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社交界
しおりを挟む「お嬢様、そろそろどちらに出席するのかお決めになりませんと」
「そうね……」
私とアンヌは困り顔で、机の上に積まれた招待状の山を見ていた。
私が修道院へ通い詰めている間に、帝都では社交シーズンが盛期を迎えようとしていた。
「全てに出席するのはとても無理だわ。とりあえず親しくさせていただいている方を優先に──」
「どうされました?」
見覚えのある封筒が目に留まる。
上質な白の封筒に金の縁取り。
(皇宮からだわ)
慎重にペーパーナイフで開封すると、そこには皇宮で開かれる舞踏会へ、私を招待する旨が記されていた。
勿論強制ではないため、欠席することは可能だ。
今公の場に出れば、好奇の目に晒されることは間違いない。
けれど、いつまでも社交を疎かにすれば、今後の未来に悪影響が出る。
エルベ侯爵家を継ぐのは二人の弟のうちどちらかだ。
小姑がいつまでも実家に居座れば、いつか必ず弟たちの幸せの邪魔になる。
私も遠からず誰かと婚約し、家を出なければならない。
そういった縁を作るためにも、重要な場である。
幸いというか、レティエ殿下が社交の場に姿を現すのは必要最低限の範囲だけ。
(少し顔を出して、すぐ戻れば大丈夫よね)
「アンヌ、ドレスを選ぶから手伝ってくれる」
「はい!」
毎年社交シーズンに合わせてドレスを新調するのが常だったが、今回は帝国内の状況も鑑みて、仕立てるのをやめたのだ。
戦禍の煽りを食って困窮する民のことを考えると、なんだか申し訳ない気持ちになってしまって。
しかし、手持ちのドレスで出席となると、それはそれで面倒な事がある。
清貧を美徳と口では言うものの、なんだかんだケチをつけたがる貴族が大勢いるのだ。
『エルベ侯爵家はドレス一着仕立てるお金もないのかしら』なんて、扇の裏でひっそりと嘲笑う御婦人方の姿が目に見えるようだ。
アンヌの並べてくれたドレスの中から、あまり頻繁に着ていない物を見繕う。
「こちらなどはいかがでしょう」
アンヌが手に取って見せたのは、上品なベージュのサテン地に、赤い小花の刺繍が散らされたドレス。
袖口には、布地とお揃いの、ベージュに染められた絹糸で編まれた繊細なレースが、たっぷりとあしらわれている。
花の中心には赤い宝石が縫い留められており、ドレスが揺れる度、周囲にきらきらと輝きを放つ。
これは去年仕立てたもので、まだ流行も過ぎてはいない。
社交の場にはお誂え向きの品だが……少々複雑な気分であった。
(このドレス……レティエ殿下の印象をそのまま形にしたのよね……)
さらにドレスに合わせ、宝石類も一式揃えてしまったのだ。
レティエ殿下の瞳の色をした宝石を。
(我ながら、恐ろしくなるわね)
恋心とは、時に人を愚行に走らせる。
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