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本編
15.
しおりを挟む事実を語っていると断言するエリザベートに、メアリーがそんなことは有り得ないでしょと馬鹿にした表情を浮かべた。
ちなみに、同じ乙女ゲームを起点として世界を渡った日本人は、彼女達三人以外にも多数確認されている。名前を覚えていた学術都市へ学びに来ている転生者もいるわけだが、彼等と出会っていれば運命は変わっていたのかいないのか。
そんなの関係ないと、我が道を行くだけだった気がしないでもないか。
ちなみに因みに、初代皇帝とは戦乱の大地を纏め上げていく戦略シミュレーションゲームを通じて世界を渡った転生者だったと、リルフレア侯爵家に愛娘が書き上げた立志伝が残されている。
「ちなみに、宰相令息の婚約者として作中に登場していた侯爵令嬢とは、わたくしが同じ名前ですけど――」
「あんたが悪役令嬢か! あんたがちゃんと原作通りに動かないせいで!」
アイリーンの言葉を遮り、再びメアリーが怒りをまき散らす。
「話を聞かない人ですねぇ……、乙女ゲームを具現化した世界ではないと説明されたでしょう」
こちらの世界が先なのだと、溜め息交じりで続ける。
「こちらの世界で、宰相令息君と幼少期に知り合っていたなんてこともありませんし、未だに話したことすらありませんよ。婚約のコの字も出てきていないのですから、都合の良い強制力なんてないことが分かりますよね?」
あんなヤツはお断りですと、アイリーンの反論に気持ちがちょっと乗った。
乙女ゲームのシナリオは家柄などからこうなるかもしれないと、こうすると興味を引けるかもしれないと構築させられていただけ。アーガイン侯爵家とヤイハンス伯爵家は領地も遠く、親密になるような間柄ではない。
そんな事情を理解している彼女からすれば、婚約者とされていたことの方が信じられないくらいである。
ちなみに、シナリオ通りというのであれば、卒業を祝した舞踏会で起きる婚約破棄イベントは存在していなかった。結ばれた相手と楽しく踊る豪華絢爛な挿絵が添えられる、それだけのエンディングで勝手に違うことを始めたのは彼女の方だったりするわけだ。
「改めて言いますけど、乙女ゲームの世界観とこちらの世界は別物ですよ」
そう言いながら、メアリーの小言ばかり鬱陶しいという表情を見て、エリザベートが納得したと頷く。
「ああ、なるほど、なるほど。今回のように親切心から忠告していることを悪役令嬢の仕業と勘違いしたのかもしれませんね。同じ元日本人として、良かれと思って情報を教えて上げていたのですけど」
自由奔放な彼女の反応が読みにくく、遠回りの探り合いでは伝わらなかった。
ただし、知っていることを全て伝えようとしていても上手くいかなかったかもしれない。結局、輝かしい未来のために協力しろと、利己主義的なことを言い出していた気がするから。
「二人して騙したいのかもしれないけど、そうはいかないわよ! あたしはこの世界の主役なんだから、思い通りになって当然でしょ!」
一人で納得している様子に、上から目線が腹立つとメアリーが噛み付く。
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