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本編
5.
しおりを挟むその瞬間である、握り締めていたタオルケットとシーツの向こう側で、揺らぐように雰囲気が変わったことを感じた。
「――ッ、まさかっ!」
急ぎ立ち上がる動きへ合わせるように、寝具から半透明の何かがその姿をぬるっと現す。
「……うーわ、マジで出ちゃったよー」
目の前に浮かぶ薄い青色、二十インチほどのメニュー画面である。その上部左側には、小さくステータスとアイテムボックスというタブが並んでいる。
乙女ゲームの作中で、ステータスを表示するためには『menu』ボタンを選択する必要があった。その名残であるのかないのかを知る術はないが、とにかくそれっぽい表示が出てしまったとルーカスは溢した。
「えーと、ステータス画面には自分の名前に職業、HPにMP、攻撃力、防御力、魔法力、抵抗力、行動力かぁ、ますますゲームの世界っぽいじゃんよー」
ステータス画面の左側にはルーカスのパーソナルデータが、右側には個人の習得しているスキルがいくつか確認できる。
ちなみに、何かの儀式が必要になるのか、そのうち生えてくるのか、疑問だらけの彼の職業欄には何の表記もない。
「レベル一なのは妥当だとして、この行動力って何だ? マス目を移動して攻撃するためとか? でも、最初から十マス進めるとかは、さすがにないよな……」
彼の攻撃力から行動力まで十ポイントで揃っているところも、判断しにくくしているところだろう。
ただし、ルーカスが護衛騎士から魔物と戦うところを聞いている分には、そういうターン制のような約束事はなさそうな感じであった。
「魔法力と抵抗力が魔法関係の数値だと考えれば、普通に動きの速さ的な指標になりそう、なのかな。……それで、下の方が空いているのは主人公だけの情報があるとかかな」
指を顎に添えて悩むルーカスの推測通りに、乙女ゲームの主人公フィリア・ミントのメニュー画面ならば、各攻略対象者の好感度が示されていた。
この辺りの思考には、自分は主人公とかなりたくないという彼の忌避感が影響している可能性はあるかもしれない。
ちなみに、関係していない彼の画面が縮小されていないのは、アイテムボックスの表示画面が影響している。メニュー画面を自分で確認できる者は、全員が同じ大きさで表示されるのだ。
このとき彼が確認できなかったアイテムボックスは、その画面に押し当てることで収納する、画面に手を突っ込むことで引っ張り出す。そのため、程良い大きさが確保されている。
こちらの世界で手に入る大小様々なアイテムが収納できる。生命活動を終えていれば魔物の食材や素材、加工品の食料や装備品、思い出の品を大事に取っておくだって可能だ。
特に、下へスクロールしていくことで表示されていく収納欄が、ルーカスは一般の平均より圧倒的に多いことが判明して、のちのダンジョン探索で大いに活躍することになる。
「坊ちゃん、起きてますか?」
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