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リアム③
しおりを挟むそれぞれの騎士団には、国が建てた宿舎と訓練場が与えられている。
てっきり第一騎士団専用の宿舎に入るものだと思っていたのだが、リアムが来るように指定されたのは、ジェラルドの屋敷だった。
エズモンド伯爵家とは比べ物にならない格式高い門構えに戸惑っていると、中からこちらへ向かって歩いてくる男が見えた。
使用人かと思ったが、身なりからしておそらく違う。
少しずつ距離が縮まり、男の正体に気づいたリアムは驚愕した。
「おう、きたか」
「ジェラルド団長!?」
なんとリアムを出迎えたのは、ジェラルド本人だった。
まさか団長自らが迎えにくるなんて。
驚くリアムにジェラルドは笑いながら、新入りが来た時はいつもそうしているのだと話した。
邸内に足を踏み入れると、そこには貴族の屋敷とは思えない珍しい光景が広がっていた。
敷地内に建つ左右対称の建物。
ひとつは貴族の屋敷らしい重厚な造りで、もうひとつはまるで宿舎のようだ。
そしてふたつの建物の間には、よく手入れのされた美しい庭園があるのだが、そこにはなぜか、上半身裸で訓練する男たちが。
目を丸くするリアムにジェラルドは、これが日常なのだと笑った。
庭園にいた男たちは、ジェラルドに気づくと一箇所に集まり礼をした。
「今日から入るリアムだ。よろしく頼むぞ」
ジェラルドに背を押され、団員たちの前に立つ。
好奇の目を向けてくる団員たちの身体はとにかく大きくて、身がすくむ思いだった。
「これが団長の見つけた逸材ってやつですね!」
ある団員が発したひと言に、リアムは目を丸くした。
逸材なんて、そんなことあるわけない。
きっと彼らの言う“逸材”とは、額面通りの意味ではない。
滅多に現れない落ちこぼれに対し、良い言葉を使って暗に揶揄しているのだろう。
しかしそんなリアムの心情を読んだかのように、ジェラルドが口を開いた。
「その通りだ。リアムはまだ未熟だが、光るものを持っている。これからお前たちの後ろ姿を追って大きく成長するだろう。頼んだぞ」
リアムは耳を疑った。
ジェラルドの言葉は勿論だが、それを聞いて「リアムは俺等が立派に育てるぞ」とか「早速リアムに合わせてトレーニングのメニューを──」などと、団員たちが張り切りだしたからだ。
さっき耳にしたのは、揶揄ではなかったのだ。
これまでリアムの周りには、利己的で、自分と他者を比べては貶すような人間しかいなかった。
けれど、この場所は違う。
リアムは隣に立つジェラルドを見上げた。
騒ぐ団員たちを見守るジェラルドからは、まるで父親のような温かさを感じる。
「皆気の良い奴らだ。よろしくな」
「は、はい!」
まるで、居場所を与えられたような安心感。
こうしてリアムは騎士見習いとしての一歩を踏み出したのだった。
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