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第二部
第26話: 揺らぐ魂の共鳴
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冷たい風が森の木々を揺らし、アストリア一行の足音だけが静寂を乱していた。
村を追われるように立ち去る一行の背中には、罪悪感と疑念がまとわりついていた。
「もう、あの村には戻れねぇな…。」
アストリアがぽつりと呟いた。
その時、行く手を遮るように現れた人影が一行の足を止めた。
「誰だ!」
アストリアは剣を引き抜き、目を細めて警戒する。
人影はふらつく足取りで近づいてくる。
やがてその顔が月明かりに浮かび上がった。
その顔には疲労と苦痛が刻まれていた。
「例の黒フードの男....!」
ローハンが斧を構え、臨戦体制に入る。
「ギルバート!」
アストリアが叫ぶ。
「お前がハウロンを....!これ以上好き勝手に"怒の魂"を悪用させない!!"怒の魂"を渡せ!!!」
ギルバートは深く息を吐き、首を横に振った。
「・・・それは……今は、彼女の中にある。」
彼が指を指す先にはマチルダがいた。
「なっ……!」
マチルダの顔が青ざめる。
全員が驚愕の色を浮かべる中、セラフィスの声がアストリアの頭の中に響いた。
『待て、アストリア!』
セラフィスの冷静な声が状況を分析する。
『それが....。ギルバートからも、マチルダからも“怒の魂”の波動は感じられない……。それどころか、ギルバートの魂は暖かさと優しさで包み込んでくるようだ...。』
「どういうことだ?」
アストリアは眉をひそめるが、ギルバートは話を続ける。
「マチルダ、君は俺よりも強い。絶対に“怒の魂”の支配に負けるな。打ち勝つんだ。君ならできる。」
その言葉に、マチルダは一瞬目を見開いたが、すぐに目を伏せてしまった。
「ふざけるな!」
アストリアはギルバートを睨む。
「どういう小細工をしている?“怒の魂”をどこに隠した?」
そう言うなり、剣を構えた。
「セラフィス、俺に憑依して、"スキャンニング"を頼む!」
『待て、アストリア!彼には何か事情がありそうだ!!』
セラフィスが叫んだが、今のアストリアの心には届かない。
『セラフィス、早くしてくれ!』
アストリアはギルバートの声のする方へ走る。
「もういい!」
そう言いながら、彼は剣を振り下ろす。
ギルバートは手負いながらも、必死に防衛呪文を唱えた。
その瞬間、彼の周囲にかすかな光の壁が生じ、アストリアの剣を辛うじて防ぐ。
『待ってくれ、アストリア!!!』
セラフィスがさらに声を張り上げる。
「うるさいッ!!!」
アストリアは己の信じる正義感に突き動かされるように剣を握り直し、迷いを振り払って再びギルバートへと突き進む。
「ハウロンの仇は俺が打つ!!」
その瞬間、セラフィスの声が頭の中で響き渡る。
『やめろォー!!アストリアー!!!』
しかし、その叫びは届かなかった。
「これで決める!フルメン・デ・・・」
アストリアが必殺技を繰り出そうとしたその時、異変が起こった。
突如として彼の身体が軽くなり、地面に膝をついた。
身体に妙な違和感がある。
彼が息を切らしていると、突然視界が揺らいだ。
「何だ....?」
その瞬間、彼の目にぼんやりと光が差し込んだ。
「な、なんだ……これ……」
アストリアは目を見開いた。
目の前にもう一人の自分らしき人物が転がっている。
今まで見えなかった世界が、微かにではあるが色を持って映り始めていた。
「……見えるのか....?」
彼は戸惑いながらも、震える手を伸ばして周囲を確かめた。
一方で、アストリアから分離したセラフィスは、半透明ではなく、明確な実体を持ち始めていた。
彼は足を引きずりながらも、自力で立ち上がることが出来た。
「……な、何故だ....?」
セラフィスは静かに呟いた。
長年、彼らの魂は絶妙な波長で共鳴を果たし、バランスを保っていた。
例えるなら、磁石の同極だ。
それが、今、互いに正反対の感情を抱いたことで、一気にバランスが崩れた。
いわば、両者は磁石の対極の存在になった。
セラフィスの「健康な視力」とアストリアの「健康な足の力」──。
互いの魂が反発した際、それぞれの魂に「一体であった頃の記憶」が半分残り、それが各々の肉体を変化させたのだ。
しかし、アストリアにとってこの新しい感覚は耐えがたい痛みと混乱を伴っていた。
彼は地面に這いつくばりながら、頭を抱えて呻き声を上げていた。
「う、うぅ……頭が割れそうだ……!」
セラフィスはそんなアストリアを一瞥し、すぐに足を引きずりながらギルバートのもとに向かった。
「ギルバート、今のうちです....。」
セラフィスは彼に手を差し伸べながら言った。
「早く、逃げましょう.....。」
ギルバートは驚きながらも、セラフィスの真剣な目を見て頷いた。
「すまない……。」
ギルバートはセラフィスの肩を支えながら、杖を掲げた。
空気が歪み、二人の姿が薄れていく。
「おい、待て!待てーッ!!」
アストリアは這いつくばりながらも手を伸ばし、必死に叫ぶ。
「逃げるな、ギルバート!!」
「待って!セラフィス!」
マチルダは急いで、彼の跡を追おうとする。
しかし、彼らの目の前でセラフィスとギルバートの姿は完全に消えた。
「くそっ……!」
アストリアは地面を拳で叩きつけた。
その怒りと無力感に満ちた声だけが、静まり返った森に響いていた....。
村を追われるように立ち去る一行の背中には、罪悪感と疑念がまとわりついていた。
「もう、あの村には戻れねぇな…。」
アストリアがぽつりと呟いた。
その時、行く手を遮るように現れた人影が一行の足を止めた。
「誰だ!」
アストリアは剣を引き抜き、目を細めて警戒する。
人影はふらつく足取りで近づいてくる。
やがてその顔が月明かりに浮かび上がった。
その顔には疲労と苦痛が刻まれていた。
「例の黒フードの男....!」
ローハンが斧を構え、臨戦体制に入る。
「ギルバート!」
アストリアが叫ぶ。
「お前がハウロンを....!これ以上好き勝手に"怒の魂"を悪用させない!!"怒の魂"を渡せ!!!」
ギルバートは深く息を吐き、首を横に振った。
「・・・それは……今は、彼女の中にある。」
彼が指を指す先にはマチルダがいた。
「なっ……!」
マチルダの顔が青ざめる。
全員が驚愕の色を浮かべる中、セラフィスの声がアストリアの頭の中に響いた。
『待て、アストリア!』
セラフィスの冷静な声が状況を分析する。
『それが....。ギルバートからも、マチルダからも“怒の魂”の波動は感じられない……。それどころか、ギルバートの魂は暖かさと優しさで包み込んでくるようだ...。』
「どういうことだ?」
アストリアは眉をひそめるが、ギルバートは話を続ける。
「マチルダ、君は俺よりも強い。絶対に“怒の魂”の支配に負けるな。打ち勝つんだ。君ならできる。」
その言葉に、マチルダは一瞬目を見開いたが、すぐに目を伏せてしまった。
「ふざけるな!」
アストリアはギルバートを睨む。
「どういう小細工をしている?“怒の魂”をどこに隠した?」
そう言うなり、剣を構えた。
「セラフィス、俺に憑依して、"スキャンニング"を頼む!」
『待て、アストリア!彼には何か事情がありそうだ!!』
セラフィスが叫んだが、今のアストリアの心には届かない。
『セラフィス、早くしてくれ!』
アストリアはギルバートの声のする方へ走る。
「もういい!」
そう言いながら、彼は剣を振り下ろす。
ギルバートは手負いながらも、必死に防衛呪文を唱えた。
その瞬間、彼の周囲にかすかな光の壁が生じ、アストリアの剣を辛うじて防ぐ。
『待ってくれ、アストリア!!!』
セラフィスがさらに声を張り上げる。
「うるさいッ!!!」
アストリアは己の信じる正義感に突き動かされるように剣を握り直し、迷いを振り払って再びギルバートへと突き進む。
「ハウロンの仇は俺が打つ!!」
その瞬間、セラフィスの声が頭の中で響き渡る。
『やめろォー!!アストリアー!!!』
しかし、その叫びは届かなかった。
「これで決める!フルメン・デ・・・」
アストリアが必殺技を繰り出そうとしたその時、異変が起こった。
突如として彼の身体が軽くなり、地面に膝をついた。
身体に妙な違和感がある。
彼が息を切らしていると、突然視界が揺らいだ。
「何だ....?」
その瞬間、彼の目にぼんやりと光が差し込んだ。
「な、なんだ……これ……」
アストリアは目を見開いた。
目の前にもう一人の自分らしき人物が転がっている。
今まで見えなかった世界が、微かにではあるが色を持って映り始めていた。
「……見えるのか....?」
彼は戸惑いながらも、震える手を伸ばして周囲を確かめた。
一方で、アストリアから分離したセラフィスは、半透明ではなく、明確な実体を持ち始めていた。
彼は足を引きずりながらも、自力で立ち上がることが出来た。
「……な、何故だ....?」
セラフィスは静かに呟いた。
長年、彼らの魂は絶妙な波長で共鳴を果たし、バランスを保っていた。
例えるなら、磁石の同極だ。
それが、今、互いに正反対の感情を抱いたことで、一気にバランスが崩れた。
いわば、両者は磁石の対極の存在になった。
セラフィスの「健康な視力」とアストリアの「健康な足の力」──。
互いの魂が反発した際、それぞれの魂に「一体であった頃の記憶」が半分残り、それが各々の肉体を変化させたのだ。
しかし、アストリアにとってこの新しい感覚は耐えがたい痛みと混乱を伴っていた。
彼は地面に這いつくばりながら、頭を抱えて呻き声を上げていた。
「う、うぅ……頭が割れそうだ……!」
セラフィスはそんなアストリアを一瞥し、すぐに足を引きずりながらギルバートのもとに向かった。
「ギルバート、今のうちです....。」
セラフィスは彼に手を差し伸べながら言った。
「早く、逃げましょう.....。」
ギルバートは驚きながらも、セラフィスの真剣な目を見て頷いた。
「すまない……。」
ギルバートはセラフィスの肩を支えながら、杖を掲げた。
空気が歪み、二人の姿が薄れていく。
「おい、待て!待てーッ!!」
アストリアは這いつくばりながらも手を伸ばし、必死に叫ぶ。
「逃げるな、ギルバート!!」
「待って!セラフィス!」
マチルダは急いで、彼の跡を追おうとする。
しかし、彼らの目の前でセラフィスとギルバートの姿は完全に消えた。
「くそっ……!」
アストリアは地面を拳で叩きつけた。
その怒りと無力感に満ちた声だけが、静まり返った森に響いていた....。
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