るはずだ。転売できるほど『かの国』の物資が潤っているとは思えない。

 語っていただけ? いや、それはない。悪役令嬢の名はだてじゃない。阿呆には務まらない。その『わたくし』が見逃すなどあり得ない。だから、アイツは個人的にこの商会に潜伏しているということになる。

 その個人的な経緯に、マリー・トーマンが関わっていなければいいのだけれど。



 ――などと考え事をしながら帰宅すると、問題の多い商人が売り込みをかけに来ていた。
 例のモンペ――リナウド侯爵夫人と娘、デリアを連れて……!!!






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