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第二部
第21話: 魔獣と共存する村
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「クライアイスランド」を目指しギルバートを追っていたアストリア一行は、途中で一つの村にたどり着いた。
村を囲む木々は赤褐色の葉を茂らせており、秋の終わりを告げる冷たい風が吹き抜けていた。
しかし、村の中には穏やかで不思議な空気が流れていた。
そこには、普通の人間だけではなく、背に翼を持つハーピーや、鋭い牙を覗かせるライカンスロープ、さらには、二足で歩く魔獣達の姿があった。
どの住人も互いに笑顔を交わしながら、仲睦まじく共に暮らしているようだった。
「ここ、すごいな……」
ローハンは目を見開き、驚嘆の声を漏らした。
「魔獣と人間が、こんな風に共存している村があるなんて。今まで旅してきたどの場所とも違うな。」
とアストリアもまた、感心したように呟く。
村の中央にそびえる大きな木の下では、一際大きなミノタウロスの男が住民達に何か話していた。
褐色の毛並みに覆われた巨体は威圧的でありながらも、その眼差しにはどこか柔らかさが感じられる。
「あの方がこのステレ村のリーダー、ハウロン様だよ。優しくて頼りになるお方さ」
と、通りすがりの村人が教えてくれた。
一行は村の案内を受けながらハウロンのもとを訪れた。
近づくほどにその大きさが際立つ彼に、アストリアでさえ多少緊張を覚える。
しかし、ハウロンがにこりと微笑むと、重厚で温かな声が響いた。
「遠いところをよく来たね、旅人たち。私はハウロン。この村を束ねる者だ。我々はこの北の地で長らく外界から離れ、平和を保ってきた。何か困りごとがあれば、遠慮なく言ってほしい。」
その威風堂々たる姿とは裏腹に、ハウロンの態度は柔和そのものだった。
疲れが溜まっていた一行は、彼の好意に感謝しながら、ご馳走になった後はゆっくりと休んだ。
──────────────────
秋風がそよぎ、赤褐色の葉が散りゆく中、アストリアとハウロンは、ステレ村の広場に座っていた。
村の住人達が和やかに笑い声を交わす光景は、一行にとってどこか夢のようだった。
人間の子供がライカンスロープの手を握りながら遊び、ハーピーが農作業を手伝う様子は、これまでの旅路では見たことのない平和な世界だった。
ローハンは子どもの相手が本当に上手だ。
早くもハーピーの子ども達に気に入られている。
「こんな風に魔獣と人間が一緒に暮らしてる場所があるなんてな……」
アストリアが感嘆したように呟くと、近くに立っていたハウロンが暖かく笑った。
「この村は特別さ。長い間、外界から切り離されていたから、余計な争いごとに巻き込まれることもなかった。だからこうして穏やかに暮らせているんだよ。」
その言葉を聞きながらも、アストリアは何かが引っかかっている様子だった。
しばらく村を見回した後、彼はついにその胸の内を口にする。
「俺、ずっと勘違いしてたかもしれないな。小さい頃からずっと、親からは『魔獣は敵だ』って教えられてたんだ。だから、魔獣ってのは悪いやつしかいないんだって、当然のように思ってた。でも……ここに来て、それが間違いかも、って気がしてきた。」
ハウロンは、静かに話を続ける。
「そう思うのは当然だ。君達人間だけじゃない。魔獣の多くも、同じように『人間は敵だ』と教えられて育つ。お互いを理解しないまま、相手を恐れたり憎んだりしてしまう。だが、こうして共に生きることができると知れば、そんな憎しみは自然と消えていくものだよ。」
アストリアはハウロンの話に耳を傾けながらも、まだ納得がいかない様子だった。そして、少し悩んだ後、問いを投げかけた。
「じゃあ……もしお互いが理解し合えるって分かってるなら、なんで魔獣と人間は争い続けるんだ?共存できるはずだろ?」
その問いに、ハウロンは短い息を吐き、青空を見上げた。
赤褐色の木々が風に揺れ、葉がひらひらと地面に舞い落ちる。
その光景を見つめながら、彼は低い声で語り始めた。
「それはね……どちらも自分達の方が『正しい』と思い込んでいるからさ。」
アストリアは眉をひそめた。
「正しい……?」
「そう。どちらも、自分達が正義だと信じて疑わない。そして、正義のためなら戦うのも仕方ないと思ってしまう。人間は『魔獣は危険だ。だから倒すのが正しい』と思う。魔獣も『人間は俺達を迫害する。だから奴らを滅ぼすのが正しい』と思う。それぞれが自分の正義のために戦う。だが……」
ハウロンはふと視線を落とし、アストリアを見つめた。
「その『正義』が何なのかを考えないまま、どちらも剣を振り下ろす。そして血を流し合い、戦争は終わらないんだ。」
その言葉は静かながらも力強く、一行の胸に響いた。
しばしの沈黙が続く中、アストリアは拳を握りしめ、地面を見つめた。
「正義のために戦う……けど、その正義が相手を苦しめてるかもしれないってことか……」
「そうだ。だから、君達がこうして旅をしながら多くのものを見て、多くの人や魔獣と出会うのは、とても大切なことだよ。君達が新しい道を示すことだって、きっとできるはずだ。」
ハウロンの言葉には確かな信念が感じられた。
それに応えるように、アストリアは顔を上げ、真っ直ぐにハウロンを見つめた。
「……分かった。俺達の旅が何を意味するのか、もう一度ちゃんと考えてみるよ。」
ハウロンは満足げに微笑み、軽く頷いた。
その背中は、村を包み込むように頼もしく映っていた。
村を囲む木々は赤褐色の葉を茂らせており、秋の終わりを告げる冷たい風が吹き抜けていた。
しかし、村の中には穏やかで不思議な空気が流れていた。
そこには、普通の人間だけではなく、背に翼を持つハーピーや、鋭い牙を覗かせるライカンスロープ、さらには、二足で歩く魔獣達の姿があった。
どの住人も互いに笑顔を交わしながら、仲睦まじく共に暮らしているようだった。
「ここ、すごいな……」
ローハンは目を見開き、驚嘆の声を漏らした。
「魔獣と人間が、こんな風に共存している村があるなんて。今まで旅してきたどの場所とも違うな。」
とアストリアもまた、感心したように呟く。
村の中央にそびえる大きな木の下では、一際大きなミノタウロスの男が住民達に何か話していた。
褐色の毛並みに覆われた巨体は威圧的でありながらも、その眼差しにはどこか柔らかさが感じられる。
「あの方がこのステレ村のリーダー、ハウロン様だよ。優しくて頼りになるお方さ」
と、通りすがりの村人が教えてくれた。
一行は村の案内を受けながらハウロンのもとを訪れた。
近づくほどにその大きさが際立つ彼に、アストリアでさえ多少緊張を覚える。
しかし、ハウロンがにこりと微笑むと、重厚で温かな声が響いた。
「遠いところをよく来たね、旅人たち。私はハウロン。この村を束ねる者だ。我々はこの北の地で長らく外界から離れ、平和を保ってきた。何か困りごとがあれば、遠慮なく言ってほしい。」
その威風堂々たる姿とは裏腹に、ハウロンの態度は柔和そのものだった。
疲れが溜まっていた一行は、彼の好意に感謝しながら、ご馳走になった後はゆっくりと休んだ。
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秋風がそよぎ、赤褐色の葉が散りゆく中、アストリアとハウロンは、ステレ村の広場に座っていた。
村の住人達が和やかに笑い声を交わす光景は、一行にとってどこか夢のようだった。
人間の子供がライカンスロープの手を握りながら遊び、ハーピーが農作業を手伝う様子は、これまでの旅路では見たことのない平和な世界だった。
ローハンは子どもの相手が本当に上手だ。
早くもハーピーの子ども達に気に入られている。
「こんな風に魔獣と人間が一緒に暮らしてる場所があるなんてな……」
アストリアが感嘆したように呟くと、近くに立っていたハウロンが暖かく笑った。
「この村は特別さ。長い間、外界から切り離されていたから、余計な争いごとに巻き込まれることもなかった。だからこうして穏やかに暮らせているんだよ。」
その言葉を聞きながらも、アストリアは何かが引っかかっている様子だった。
しばらく村を見回した後、彼はついにその胸の内を口にする。
「俺、ずっと勘違いしてたかもしれないな。小さい頃からずっと、親からは『魔獣は敵だ』って教えられてたんだ。だから、魔獣ってのは悪いやつしかいないんだって、当然のように思ってた。でも……ここに来て、それが間違いかも、って気がしてきた。」
ハウロンは、静かに話を続ける。
「そう思うのは当然だ。君達人間だけじゃない。魔獣の多くも、同じように『人間は敵だ』と教えられて育つ。お互いを理解しないまま、相手を恐れたり憎んだりしてしまう。だが、こうして共に生きることができると知れば、そんな憎しみは自然と消えていくものだよ。」
アストリアはハウロンの話に耳を傾けながらも、まだ納得がいかない様子だった。そして、少し悩んだ後、問いを投げかけた。
「じゃあ……もしお互いが理解し合えるって分かってるなら、なんで魔獣と人間は争い続けるんだ?共存できるはずだろ?」
その問いに、ハウロンは短い息を吐き、青空を見上げた。
赤褐色の木々が風に揺れ、葉がひらひらと地面に舞い落ちる。
その光景を見つめながら、彼は低い声で語り始めた。
「それはね……どちらも自分達の方が『正しい』と思い込んでいるからさ。」
アストリアは眉をひそめた。
「正しい……?」
「そう。どちらも、自分達が正義だと信じて疑わない。そして、正義のためなら戦うのも仕方ないと思ってしまう。人間は『魔獣は危険だ。だから倒すのが正しい』と思う。魔獣も『人間は俺達を迫害する。だから奴らを滅ぼすのが正しい』と思う。それぞれが自分の正義のために戦う。だが……」
ハウロンはふと視線を落とし、アストリアを見つめた。
「その『正義』が何なのかを考えないまま、どちらも剣を振り下ろす。そして血を流し合い、戦争は終わらないんだ。」
その言葉は静かながらも力強く、一行の胸に響いた。
しばしの沈黙が続く中、アストリアは拳を握りしめ、地面を見つめた。
「正義のために戦う……けど、その正義が相手を苦しめてるかもしれないってことか……」
「そうだ。だから、君達がこうして旅をしながら多くのものを見て、多くの人や魔獣と出会うのは、とても大切なことだよ。君達が新しい道を示すことだって、きっとできるはずだ。」
ハウロンの言葉には確かな信念が感じられた。
それに応えるように、アストリアは顔を上げ、真っ直ぐにハウロンを見つめた。
「……分かった。俺達の旅が何を意味するのか、もう一度ちゃんと考えてみるよ。」
ハウロンは満足げに微笑み、軽く頷いた。
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