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第一部
28.人でなくなるということ
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城壁で囲われた城の敷地内、その一画に、古くから監獄として利用されている塔がある。監獄塔らしく飾り気がなく、堅ろうで無骨な五階建ての円柱塔。そこに、今は元・王家の一家が捕らえられていた。
空気用の小さい窓はいくつかあるが、それは外の景色を楽しむためのものではない。
先王一家が閉じ込められているのは、五階がワンフロアとなっている(看守部屋は別)大きな牢屋だ。窓はなく、冷たく潰れた板のような粗末なベッドに、すり切れたシーツ。適当な岩を重ねただけのイスとテーブル。上と下には目隠しのない、くみ取り式のトイレ。水道はなく、与えられる水は一日一樽。娯楽はもちろんない。部屋中に漂うのは、ほこりっぽいのに湿った空気。それでも、この塔の中では、もっとも待遇のいい部屋だった。
外の陽気も、爽やかな風も、感じることはできないけれど。
この部屋に唯一ある窓、それは扉につけられた鉄格子の窓だけだ。これは、外の景色を見るためのものではない。看守が中の様子を確認するためのものだ。
小さな通気口から、民衆の歓声が小さく聞こえてきた。
号外を手にして喜ぶ、沢山の民の声が――。
「なんなのです、この騒ぎは!」
王妃は憤りを覚えていた。通気口から空気とともに入ってくる、民の喜びの声に。彼女は自らの意に反し、粗末な身なりで不自由な生活を強いられている。不当であり、不敬極まりない大罪だと、憤っている。
腰を下ろしていた岩としか思えないイスから立ち上がり、広い牢屋内をヒステリックに叫びながら、せわしなく歩きまわる。
「わたくしたちがこのような場所に追いやられているというときに……なんと不敬な!」
――それもこれも、全て愚かな市井の娘にたぶらかされた愚息のせいで!
王妃は、心の底からそう憤っていた。自らには何の否もないと、この期に及んで信じていた。
「…………」
王は呆けているのか何も言わない。岩がむき出しになっている床に座りこみ、ぼーっと通気口を見ている。見えるはずのない市井が見えているとでも言うのか、時折、笑みまで浮かべて。
そんな様子に、ブリクサ・グラーフは薄ら寒さを覚える。恐怖すら感じる哀れな姿を認めたくなくとも、衝立のないこの空間で逃げられる場所などない。
『エミール王万歳!』と、繰り返し聞こえる歓声が、ブリクサ・グラーフと王妃の心を蝕んでいく。
「何が王だ! ふざけやがって!!!」
ブリクサ・グラーフは怒りのままに怒鳴り散らす。怒りを何かにぶつけたくとも、ここにあるのは身にまとっているボロ切れと岩盤だけ。
「ボクは悪くない! 悪くないのに! しっかりしてよ父上! 母上も、何とかしてよ! ボクは悪くないだろう?! いつもそう言ってたじゃないか!!!」
そして、先ほどまで逃げていた対象である父にすらすがりつく。
王は応えない。彼の意識にはもう、誰もいないのかもしれない。時折、ここがどこなのかすら忘れてしまったのか、玉座にいるかのように振る舞うこともあった。
「おお、エミール! なんという親不孝な業を背負っているのでしょう」
急に芝居じみた仕草で、王妃は大仰に美しく大きな声を上げた。
「親の期待を裏切るだけでは飽き足らず、実の親をこのような所へ閉じ込めるなど正気の沙汰とは思えません」
「そ、そうだ!」
はじめは何事かと様子をうかがっていたブリクサだったが、やがて王妃の口上に飲まれた。
「あの子にはまだまだ指導者が必要です」
王妃はとびらの向こうにいる看守に、目上の者としての威厳たっぷりに語りかける。
「それはわたくしたちに他なりません。お前たちも、真にこの国を思うのであれば、今すぐにわたくしたちを解放するようエミールに進言なさい!」
かと思えば激昂し、扉をたたきわめく。しかし、すぐに平静を取り戻し、
「愚かな民はわたくしたちのような高貴な人間が導いてやらねばならないのです。それが、民のためなのです。どうして、それが分からないのでしょう?」
――しまいには、哀れみたっぷりに嘆きながら扉から離れた。入れ替わるように、今度はブリクサ・グラーフが扉に張り付き、「そうだそうだ!」と、幼稚な言葉を看守に投げつける。
扉の向こうでは、いつものように二人の兵士が見張りをしていた。扉に備え付けられている窓から、顔色一つ変えずに牢屋内を一瞥し、いつもの騒ぎにすぐに興味をなくしたかのように視線をそらした。
「なんだ貴様ら、その態度は!」
ブリクサ・グラーフが扉の窓につけられた鉄格子を両手でつかみ、壊さんばかりに揺すろうとあがくが、小さな物音が出るだけに終わった。
そんな幼い抵抗に、看守は哀れみの表情を浮かべ、ブリクサ・グラーフへ視線を送り口を開いた。
「あんなに優秀な兄上がすぐそばにおられたというのに……本当にお可哀想な方ですね」
その言葉は、ブリクサ・グラーフの自尊心を粉々に打ち砕いた。ここにはもう、彼の自尊心に水をやり、陽をあてて、艶が出るまで磨きあげてくれる者はいないのだから。
――こいつら……殺してやる! 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してや――――
「なんだお前ッ?!」
ブリクサ・グラーフの頭は殺意で満たされていたが、ふいに、自分に哀れみの目を向けていた無礼な看守があわてた様子を見せた。階段がある方向へ視線を向け、腰に下げていた剣を手に取り、なにかに対峙するように腰をかがめて臨戦態勢をとった。
看守のそのような変化におびえたブリクサ・グラーフは扉から飛びのいた。おびえる彼の耳に届くのは、たくさんの金属音ともめ合う男たちの声だ。
「なんなの?」
扉から最も離れた壁際へと逃げていた王妃が、おびえたように壁に背を張りつかせながら、誰にともなくヒステリックに叫んでいる。今のブリクサ・グラーフには、彼女の問いに答える気力も余裕もない。
そんなブリクサ・グラーフの耳に、次に飛び込んできたのは聞き覚えのある名前だった。
「我々はレイモンド・マクラウドの手の者だ! そこをどけ!」
――レイモンド・マクラウド?!
その名を耳にした瞬間、ブリクサ・グラーフは今までの不安も何もかもを忘れて、扉の鉄格子にしがみつき、現れた何者かの姿を確かめようと、せまい視界の中を必死に探した。
遠くでもめ合う音と、だれかが倒れたような重量感のある金属音が周囲に響き、一瞬、静かになる。すぐに何者かの靴音が近づいてきて、鉄格子の窓の向こうに見知らぬ男が現れた。
「ブリクサ・グラーフ殿下!」男はブリクサの名を口にする。
「お前……誰だ?」
緊張と期待から、ブリクサ・グラーフは鉄格子にしがみついたまま、うわずった声で見知らぬ男に問いかける。かすかな期待をその顔ににじませて。
「ワタシは、貴方の友――レイモンド・マクラウドの手の者です」
「お……おお、おお!」男の返答は望んでいた通りのもので、ブリクサ・グラーフは喜びに打ち震えた。
「助けに参りました!」
男は扉の窓越しにそう言いながら、手早く扉の鍵を開けて一家を牢屋の外へと導く。
「あ、ああ……! 行きましょう、母上、父上!」
開いた扉に感激もあらわに、ブリクサ・グラーフは牢屋の奥にいる母と、空気穴に向かい呆けている父親を振り返り、喜々として叫ぶ。
「ええ!」
レイモンドの名が出ると、目の前の見知らぬ男を王妃もあっさりと信じた。
散々な目に遭ったのだから、分かっていたはずだった。
この男は信用できない。いや、この男だけではない。オストワルト公も、本当は信じてはならなかったのだ。
でも、ブリクサは信じた。いや、すがった。それしかなかったから。
だって誰一人、王太子の座についていたというのに、敬いも恐れも顧みることすらしなかった。
レイモンドの部下を名乗る男にうながされるまま、三人は牢屋から出た。ブリクサ・グラーフは呆けている父親を肩に担ぎ、王妃はその後ろから恐る恐るとついてくる。
扉の前にいた二人の看守は、階段の前で倒れていた。それを見つけ、ブリクサ・グラーフがおびえたように、「ひっ! こ、殺したのか?!」と男に問うと、男は冷静に「いえ。気絶させただけです、ご安心を。さあ、お急ぎください」と返した。
階段横にある看守の詰め所からは人の気配がしない。ブリクサ・グラーフが気にしたように視線を送ったのを見た男は、
「ご安心ください。彼らはみな眠っております」
「眠っている……?」
「お疲れだったのでしょう」
男はほくそ笑む。ブリクサ・グラーフはそんな男の様子に、わきあがる疑問を頭ごと振り払い、気づいていないフリをしてついていく。四階、三階、二階とそれぞれのフロアの看守も気絶させられているのを見ながら。
男に続いて薄暗い螺旋階段を下りていた三人だが、ふいに、「このまま進んだらすぐに兵に見つかるわ!」と、王妃が金切り声を上げた。薄暗い牢屋の中では時間感覚さえ狂いがちになるが、今は真っ昼間だ。無策で外へ出れば、すぐに見つかって連れ戻されてしまう。
男は一階部分の螺旋階段の下へもぐると、両手で正方形の石畳のようになっている床の手触りを確かめているかのような動きを見せた。やがて目的のものを見つけたのか、男が一枚の板石を持ち上げると、その下から階段が現れた。
「ここから地下へ進みます。水路を伝っていけば、街へ出ることができます。せまく暗い道ですが、今しばらくのご辛抱を」
男は階段を提示しながら、三人に冷静にそう言った。三人は一瞬戸惑った様子を見せるが、他に道はない。いまさら、あの牢屋へ戻りたくはなかった。
地下へ通じる階段は、今までの螺旋階段と違い、湿り気を帯びた薄暗くうっとうしいところだった。
「まあ、いやだわこんなところを……」王妃はそんな文句を言いながら、階段を下りる。明かりは男が魔術で作り出した松明のような照明だけ。
階段を下りると、正面に鉄格子の扉が見えてきた。鍵のかかっていないその扉を開き、男は三人がきちんとついてきているのかを確認するために振り返る。
三人はもう長旅を終えたような疲労感を漂わせていたが、男はそれを無視し、先へと足を進めた。
足下を、時折、見慣れない虫やネズミが走るのを見るたびに、ブリクサ・グラーフと王妃は悲鳴を上げる。そのたびに「お静かに」と男から注意をされる始末。
はじめのうちは文句を口にしていた王妃も、体力の問題か徐々に口数が少なくなり、多少の虫や小動物相手には悲鳴を上げなくなっていた。
距離にして二、三キロを半日かけて歩いた。迷路のように張り巡らされた水路を、右へ左へと歩き続け、男はようやく「もうすぐです」と口にした。
大きな水路に出ると、四、五人は乗れそうなボートが見えた。
「あれは?」というブリクサ・グラーフの問いかけに、
「あれに乗り、川の流れに乗って王都から離れた町へ逃れます」と男は応えた。
「まあ! あんな汚らしいボートに……!」
王妃はまだきらびやかな世界に未練があるかのように、揺れるボートに悲鳴を上げながらも、男に揺れる身体を支えられると「まあ……」と、その身体のたくましさに現実逃避をはじめた。
男はブリクサ・グラーフから先王を受け取ると、横抱きにして素早くボートに乗せ、続いてブリクサをボートへと誘導した。
こうして一行は水路を――王都を、城をあとにした。
◇
ボートがどこかの岸に到着したのは、日が暮れかけた頃のことだった。
のどかな田舎町なのか、ひとけはなく、追っ手がいる気配はないことに、ブリクサ・グラーフは安堵を覚えた。
しかし、安堵をしたのもつかの間、ブリクサ・グラーフは遠くから漂ってくる、すえた匂いに不快感が込み上げる。匂いの正体について目を凝らして探してみると、遠くに集落のようなものがあるのが見えた。一キロほど離れているだろうか。
木と藁が適当に重ねられたような、彼らの基準で言うなれば、家とは到底呼べないような家々が集まっている集落が。
――汚らしい村だ! まだこんな汚らしい村が残っていたのか! ボクが王となった暁には、こんな村焼き払ってやる!
「あ……ははは! 自由だ! ボクは自由だ! 畜生あいつら、今に見ていろ!」
汚らしく不快な村など、自分には全く関係のないことだと、ブリクサ・グラーフは興味すら抱かなかった。それどころか、遠くに見える王城から逃げ切ったことへの喜びしかないのか、高笑いをしている。
――市井へ放たれてもアイツは戻ってきた! ボクなら一月もかからないさ! 全てをひっくり返してやる! ボクが優秀なのだと、みなに分からせてやるんだ! ボクは優秀なんだから!!!
「では、ワタシは迎えのものを呼んで参りますので、こちらでしばしお待ち下さい」
男は恭しく頭を下げた。
「おお!」男にブリクサ・グラーフが言葉を返す。
「レイモンド様のつかいのものがすぐにまいりますので――」
「急げよ!」あくまで尊大に、ブリクサ・グラーフはそう言った。
「――――御意」
そう言って、男は遠くからやってきた小さく貧相な馬車に乗り、姿を消した。
「貧相な馬車ですわね。戻ってくる時にはわたくしたちにふさわしいものを用意していてくださるとよいのですけれど」
去って行く男の馬車を見送りながら、王妃はのんきにそんなことを言っていた。
ブリクサは肩に背負っていた父親を近くの岩に座らせ、軽くなった肩を回しながら、これからの未来に思いを馳せていた。
――あの国にはベリンダもいる! ボクがこんな目に遭っているのを聞いたら、心優しい彼女は涙を流すだろう。それもこれも、全部あいつのせいだ! 今に見ていろ……ボクに恥をかかせた教会共々、ボクがいなくなったことで崩壊するあの国をあざ笑ってやる!!!
――――しかしその後、どれだけ待っても男は戻っては来なかった。
「どういうことなの?! なぜ、あの者は戻ってこないのです?!」
王妃がパニックになり、ヒステリックに叫ぶ。
周囲は完全に暗くなり、あの小汚い集落に小さな光が灯りはじめた。食べ物を熱しているのか、強烈な悪臭が三人の下まで漂ってくる。
彼らは知らない。あの集落こそが、いわゆる本当のスラムだということが。
はじまりはただ、貧しいだけだった。けれど徐々にその思想は反社会的なものとなり、今では、国からの援助を必要としない代わりに指示に従うこともない無法集団となってしまった。
王妃がヒステリックに声高に叫ぶものだから、興味を引かれた集落の男たちが数名、三人のもとへ寄ってきてしまった。三人が身にまとっているボロ布よりも、はるかに汚く薄くすり切れた服とも呼べない布で適当に身体を追っているような者たちが。
「なんだお前ら?!」
恐怖と嫌悪もあらわにブリクサ・グラーフが叫ぶ。
「な、なんでもないぞ! 来るな!」
うすら笑いを浮かべる男たちから母親を守るように、ブリクサ・グラーフは叫んだ……つもりだったのだが、実際にはうわずった声の言葉にならない悲鳴としてしか、相手には届いていなかった。
男たちは殺気とも下世話とも判別のつかない、得体の知れない様子で三人に近づいてくる。呆けた父親、哀れな母親……だれも自分を守ってくれない……とブリクサ・グラーフが絶望にも似た感情を抱いた時だった。
「あははははははははははははははははははははははは……!!!」
先王が、いきなり狂ったように笑い出した。先王の醜態を前に、王妃もブリクサ・グラーフも、もう反応を示すことができない。
「なんだ、老狂か。お前も若いのに大変だな」
男の一人が態度を軟化させ、ブリクサ・グラーフに語りかける。この狂った老人のせいで村を追い出されたとでも思ったのだろう。態度が軟化したことに、ブリクサは安堵を覚えたが、別の男の言葉に血の気が引いた。
「そんな身なりで王城の下水道近くにいるもんだからよ、まさか逃亡してる王族一家かと思ったよ」
「……へ?」
「血祭りに上げてやるとこだったのによ」
「まぁ、そんなとこだ」
「八つ裂きにしてやったのになぁ……」
すっかり縮み上がっているブリクサに対し、男たちは残忍な顔で笑う。
「まあ、お前らも行くとこなんてないだろ、集落に来い」
「そっちの別嬪さんは大歓迎だ」
王妃に向かい、男は今度こそ、はっきりと下品な顔つきで下世話な言葉を口にした。
「ひっ……!」
王妃は怯え、息子に助けを求めようとするが、いつの間にか男たちに取り囲まれている。男たちから逃れようと動けば動くほど、身体は集落へと近づいていく。
「お前も来い! 男手はいくらあっても足りねぇし……よく見りゃあ可愛い顔してんじゃねぇか、なあ?」
男の手が、ブリクサ・グラーフへと伸びてくる。恐怖で悲鳴を上げることすらできない。
――いやだ……こんな場所は嫌だ! ボクにふさわしくない! いやだいやだ! だれかだれか…………兄上! 兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上……助けて兄上ェェェーッ!!!
◇
岩に座る先王をその場に置き去り、ブリクサと王妃は集落へと連れて行かれ、その後、二度と表舞台へ戻ってくることはなかった。
衛生面も治安も最悪な集落の中で、死ぬまで怯え弄ばれながら暮らす道しか、三人には残されてはいなかったのだ。
彼らは理解していなかった。なぜ、エミールが三人を監獄塔へ幽閉していたのか。彼らの動きを完全に封じるにはそこしかなかった。市井に捨てれば死ぬよりつらい未来が待っている。
民に先王殺しをさせてしまうのは忍びなかった。彼らにいらぬ業を背負わせることになるからだ。時が訪れれば、自分で引導を渡す心づもりでいた。しかし、踏まなければならない手順というものがあるため、すぐに行動を起こすことはできなかった。
肉親としての最後の情でもあった。潔い最期を迎えさせることは。
どこかの誰かに惨殺されるよりかは、汚い土地で野垂れ死にを迎えるよりは、と思っていたのだ。相手には何一つ伝わっていなかったが。
空気用の小さい窓はいくつかあるが、それは外の景色を楽しむためのものではない。
先王一家が閉じ込められているのは、五階がワンフロアとなっている(看守部屋は別)大きな牢屋だ。窓はなく、冷たく潰れた板のような粗末なベッドに、すり切れたシーツ。適当な岩を重ねただけのイスとテーブル。上と下には目隠しのない、くみ取り式のトイレ。水道はなく、与えられる水は一日一樽。娯楽はもちろんない。部屋中に漂うのは、ほこりっぽいのに湿った空気。それでも、この塔の中では、もっとも待遇のいい部屋だった。
外の陽気も、爽やかな風も、感じることはできないけれど。
この部屋に唯一ある窓、それは扉につけられた鉄格子の窓だけだ。これは、外の景色を見るためのものではない。看守が中の様子を確認するためのものだ。
小さな通気口から、民衆の歓声が小さく聞こえてきた。
号外を手にして喜ぶ、沢山の民の声が――。
「なんなのです、この騒ぎは!」
王妃は憤りを覚えていた。通気口から空気とともに入ってくる、民の喜びの声に。彼女は自らの意に反し、粗末な身なりで不自由な生活を強いられている。不当であり、不敬極まりない大罪だと、憤っている。
腰を下ろしていた岩としか思えないイスから立ち上がり、広い牢屋内をヒステリックに叫びながら、せわしなく歩きまわる。
「わたくしたちがこのような場所に追いやられているというときに……なんと不敬な!」
――それもこれも、全て愚かな市井の娘にたぶらかされた愚息のせいで!
王妃は、心の底からそう憤っていた。自らには何の否もないと、この期に及んで信じていた。
「…………」
王は呆けているのか何も言わない。岩がむき出しになっている床に座りこみ、ぼーっと通気口を見ている。見えるはずのない市井が見えているとでも言うのか、時折、笑みまで浮かべて。
そんな様子に、ブリクサ・グラーフは薄ら寒さを覚える。恐怖すら感じる哀れな姿を認めたくなくとも、衝立のないこの空間で逃げられる場所などない。
『エミール王万歳!』と、繰り返し聞こえる歓声が、ブリクサ・グラーフと王妃の心を蝕んでいく。
「何が王だ! ふざけやがって!!!」
ブリクサ・グラーフは怒りのままに怒鳴り散らす。怒りを何かにぶつけたくとも、ここにあるのは身にまとっているボロ切れと岩盤だけ。
「ボクは悪くない! 悪くないのに! しっかりしてよ父上! 母上も、何とかしてよ! ボクは悪くないだろう?! いつもそう言ってたじゃないか!!!」
そして、先ほどまで逃げていた対象である父にすらすがりつく。
王は応えない。彼の意識にはもう、誰もいないのかもしれない。時折、ここがどこなのかすら忘れてしまったのか、玉座にいるかのように振る舞うこともあった。
「おお、エミール! なんという親不孝な業を背負っているのでしょう」
急に芝居じみた仕草で、王妃は大仰に美しく大きな声を上げた。
「親の期待を裏切るだけでは飽き足らず、実の親をこのような所へ閉じ込めるなど正気の沙汰とは思えません」
「そ、そうだ!」
はじめは何事かと様子をうかがっていたブリクサだったが、やがて王妃の口上に飲まれた。
「あの子にはまだまだ指導者が必要です」
王妃はとびらの向こうにいる看守に、目上の者としての威厳たっぷりに語りかける。
「それはわたくしたちに他なりません。お前たちも、真にこの国を思うのであれば、今すぐにわたくしたちを解放するようエミールに進言なさい!」
かと思えば激昂し、扉をたたきわめく。しかし、すぐに平静を取り戻し、
「愚かな民はわたくしたちのような高貴な人間が導いてやらねばならないのです。それが、民のためなのです。どうして、それが分からないのでしょう?」
――しまいには、哀れみたっぷりに嘆きながら扉から離れた。入れ替わるように、今度はブリクサ・グラーフが扉に張り付き、「そうだそうだ!」と、幼稚な言葉を看守に投げつける。
扉の向こうでは、いつものように二人の兵士が見張りをしていた。扉に備え付けられている窓から、顔色一つ変えずに牢屋内を一瞥し、いつもの騒ぎにすぐに興味をなくしたかのように視線をそらした。
「なんだ貴様ら、その態度は!」
ブリクサ・グラーフが扉の窓につけられた鉄格子を両手でつかみ、壊さんばかりに揺すろうとあがくが、小さな物音が出るだけに終わった。
そんな幼い抵抗に、看守は哀れみの表情を浮かべ、ブリクサ・グラーフへ視線を送り口を開いた。
「あんなに優秀な兄上がすぐそばにおられたというのに……本当にお可哀想な方ですね」
その言葉は、ブリクサ・グラーフの自尊心を粉々に打ち砕いた。ここにはもう、彼の自尊心に水をやり、陽をあてて、艶が出るまで磨きあげてくれる者はいないのだから。
――こいつら……殺してやる! 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してや――――
「なんだお前ッ?!」
ブリクサ・グラーフの頭は殺意で満たされていたが、ふいに、自分に哀れみの目を向けていた無礼な看守があわてた様子を見せた。階段がある方向へ視線を向け、腰に下げていた剣を手に取り、なにかに対峙するように腰をかがめて臨戦態勢をとった。
看守のそのような変化におびえたブリクサ・グラーフは扉から飛びのいた。おびえる彼の耳に届くのは、たくさんの金属音ともめ合う男たちの声だ。
「なんなの?」
扉から最も離れた壁際へと逃げていた王妃が、おびえたように壁に背を張りつかせながら、誰にともなくヒステリックに叫んでいる。今のブリクサ・グラーフには、彼女の問いに答える気力も余裕もない。
そんなブリクサ・グラーフの耳に、次に飛び込んできたのは聞き覚えのある名前だった。
「我々はレイモンド・マクラウドの手の者だ! そこをどけ!」
――レイモンド・マクラウド?!
その名を耳にした瞬間、ブリクサ・グラーフは今までの不安も何もかもを忘れて、扉の鉄格子にしがみつき、現れた何者かの姿を確かめようと、せまい視界の中を必死に探した。
遠くでもめ合う音と、だれかが倒れたような重量感のある金属音が周囲に響き、一瞬、静かになる。すぐに何者かの靴音が近づいてきて、鉄格子の窓の向こうに見知らぬ男が現れた。
「ブリクサ・グラーフ殿下!」男はブリクサの名を口にする。
「お前……誰だ?」
緊張と期待から、ブリクサ・グラーフは鉄格子にしがみついたまま、うわずった声で見知らぬ男に問いかける。かすかな期待をその顔ににじませて。
「ワタシは、貴方の友――レイモンド・マクラウドの手の者です」
「お……おお、おお!」男の返答は望んでいた通りのもので、ブリクサ・グラーフは喜びに打ち震えた。
「助けに参りました!」
男は扉の窓越しにそう言いながら、手早く扉の鍵を開けて一家を牢屋の外へと導く。
「あ、ああ……! 行きましょう、母上、父上!」
開いた扉に感激もあらわに、ブリクサ・グラーフは牢屋の奥にいる母と、空気穴に向かい呆けている父親を振り返り、喜々として叫ぶ。
「ええ!」
レイモンドの名が出ると、目の前の見知らぬ男を王妃もあっさりと信じた。
散々な目に遭ったのだから、分かっていたはずだった。
この男は信用できない。いや、この男だけではない。オストワルト公も、本当は信じてはならなかったのだ。
でも、ブリクサは信じた。いや、すがった。それしかなかったから。
だって誰一人、王太子の座についていたというのに、敬いも恐れも顧みることすらしなかった。
レイモンドの部下を名乗る男にうながされるまま、三人は牢屋から出た。ブリクサ・グラーフは呆けている父親を肩に担ぎ、王妃はその後ろから恐る恐るとついてくる。
扉の前にいた二人の看守は、階段の前で倒れていた。それを見つけ、ブリクサ・グラーフがおびえたように、「ひっ! こ、殺したのか?!」と男に問うと、男は冷静に「いえ。気絶させただけです、ご安心を。さあ、お急ぎください」と返した。
階段横にある看守の詰め所からは人の気配がしない。ブリクサ・グラーフが気にしたように視線を送ったのを見た男は、
「ご安心ください。彼らはみな眠っております」
「眠っている……?」
「お疲れだったのでしょう」
男はほくそ笑む。ブリクサ・グラーフはそんな男の様子に、わきあがる疑問を頭ごと振り払い、気づいていないフリをしてついていく。四階、三階、二階とそれぞれのフロアの看守も気絶させられているのを見ながら。
男に続いて薄暗い螺旋階段を下りていた三人だが、ふいに、「このまま進んだらすぐに兵に見つかるわ!」と、王妃が金切り声を上げた。薄暗い牢屋の中では時間感覚さえ狂いがちになるが、今は真っ昼間だ。無策で外へ出れば、すぐに見つかって連れ戻されてしまう。
男は一階部分の螺旋階段の下へもぐると、両手で正方形の石畳のようになっている床の手触りを確かめているかのような動きを見せた。やがて目的のものを見つけたのか、男が一枚の板石を持ち上げると、その下から階段が現れた。
「ここから地下へ進みます。水路を伝っていけば、街へ出ることができます。せまく暗い道ですが、今しばらくのご辛抱を」
男は階段を提示しながら、三人に冷静にそう言った。三人は一瞬戸惑った様子を見せるが、他に道はない。いまさら、あの牢屋へ戻りたくはなかった。
地下へ通じる階段は、今までの螺旋階段と違い、湿り気を帯びた薄暗くうっとうしいところだった。
「まあ、いやだわこんなところを……」王妃はそんな文句を言いながら、階段を下りる。明かりは男が魔術で作り出した松明のような照明だけ。
階段を下りると、正面に鉄格子の扉が見えてきた。鍵のかかっていないその扉を開き、男は三人がきちんとついてきているのかを確認するために振り返る。
三人はもう長旅を終えたような疲労感を漂わせていたが、男はそれを無視し、先へと足を進めた。
足下を、時折、見慣れない虫やネズミが走るのを見るたびに、ブリクサ・グラーフと王妃は悲鳴を上げる。そのたびに「お静かに」と男から注意をされる始末。
はじめのうちは文句を口にしていた王妃も、体力の問題か徐々に口数が少なくなり、多少の虫や小動物相手には悲鳴を上げなくなっていた。
距離にして二、三キロを半日かけて歩いた。迷路のように張り巡らされた水路を、右へ左へと歩き続け、男はようやく「もうすぐです」と口にした。
大きな水路に出ると、四、五人は乗れそうなボートが見えた。
「あれは?」というブリクサ・グラーフの問いかけに、
「あれに乗り、川の流れに乗って王都から離れた町へ逃れます」と男は応えた。
「まあ! あんな汚らしいボートに……!」
王妃はまだきらびやかな世界に未練があるかのように、揺れるボートに悲鳴を上げながらも、男に揺れる身体を支えられると「まあ……」と、その身体のたくましさに現実逃避をはじめた。
男はブリクサ・グラーフから先王を受け取ると、横抱きにして素早くボートに乗せ、続いてブリクサをボートへと誘導した。
こうして一行は水路を――王都を、城をあとにした。
◇
ボートがどこかの岸に到着したのは、日が暮れかけた頃のことだった。
のどかな田舎町なのか、ひとけはなく、追っ手がいる気配はないことに、ブリクサ・グラーフは安堵を覚えた。
しかし、安堵をしたのもつかの間、ブリクサ・グラーフは遠くから漂ってくる、すえた匂いに不快感が込み上げる。匂いの正体について目を凝らして探してみると、遠くに集落のようなものがあるのが見えた。一キロほど離れているだろうか。
木と藁が適当に重ねられたような、彼らの基準で言うなれば、家とは到底呼べないような家々が集まっている集落が。
――汚らしい村だ! まだこんな汚らしい村が残っていたのか! ボクが王となった暁には、こんな村焼き払ってやる!
「あ……ははは! 自由だ! ボクは自由だ! 畜生あいつら、今に見ていろ!」
汚らしく不快な村など、自分には全く関係のないことだと、ブリクサ・グラーフは興味すら抱かなかった。それどころか、遠くに見える王城から逃げ切ったことへの喜びしかないのか、高笑いをしている。
――市井へ放たれてもアイツは戻ってきた! ボクなら一月もかからないさ! 全てをひっくり返してやる! ボクが優秀なのだと、みなに分からせてやるんだ! ボクは優秀なんだから!!!
「では、ワタシは迎えのものを呼んで参りますので、こちらでしばしお待ち下さい」
男は恭しく頭を下げた。
「おお!」男にブリクサ・グラーフが言葉を返す。
「レイモンド様のつかいのものがすぐにまいりますので――」
「急げよ!」あくまで尊大に、ブリクサ・グラーフはそう言った。
「――――御意」
そう言って、男は遠くからやってきた小さく貧相な馬車に乗り、姿を消した。
「貧相な馬車ですわね。戻ってくる時にはわたくしたちにふさわしいものを用意していてくださるとよいのですけれど」
去って行く男の馬車を見送りながら、王妃はのんきにそんなことを言っていた。
ブリクサは肩に背負っていた父親を近くの岩に座らせ、軽くなった肩を回しながら、これからの未来に思いを馳せていた。
――あの国にはベリンダもいる! ボクがこんな目に遭っているのを聞いたら、心優しい彼女は涙を流すだろう。それもこれも、全部あいつのせいだ! 今に見ていろ……ボクに恥をかかせた教会共々、ボクがいなくなったことで崩壊するあの国をあざ笑ってやる!!!
――――しかしその後、どれだけ待っても男は戻っては来なかった。
「どういうことなの?! なぜ、あの者は戻ってこないのです?!」
王妃がパニックになり、ヒステリックに叫ぶ。
周囲は完全に暗くなり、あの小汚い集落に小さな光が灯りはじめた。食べ物を熱しているのか、強烈な悪臭が三人の下まで漂ってくる。
彼らは知らない。あの集落こそが、いわゆる本当のスラムだということが。
はじまりはただ、貧しいだけだった。けれど徐々にその思想は反社会的なものとなり、今では、国からの援助を必要としない代わりに指示に従うこともない無法集団となってしまった。
王妃がヒステリックに声高に叫ぶものだから、興味を引かれた集落の男たちが数名、三人のもとへ寄ってきてしまった。三人が身にまとっているボロ布よりも、はるかに汚く薄くすり切れた服とも呼べない布で適当に身体を追っているような者たちが。
「なんだお前ら?!」
恐怖と嫌悪もあらわにブリクサ・グラーフが叫ぶ。
「な、なんでもないぞ! 来るな!」
うすら笑いを浮かべる男たちから母親を守るように、ブリクサ・グラーフは叫んだ……つもりだったのだが、実際にはうわずった声の言葉にならない悲鳴としてしか、相手には届いていなかった。
男たちは殺気とも下世話とも判別のつかない、得体の知れない様子で三人に近づいてくる。呆けた父親、哀れな母親……だれも自分を守ってくれない……とブリクサ・グラーフが絶望にも似た感情を抱いた時だった。
「あははははははははははははははははははははははは……!!!」
先王が、いきなり狂ったように笑い出した。先王の醜態を前に、王妃もブリクサ・グラーフも、もう反応を示すことができない。
「なんだ、老狂か。お前も若いのに大変だな」
男の一人が態度を軟化させ、ブリクサ・グラーフに語りかける。この狂った老人のせいで村を追い出されたとでも思ったのだろう。態度が軟化したことに、ブリクサは安堵を覚えたが、別の男の言葉に血の気が引いた。
「そんな身なりで王城の下水道近くにいるもんだからよ、まさか逃亡してる王族一家かと思ったよ」
「……へ?」
「血祭りに上げてやるとこだったのによ」
「まぁ、そんなとこだ」
「八つ裂きにしてやったのになぁ……」
すっかり縮み上がっているブリクサに対し、男たちは残忍な顔で笑う。
「まあ、お前らも行くとこなんてないだろ、集落に来い」
「そっちの別嬪さんは大歓迎だ」
王妃に向かい、男は今度こそ、はっきりと下品な顔つきで下世話な言葉を口にした。
「ひっ……!」
王妃は怯え、息子に助けを求めようとするが、いつの間にか男たちに取り囲まれている。男たちから逃れようと動けば動くほど、身体は集落へと近づいていく。
「お前も来い! 男手はいくらあっても足りねぇし……よく見りゃあ可愛い顔してんじゃねぇか、なあ?」
男の手が、ブリクサ・グラーフへと伸びてくる。恐怖で悲鳴を上げることすらできない。
――いやだ……こんな場所は嫌だ! ボクにふさわしくない! いやだいやだ! だれかだれか…………兄上! 兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上……助けて兄上ェェェーッ!!!
◇
岩に座る先王をその場に置き去り、ブリクサと王妃は集落へと連れて行かれ、その後、二度と表舞台へ戻ってくることはなかった。
衛生面も治安も最悪な集落の中で、死ぬまで怯え弄ばれながら暮らす道しか、三人には残されてはいなかったのだ。
彼らは理解していなかった。なぜ、エミールが三人を監獄塔へ幽閉していたのか。彼らの動きを完全に封じるにはそこしかなかった。市井に捨てれば死ぬよりつらい未来が待っている。
民に先王殺しをさせてしまうのは忍びなかった。彼らにいらぬ業を背負わせることになるからだ。時が訪れれば、自分で引導を渡す心づもりでいた。しかし、踏まなければならない手順というものがあるため、すぐに行動を起こすことはできなかった。
肉親としての最後の情でもあった。潔い最期を迎えさせることは。
どこかの誰かに惨殺されるよりかは、汚い土地で野垂れ死にを迎えるよりは、と思っていたのだ。相手には何一つ伝わっていなかったが。
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