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第一部: "喜の魂"争奪戦

第17話: 罠

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 ローハンは日に日に衰弱していく。

 アストリアは肩を落とし、焦りを感じていた。

 マチルダが再び姿を消してから数日、彼女が何をしようとしているのか、全く見当がつかない。

「それじゃあ、どうすればいいんだ?」

 彼はセラフィスに頼み込んだ。

『セラフィス、君の力で"喜の魂"の在り処を探れないか?』

『言われなくても、何度もやってるよ!』
 
 いつも冷静なはずのセラフィスの声に焦りがこもっている。

 その時──

「アストリア、危ない!!」

 セラフィスがアストリアに憑依すると同時に、

 ズドン!

 突然、遠くから轟音が響き、村の中心部が騒がしくなった。

 火の手が上がり、人々の悲鳴が空気を裂く。

「な、なんだ!?」

「敵襲だ!」

 村人達の叫び声とともに、武装した兵士達が現れた。

 甲冑の紋章は明らかにノルヴィア王国のものだ。

ってノルヴィア国のことだったのか!」
 
 セラフィスは怒りに燃える瞳で呟いた。思い当たるのは一つしかない。

 マチルダを尾行した兵士が、自分達の居場所を突き止めたのだ。

 セラフィスは急いで立体図面をアストリアの脳内に転送する。

「くそっ…多すぎる!」 

 アストリアは汗だくになりながらも必死に剣を振るう。

 しかし、兵士達の包囲網は狭まり、絶体絶命の状況が迫る。

 その時だ。

 空気が急に冷たくなり、辺りが暗い影に覆われた。

 村の奥から黒いマントを纏った男がゆっくりと歩み出てきた。

「久しいな、アストリア。」

 その声に、アストリアの目が見開かれる。

「お前は…あの時のネクロマンサーか!」

 かつて旅の途中で彼らが娘の命を救った、謎の魔術師。

 彼の登場に、アストリアは驚きながらも一抹の希望を感じた。

 ネクロマンサーは冷静に指を鳴らすと、黒い霧が兵士達を包み込み、甲高い悲鳴が響き渡る。

「これ以上この村を荒らすことは許さない。」

 そう言うと、彼は紫色の水晶を掲げた。

 水晶から目を覆う程の眩い光が発せられた。

「なんだ、この光は!?」

「魔術か!?退け!退けぇ!」

 恐怖に駆られた兵士達は次々と逃げ出し、村から撤退していった。

 再び静寂が訪れた頃、ネクロマンサーはアストリアに向き直り、微笑を浮かべた。

「実は私は陰ながらお前達を見守っていた。お前達がいなければ、今頃娘は....。」

 アストリアは剣を納め、額の汗を拭いながら礼を言った。

「ありがとう、助かった。ところで、その水晶で"奇跡の涙"という宝石を見つけることは出来るか?」

「申し訳ないが、それは出来ない。"奇跡の涙"は、非常に強力な結界に包まれておる。私の水晶のような通常の魔術具では干渉することが出来ないのだ。」

「・・・・・そうか....。」

 アストリアはその言葉を聞いて落胆したが、深呼吸をして自分を落ち着けた。

 だが次の瞬間、彼の心にある疑念が浮かんだ。

「待てよ……ノルヴィア王国が俺達を狙ってきたってことは、つまり.....!」

 彼は、マチルダの身に危険が迫っていることを直感で感じ取った。

「それなら、"奇跡の涙"は探せなくても、マチルダや"喜の魂"は水晶で探知出来る?」

 アストリアは険しい表情で聞いた。

「魂のような概念的存在は無理だが、物質の探知までは可能だ。」

 そう言うと、ネクロマンサーは水晶に両手をかざした。

「妙だ.....。あの娘さんは確かに存在するのに....。」

 一同は唖然とする。

「マチルダが何処にもいないだって……そんなことがあるわけない!」

 アストリアの声に震えが混じっている。

『ど、どういうことなんだ....。』

 自分の力が及ばない場所での出来事に、セラフィスは自分の無力感に打ちひしがれた。

「俺達をそこまで連れて行ってくれないか?」

 アストリアは真剣な眼差しでネクロマンサーを見つめた。

 ネクロマンサーは俯きながら言う。

「城の近くまでは送れるが、それ以上は無理だ。私の魔術では城の結界を破れん。」

「十分だ、助かる。」

 アストリアは、そそくさと礼を言う。

「娘は治癒魔法に長けている。ドワーフは娘が責任を持って看病しよう。暫くは持ち堪える筈だ。」

 ネクロマンサーはそう言うと両手を広げた。

 瞬く間に漆黒の霧が広がり、空間が歪み始めた。

 耳元で囁くような声が聞こえ、次の瞬間──

 目の前には巨大な城門がそびえ立っていた。

 セラフィスがアストリアに憑依して、"スキャニング"を開始。

 「見えた……!」

 セラフィスの声が鋭く響く。

「微弱な波動だが、"喜の魂"に間違いない!」
 
 セラフィスの声が心に響いた瞬間、アストリアの脳内に光が差し込むような感覚が走った。

 城の立体図面の奥深くに、微かだが確かに暖かい波動がはっきりと見える。

『そこに行けば、きっと謎が解ける!』


──────────────────

 ルドルフは薄暗い廊下を闊歩しながら、小壺を軽く揺らして笑みを浮かべた。

 壺の中で"喜の魂"が薄暗い輝きを放ち、まるで囁くような音が漏れ出す。

「さァて、どこに飾ろうか……。」
 
 その声には、狂気と愉悦が入り混じっていた....。


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