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フィオナ④
しおりを挟む数日して、フィオナの元にキャロルから書簡が届けられた。
そこには女性らしいやわらかな筆跡で、面会を了承する旨が綴られていた。
(よしっ!)
フィオナは強く拳を握り締めた。
あとはキャロルの協力を取り付けることさえできれば、すべては解決したようなものだ。
だがフィオナとの問題が解決したあと、ふたりがすぐ幸せになれるかといえば、それはまた別の問題だ。
騎士と王女の恋。
この先ふたりを待ち受けているのは生易しい道ではないだろう。
けれどキャロル……なによりリアムが幸せになるためなら、フィオナはなにがあってもふたりの味方をするつもりだ。
王城に着いたフィオナは、案内役の衛兵に連れられ回廊を進んだ。
いつもの動きやすいワンピース姿とは違い、貴族の令嬢として恥ずかしくない装いに身を包むフィオナは、柄にもなく緊張していた。
現状、キャロルにとってフィオナは、敵以外の何者でもない。
正直、面会を許可されたのも不思議なくらいだ。
(きっとキャロル王女は私の気持ちも勘違いしてらっしゃるはず)
色々と縺れてしまった糸を解かなければ。
「どうして……どうして私では駄目なのですか?」
一般の立ち入り区域を抜けたところだった。
キャロル説得に意気込むフィオナの耳が、悲しげに訴えかける女性の声を拾った。
声のした方に顔を向けると、そこにいたのは第二王女キャロルと──父だった。
(お父様!!なんでキャロル王女と!?)
ふたりはフィオナの存在には気づいていない。
キャロルに至っては周囲がまったく目に入っていないようで、切迫した雰囲気を感じる。
会話の内容が気になったフィオナは、咄嗟に案内役の衛兵を引っ張って、ふたりの声が聞こえる範囲の物陰に身を隠した。
「ジェラルド様……私のことがお気に召さないのであれば、はっきりとそうおっしゃってくださいませ!」
キャロルは今にも掴みかからんばかりの勢いで、自身の問いに対する回答をジェラルドに迫っている。
(信じられない……これがあのキャロル王女なの?)
慎ましくたおやかで、常に微笑みを絶やさない美しき第二王女キャロル。
だが、感情を剥き出しにして父に詰め寄る彼女は、普段国民に見せている姿とは別人のようだった。
「キャロル王女殿下を気に入らないなどと……そのようなことは決してございません」
「それならなぜ?なぜ私では駄目なのです!?」
「……殿下には隣国ザイールより縁談が……陛下が非常に乗り気で進めていらっしゃると」
それはフィオナも初耳だった。
「それは父が勝手に進めようとしているだけで、私は承知しておりません!」
「昨今ザイールの成長はめざましく、現国王並びにその御子息たちの評判もいい。また彼の国は戦を好まぬ友好的な民族です。殿下が嫁がれるのに、これ以上のお相手はおりますまい」
「私の気持ちを知っていながら、なぜそのように残酷なことをおっしゃるの!」
父は苦虫を噛み潰したような顔をして、言葉を詰まらせた。
キャロルはまだなにか言いたげだったが、これ以上話しても無駄だと思ったのか、早足でその場から立ち去って行った。
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