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20.婚約解消?!4

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 ――朝から晩まで、部屋に閉じ込められていると、さすがに気分が悪くなってくるわ。なぜかしら?

 軟禁されて一週間、ルイーゼは今日も脱走の機会をうかがっていた。
 無理にシュティーフェル邸に行くつもりはない。ただ、エルウィン宛の手紙を信頼できる使用人に託し、自分の意思をきちんとエルウィンに伝えておきたかった。

 ――このままでは、本当にエルウィンとソフィアが婚約ということになってしまう! エルウィンはソフィアが苦手だと言っていたし。断固阻止よ!

 エルウィンがソフィアを苦手とする理由――ルイーゼはどこかで、「あの子に惹かれる心を抑えているからではないか」という考えが不意に脳裏にひらめいて、慌てて頭を振る。

 ――いいえ、いいえ! きっと、部屋に閉じ込められているから、おかしな思考になっているだけ。この部屋から出て、ちゃんと日の光を浴びれば消えるわ。こんな考え……。


「ねえ、お姉様……今、いい?」
 ノックと共に、今一番聞きたくない、ソフィアの声が聞こえた。
 ――よくないわよっ! 誰のせいでこうなっていると思っているの?! さっさと帰れ!!!
 ルイーゼは動かない。返事もしない。座っていたソファにどっかりと座り直し、テーブルの上の焼き菓子をむさぼり始めた。

「お願いよ、お姉様、わたしの話を聞いて……」
 いつになく弱々しい声に、ルイーゼの耳には聞こえた。
 ルイーゼが思わずソファから身を起こし、ドアに近づいてしまうほどに。

「お願い、お姉様…………彼のためなの!」
 ――は?

「お姉様と結婚するより、わたしと結婚したほうが彼も幸せになれるって、お母様も言ってました!」
 ――お母様……今まで、ソフィアに言葉はおろか、視線すら合わせたことがなかったというのに、こんな時ばかり……!

「わたし、うれしかったんです。初めてお母様に声をかけてもらえた。褒めてもらえた。この家のためにも、そうすることが一番いいんだって、言ってもらえた!」
 ルイーゼがドアを開ける前に、ソフィアはドアの向こう――廊下で叫び始めた。
 それにルイーゼはぎょっとしたが、ドアを開ける気はない。

 ――ここで開けたら、あの子の思うつぼだわ。それにしてもお母様ったら、うまく立ち回ったものね。

「お姉様……わたし………………彼が好きです! わたしが『番い』だって聞きました! わたし、彼に愛される存在なんです!」
「だから何?!」
 返事するつもりなどなかったのに、『番い』発言は我慢がならなかった。
「結ばれると運命づけられた恋人だなんて、怠慢もいいところだわ! 運命は自分の力で切り開くものよ! 貴女、本当にエルウィンと向き合って話をしたことがあるの?!」
 ドアの向こうにいるソフィアに向かい、ルイーゼは叫んだ。部屋に入れて大人しく話し合いをする気になど、到底なれない。

「わたしは、エルウィン様と同じ世界を見ています! お姉様にはできないですよね!? 本当にエルウィン様のことを思うのであれば、お姉様は諦めるべきです! だって、わたしの方がエルウィン様を幸せにできるんですもの!」
 ――私だって……! 見える……ものなら……!!!
 呪いだって怖くなかった。
 彼の孤独を知り、それを癒やす道しるべとなるのなら、何だってルイーゼにはできたのだ。少しも怖くなかった。

「あの日だって、わたしがエルウィン様と一緒にいたから、多くの人が助かったんです! お姉様、これ以上わがままを言わないで下さい!」
「そもそも、貴女が無謀なことをしなければ起きなかった事故だわ! それを『神の奇跡』で退けたように言わないで!!」

「お姉様はエルウィン様のことなんか、何も分かっていないのでしょう!? 同じものを見ることもできないくせに!」


 ルイーゼは、そんなソフィアに返す言葉がなかった。


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