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本編
12.
しおりを挟む「当然、あなた方の行動にわたくしが嫉妬するなど、そんなことあり得ないわけですよ」
勘違い甚だしいと吐き捨てて、エリザベートが続けて爆弾を投げ付ける。
「さらに、わたくしが知っていることを付け加えるならば、殿下には特定の婚約者がいらっしゃらないはずですよ」
「はぁ……? 何を馬鹿なことを……」
リグレット王国を含む周辺の王家は、他の貴族の婚約をいたずらに遅らせないよう、出逢いの場ともなる魔法学院へ入学する前に婚約者を発表してきた。
そういう慣例から相手を教えられていない、教えられるはずがないにも関わらず、当然自分にも婚約者がいると王子は思い込んでいた。そこへ転生者メアリーの勘違いが絡んできたことから、彼等の中で見事な妄想が加速していったわけだ。
「それが陛下から伺った事実ですから、そこの男爵令嬢と親しくしたいならば、勝手になさればよろしいでしょうと思っておりますのよ。おそらく、全員が思っていたことではないでしょうかね」
エリザベートが同意を求めて見渡すまでもなく、多くの学院生が興味ないと頷いている。
リグレット王国の評判として、外れ王子扱いされていることは知られていた。積極的に声を掛けていたのが、乙女ゲームの印象しか持ち合わせていない男爵令嬢くらいだった。
「そして、ここまで国家間の問題となりそうな主張を重ねられてきたわけですから、陛下も好きにすれば良いと認めてくださるかもしれませんねぇ」
「え、そんなの意味ないじゃない……」
エリザベートの言い回しから、意味ありげに向けられた視線から、悪役令嬢の逆転物語を読んだことのあるメアリーが王子の転落する可能性を初めて認識した。
ようやく手が届きそうになった王妃という立場が、するりと滑り落ちていく展開だと理解した。
だが、元からそんな立場が手に入る未来など皆無だったということには、もちろんまだ気が付いていない。
「さてと、舞踏会の開始を遅らせることも問題となるでしょうから、……キャロル」
「はい、こちらに」
主人に小さく名前を呼ばれて、静かに整列していた騎士を従えメイド服を着た茶髪の女性が進み出た。
「では、段取り通りに、……《魔法鎖の束縛》」
侍従の動き出しを確認したエリザベートが、王子達に聞こえないよう拘束の魔法を唱えた。
突然右手を上げた彼女を見ていた対象者それぞれの足元に魔法陣が光りだし、そこから魔力の鎖が数本絡み付いていく。
「「「な、何だ!」」」
「何よぉ~」
「何をする!」
発光する魔力の鎖に絡み取られ、驚きの表情のまま抜け出そうと身体を揺すり始めた。
「お静かに」
「「「クッ、クソッ!」」」
メイド服を着たキャロルの言葉などには従えないと、無視する王子達は力を込めて暴れ続ける。
ちなみに、エリザベートの使用した拘束魔法は、その難易度から基礎の基礎、初級魔法にランク付けされている。
一部の者を除いて魔法を唱えられないという制限がある宮殿内部でも、身体に宿る魔力を用いて抵抗することはできる。魔法学院を普通に卒業する学院生ならば、初級ランクの拘束魔法くらいなら、遅くとも十秒ほどで破れる効果しかないはずだ。
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